STORY Ⅰ @IBM
藤森慶太 Keita Fujimori
2008年日本IBM中途入社。経理財務変革コンサルティング、米IBM出向などを経て、2014年よりモバイルサービス事業を統括。ザウルス時代から新しいガジェットはほぼ網羅。個人的にSonyの「Info Carry」を復活してほしいと願っている。
「コグニティブでビジネスマンの1分が大きく変わる」
有人改札を見たのはいつぶりだろうか? 先日出張先のある駅で有人の改札を見た。あの鋏でパチパチ切符をパンチングする光景が蘇る。床には大量の紙くずが散乱し、改札を通ると靴の裏によくくっつく。今思うとなんであんなことをしていたのか、そしていつから自動改札になったのかもあまり覚えていない。
こうした変化は、気がつけば「当たり前」になっていることで、ある日から「当たり前」になることではないのだと思います。
私は日本IBMという会社でモバイルによる企業業務変革の推進を担当していますが、この2年で企業の中のモバイルの位置付けが本当に大きく変化したと感じています。もはやモバイルのない生活は考えられず、単なる通信デバイスという枠組みを大きく超えた使い方の模索が始まっています。たとえば、IBM Watsonのような「コグニティブ・コンピューティング」がモバイルを通じてビジネスマンをサポートしてくれたら、働き方が大きく変わるなぁ、と非常にワクワクしています。
2015年7月に東京大学医科学研究所が日本の医療機関の先陣を切ってIBM Watsonの導入を始めました。同大ヒトゲノムセンター長の宮野教授が講演で「生命科学に関する論文は2014年だけで20万件が出され、積み上げると現時点で富士山を超える。2050年には成層圏を超えると言われており、もはや人間で読める代物ではない」と語っていました。医学論文1ページ3分で計算しても1億ページを読み終えるのに寝ないで190年かかりますが、IBM Watsonは1秒で8億ページを読み、それを知識にします。
コグニティブやAIが発展すると人間が考えなくなるなどの意見を聞きますが、個人的には真逆だと思います。何でも検索できる時代になったからこそ、情報そのものの価値ではなく、情報を取捨選択して論理的に「構成」することが必要です。今までは覚えていること、知っていることが重視されてきましたが、今後は知識のその先を答える能力が求められるのではないでしょうか?
そういう意味で、最終的に人間が行う判断や意思決定をサポートするツールとしてモバイルはまだまだ大きな可能性を秘めていると思っています。ググるならぬ“コグる”が標準語として使われ、コグり方が上手い人ほど仕事の効率が上がるような世界が、近い未来にやってくるに違いありません。
とはいえ、きっと何でもITというわけではなく、うまく融合をしていくのでしょう。先日、社内の研修で、外国の講師の方が近未来のイメージを語っていました。フルオートメーションで車は走り、当然ハンドルもないので、車に乗ると目の前からボタンひとつでコーヒーとトーストが出てくる。そして優雅に目的地に着くまで車内で朝食をとりながら新聞を読む、という世界観をジェスチャーを交えてお話されていたのですが、新聞を読むシーンが「紙の新聞を広げる」ジェスチャーでした。いやいや、その時代に新聞を紙で読むのはおかしいでしょう!と心の中でツッコミを入れつつ、そのアンバランスさこそが人間の面白さだよな、と少し心が温かくなりました。
STORY Ⅱ@Adobe
西山正一 Nishiyama Shoichi
2001年にアドビ システムズに入社。WEB製作アプリやDTPアプリの製品担当を経て、現在はCreative Cloudのエンタープライズマーケティング部門を統括。新しいガジェット類にはすぐに飛びつくタイプ。食いしん坊でお酒呑み。
「“デジタルセルフ”を上手に利用しよう<」
前回はGoogleのサービスを例にとって「デジタルの世界から見たあなたという存在」というものがあり、それをうまく活用するといろいろと便利なことが起きそうかも?という話をしました。このデジタル世界に投影されたあなたの姿を「デジタルセルフ」を我々は呼んでいます。検索エンジンで入力したキーワードや動画サイトで閲覧したコンテンツ、お買い物サイトでチェックした製品などの情報をもとに、このデジタルセルフは形作られていきます。デジタルの世界に自分の分身のようなものがいると思うと、ちょっとワクワクしませんか?
また、Facebookなどのソーシャルネットワーク上では「さらに自分らしい」デジタルセルフが形成されています。Facebookの場合、「基本データ」という項目に自分のプロフィールを入力できます。職歴や出身校を入力すれば、懐かしい同期生や恩師との交流を再開できます。好きな音楽や贔屓のスポーツチームの情報を入力しておけば、知人との意外な共通点を見つけたり趣味のコミュニティから新しい友人関係が生まれるかもしれません。
Facebookのようなソーシャルメディアのプロフィールは、ネットワークづくりに役立てるためにユーザ自身が入力するものですが、一方で広告主にとってはこの情報がとても役に立つわけです。Facebookは僕が45歳の男性であることを知っています。なので「肥満が気になる40代のあなたへ」などのアラフィフ男性が興味を持ちそうな内容の広告が表示されます。
近年ではデジタル技術進歩により、さらに踏み込んたメッセージを広告に表示することもできます。たとえば「XXXX高校を卒業された方へ」といった広告を表示できます。個人のプライベートな情報をどこまで利用させるか?というバランスは考えたほうがよいとは思いますが、このデジタルセルフを自分の都合の良い姿に近づけてあげることで、自分に関心のある情報を表示させたり、逆に関係のない情報や不快な情報が目につく確率を低くすることができます。
僕はFacebookのプロフィールに「既婚」と入力してあるので、出会い系の広告はあまり多く表示されていないはずです。広告主の立場からすると、既婚男性よりも未婚で交際相手募集中という人のほうが顧客になりやすいはずなので、広告の効率を高めるためには既婚者には広告を表示しないほうがよいわけです(それでも稀に出会い系の広告が表示されることがあるのですが、これは、つまり既婚者の中にもある程度見込み顧客がいるということなのでしょうね)。
このようなユーザの情報をもとにした広告の出し分けを「ターゲティング広告」というのですが、Facebook上のターゲティング広告は数万円単位の小額でも利用することができます。広告を表示させたいターゲットを絞り込めば、ほんのわずかな金額でピンポイントにメッセージを届けることができます。ハードロック好きのためのカフェを開店したら、Facebookを使って近所のハードロック好きへターゲティング広告を出してみると良いかもしれませんね。