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新たな著作権使用料の策定で「無料聴き放題」は消えるのか?

著者: 山下洋一

新たな著作権使用料の策定で「無料聴き放題」は消えるのか?

著作権使用料の改善は急務

ストリーミングサービスの再生から、作曲家やパブリッシャー(音楽出版社)はどのぐらいのロイヤリティを受け取るべきなのだろうか? 現在の著作権使用料の算定プロセスは複雑で不明瞭な点も多く、ストリーミングサービス、レーベル、パブリッシャーやアーティストの間に軋轢が生じる一因になっている。

そもそも、米国の楽曲の著作権使用料には、販売に対して支払われる「メカニカルロイヤリティ」と、ラジオなどでの再生に支払われる「パフォーマンスロイヤリティ」がある。ストリーミングサービスの場合、2つのロイヤリティが絡み、またネットラジオ、オンデマンドストリーミング、モバイルなどサービス形態によって扱いが異なるため算定方法が複雑になっている。そのため再生に対する対価を適切に得られているかがわかりにくく、改善を求める声が権利者から上がっていた。

そうした中、米国の規制機関の1つである著作権料委員会(CRB)が、2018年から2022年のデジタル音楽に関する著作権料の法定レートの策定を開始し、アップルがCRBに対してストリーミングサービスの著作権使用料に関する提案を行った。CRBの法定レートは、米国の音楽産業のビジネスモデル作りに大きな影響を与える。ストリーミングサービスなどの事業者はロイヤリティを含む売上分配に関してレーベルなどと独自に交渉しているが、直接契約が成立していない場合には法定レートが適用される。ほとんどのケースは直接契約でまとまっているものの、法定レートが交渉の基本線になるため、CRBの判断が音楽産業の将来を左右する。

アップルの提案はシンプルかつ透明性に留意した内容になっている。オンデマンドで再生されるストリーミングのロイヤリティは「再生100回あたり9.1セント」。CRBが現在定めているダウンロード販売の法定レートが「1ダウンロードあたり9.1セント」であり、つまり「ストリーミング再生100回」と「1ダウンロード」を同等と見なしている。この100対1の比率はビルボードチャートの評価と同じである。

無料サービスのコストは上昇

アップルの提案は権利者にとって明確かつ公平だ。現在ストリーミングサービスから作曲家やパブリッシャーに支払われる著作権料使用料は売上全体の10・5%~12%だが、この算定方法が採用されれば著作権料収入の増加につながる可能性が高い。問題点としては、ユーザがサービスを使うほどに著作権使用料の支払いが増えるため、再生数の伸びによっては定額制音楽サービスの料金が見直される可能性がある。

また、無料の聴き放題サービスが縮小する可能性も指摘されている。欧米にはフリーミアムモデルを採用する「スポティファイ(Spotify)」を無料サービスで使うユーザが多く、ネットラジオの「パンドラ(Pandra)」も人気である。今日の仕組みでは、こうした無料聴き放題サービスはラジオのように見なされ、売上高やユーザ数に応じたロイヤリティの支払いが認められているが、再生数に応じたシンプルな算定方法になると無料サービスの運営コストは上昇する。

無料音楽サービスは音楽とカジュアルリスナーを結ぶ場になっている。だが、CDを売るための宣伝効果が高かったラジオと異なり、今日の無料ストリーミングは音楽を楽しむ方法として音楽ファンを満足させているところがある。そのため、無料サービスが音楽の価値を下げていると問題視するパブリッシャーやアーティストが後を絶たない。

かつてスティーブ・ジョブズが「シンプルであることは複雑であるより難しい」と述べたが、物事をシンプルにするには大きな困難が伴う。CRBの策定作業はまだ始まったばかりであり、内容は明らかになっていないが、グーグルやスポティファイ、アメリカレコード協会も、それぞれ独自の提案を行ったという。CRBが成すべきことは明確である。アーティストのモチベーションを高め、人々がより多くの音楽と出会い、そして楽しめる良循環のある仕組みに導くことが、結果的に音楽市場の繁栄につながる。

アメリカレコード協会の発表した、2013年から2015年の米国におけるストリーミング、ダウンロード、CDの売上高の変化。ストリーミングは2015年にサブスクリプション型の伸びで約30%増加し、ダウンロード販売を上回った。パンドラなどラジオ型のサービスは4%の伸び、広告による無料ストリーミングサービスはストリーミング全体の16%ともっとも小さなシェアにとどまる。【URL】https://www.statista.com/chart/4557/us-music-industry-revenue/

ロイヤリティの流れを、非営利団体フューチャー・オブ・ミュージック・コーリションがまとめている。オンデマンドストリーミングは、メカニカルロイヤリティとパフォーマンスロイヤリティの2つの経路をたどって複雑に分配される。【URL】http://futureofmusic.org/article/article/music-and-how-money-flows

スポティファイは無料を含むさまざまなサービスを用意することでファンや音楽ビジネスに関わる人たちのチャンスが広がると訴え、「スポティファイ・フォー・アーティスト」というWEBサイトで同社のビジネスモデル、成長、収益モデル、ロイヤリティ支払いメカニズムなどを細かく解説している。【URL】https://www.spotifyartists.com/spotify-explained/#spotifys-progress-so-far

【News Eye】

著作権料委員会(CRB)は米議会図書館の館長から任命された3人の審査員で構成され、公聴会や意見公募を経て社会経済的に公平で適正な規約や法定レートを定めている。2007年のネットラジオの法定レートの制定では、ネットラジオ事業者の強い反発が連邦議会に持ち込まれた。