SNSの普及で情報の伝わり方が変わった!
ー今回のテーマはソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下、SNS)です。企業のソーシャルメディア活用が盛んに謳われていますが、中でも一般的なのがツイッターやフェイスブック、インスタグラムといったSNSの運用ですよね。個人利用も含めかなり普及しているとはいえ、これから導入を考えている企業もまだまだ多いと思います。企業アカウントを運用するうえで知っておくべきことを教えてください。
徳本●SNSを運用することにはメリットとリスクがあって、その両方を知っておくことが必要だと思うんだよね。
中野●たとえばどんなメリットですか?
徳本●一言でいうと、マスメディアにできなかった情報発信ができるということ。かつてはテレビ、新聞、ラジオ、雑誌、交通広告を押さえておけば、ほとんどの人にリーチできていた。でも今はもう、従来のメディアは個人にリーチできなくなっているんだ。
中野●その理由がSNSですか?
徳本●そう、最近では「つながりの経済」と呼ばれていたりするんだけど、今は自分の周りの人のSNS投稿から情報を手に入れて、そこから検索して詳しく調べて購入するって流れが当たり前になっている。中野くんは普段、どうやってニュースや情報を見ている?
中野●そう言われると、フェイスブックで知人がシェアしたニュースやブログ記事を見ることが多いですね。テレビはほとんど見ませんし、新聞にはざっと目をとおしますが、それも紙ではなくスマートフォンの画面でです。
徳本●なぜフェイスブックを使うの?
中野●それは、信頼できる知人が紹介する情報だからですね。その人が面白いというなら見てみよう、と思うんです。
徳本●つまり、キュレーションされているわけだよね。これが今の情報の取得方法なんだ。従来のマス(大多数)に向けた広告では、今の中野くんには十分なリーチができない。SNSの普及で、情報の伝達手段が変わってきているともいえるよ。
中野●徳本さんはいつ頃から情報発信の変化を感じていたんですか?
徳本●2008年か2009年頃かな。iPhoneが発売されて、ちょうど同じ頃日本でツイッターが流行り出して、これは情報発信の仕方と受け取り方がまるっきり変わるなという予感があったね。
ーマスメディアではリーチできないところに情報が届けられるメリットがあることはよくわかりました。ただ、結局のところマス向け広告と同じような情報をSNSに載せているだけという企業も多いです。
徳本●それではSNSのメリットを活かせているとはいえないよね。マス向け広告はメーカー視点でもいいけど、SNSで発信する情報はユーザ視点であるべきなんだ。
中野●どう違うんですか?
徳本●たとえば飲料水の広告を打つとして、成分がこれくらいだとか、そういうスペック情報を載せるのがメーカー視点。そうじゃなくて、朝飲むとこういう人にこういう効果があるよと謳うのがユーザ視点。
中野●でも、テレビや雑誌でもユーザ視点のCMを打つことはできませんか?
徳本●ある程度はできるよ。だけど、テレビや雑誌で100パターンの視点に立った広告が作れるかといったら無理だよね。マスメディアは広い層に向けた情報だから、間口を広げて大きくリーチするしかない。一方でSNSはもっと細かく、人々の興味関心に即した情報を流せるんだ。たとえば30代と40代と60代の人が同じクルマに乗っているとして、そのクルマを選んだ理由は決して同じじゃない。趣味嗜好なのか、ライフスタイルに合っているからなのか、千差万別だよね。それぞれの層に合わせて「このクルマを自分の生活に取り入れたい」と思わせるには、生活者に応じて最適な情報をSNSで流すことが必要不可欠になっているんだ。一方でマスメディアには、そのクルマ自体の認知を幅広い層に届ける役割がある。マスメディアとSNSは明確に違う役割を持っているんだ。
不用意な発信はネット炎上のリスクも
ーSNSを活用するメリットとポイントについてはよくわかりました。一方、SNS活用にはリスクもありますよね。その点はどう捉えたらいいでしょうか?
徳本●リスクというか、せっかく導入したのにさっきのユーザ視点ができていなくて、単なる宣伝告知用botみたいになってしまうと意味がないよね。担当者の手間が増えただけになってしまう。
中野●そこですよね。具体的に誰がやるのか、流す情報をどうやって決めるのかといった、運用上の面倒事は避けて通れません。
徳本●SNSはある程度、担当者のセンスによるところも大きいからね。たとえば、カメラのキタムラは担当者に投稿の内容を任せているから、ユニークな投稿がどんどん出てきて企業のファンを増やしている。
中野●担当者が投稿権限を持っていると、スピード感も違いますよね。
徳本●ただ、よくわかっていない担当者が権限を持つと、不用意な発言で炎上するリスクがあるのも事実なんだ。これを避けるためにはどうすればいいだろう?
中野●確実なのは、投稿する前に内容を上司にとおして承認をもらうことでしょうね。
徳本●だけど、それもどこまで確認するのって話にもなるじゃない。せっかくのユニークな投稿であっても角がとれてつまらなくなるし、何よりスピード感が失われてしまう。
中野●そうですね。しかし企業として炎上リスクを恐れるのも当然です。
徳本●そのあたりを導入時にきちんと考えておくことが必要だね。最終的には担当者に任せることを目標にして、最初のうちはチームでやってみたり、上司に確認をとってみたり、鍵付きアカウントで練習してみたりすればいいんだよ。慣れてくれば、担当者が個人のバランス感覚で投稿するようにすればいい。もっというと、担当者も製品によって変わってもいいよね。たとえば20代女性向けの製品なら、同じような社員が投稿したほうがよりユーザ視点に立った情報を発信できると思う。
中野●そのためには担当者1人だけでなく、全員のSNSリテラシーを上げる必要がありますね。
徳本●ソーシャルメディア・ポリシーをしっかり作っておく必要があるだろうね。
ーソーシャルメディア・ポリシーとは?
中野●その名のとおり、企業がSNSを運用する指針などをまとめたポリシーのことです。プライバシーポリシーと違って法律上作らないといけないものではないのですが、社員全体でSNS運用の方針を共有するために作成する企業は増えています。
徳本●有名なところだと、コカ・コーラのソーシャルメディア・ポリシーがあるね。
中野●「コカ・コーラを“代表して”語る場合と、コカ・コーラ“について”語る場合には、大きな違いがあります」とか、「否定的な投稿に対する対応は、専門家に任せて、自分の判断では行わない」とか、具体的で明確ですね。理想的なソーシャルメディア・ポリシーだと思います。
徳本●SNSを導入するなら、これを参考にして自社に合ったポリシーを作成するべきだと思うね。コカ・コーラのポリシーでは、企業だけでなく社員の個人アカウントについても言及しているのがポイントだよ。
中野●会社の機密情報や個人情報、芸能人などのプライバシーに関する情報を投稿してしまって炎上し、その影響が企業にも及んだ事例は数多く見てきました。
徳本●「芸能人がお店に来た!」とかいうやつだよね。あれって訴訟リスクがあるの?
中野●もちろんあります。実際に芸能人や企業が個人を訴えるかというと、そこまでいった話はあまり聞きませんが…。社員であれば、懲戒免職になるなどの社会的なリスクはあるでしょうね。
徳本●僕も春先によく企業研修なんかで講演をするんだけど、新入社員は皆LINE感覚でSNSを使っているからね。やはりソーシャルメディア・ポリシーを作って徹底することでしか従業員個人の炎上は防げないんだと思う。
中野●炎上ありきで対策しておくことも必要だと思います。トラブルになったときに誰が対応するのか、責任を持つのかなどをあらかじめ決めておくと、慌てずに対処できるでしょう。
徳本●そういうリスクはあるけれど、企業としてSNSを活用しないというのは大きな機会損失だと思うね。何より自分たちだけのメディアでコストもかからず発信できるのは大きなメリット。ほかの会社はもうその武器を使っているのに、何もしないなんてもったいないと思うよ。
WEBサイトで公開されているコカ・コーラのソーシャルメディア・ポリシー。コカ・コーラは、従業員はもとよりすべての関係者がソーシャルメディアを積極的に活用することを推奨するとともに、企業としてそのポリシーを明確に定めている。【URL】http://www.cocacola.co.jp/company-information/social-media-guidelines2
[みらいチャレンジ]長年の広告会社勤務でマーケティング畑を歩んできた徳本昌大氏と、IT企業に特化した弁護士・中野秀俊氏が2016年4月に設立。企業経営にまつわるさまざまな課題をノンストップで解決し、「みらい」に「チャレンジ」する起業家・経営者を増やすのが同社のミッションだ。【URL】http://mirai-challenge.com