ボランティア文化が浸透しているアメリカに引っ越してから、「Volunteer
Match」などのマッチングサイトを活用してボランティア活動を探すようになりました。私の仕事は日本とのやりとりが多いので、時差によって日中にまとまった時間ができることがあります。それを有意義に使いたいと思ったからです。
支援には、自分の時間を捧げる以外にも、お金を寄付するという形があります。世の中の非営利団体(NPO)は、この寄付金を主な資金として運営されているわけですが、皆さんのごく身近な非営利プロジェクトに「ウィキペディア(Wikipedia)」があります。ここ数年間、私は彼らの日本における寄付金募集をお手伝いしています。1000人の日本の読者を対象に今年実施したアンケート調査では、運営母体であるウィキメディアがNPOだと認識しているユーザは約半数に留まりました。
NPOであることは、その組織が利潤追求のためではなく、目指す目標の実現のために存在することを意味します。ウィキメディアの場合、ウィキペディアからの収益はゼロ。とはいえ、世界でもトップ10位に入る規模を誇るWEBサイトですから、莫大なサーバ代やプログラマーを含む人件費など、運営コストは当然かかります。通常のWEBサイトはこれを広告やペイウォールなどの形で稼ぎますが、ウィキメディアはそれを読者からの支援でまかなっているのです。逆に言うと、読者からの寄付がなければ、サイトを存続させ改善することはできません。
日本は他の先進国に比べて、寄付という行為が身近ではありません。2015年11月に発表された145カ国を対象とする「世界寄付指数(World Giving Index)」では、日本は前年の90位からさらに順位を落として102位でした。ウィキメディアの寄付活動をとおしても、その難しさは実感するところです。
日本で馴染みのある寄付の形は、主に自然災害の復興支援を目的とするもの。それも年数回に限られる行為であって、毎朝コーヒーを買うような「習慣」からはほど遠いのが現状です。人々に「寄付する」という新しい行動を起こしてもらい、それを習慣化するには生活への取り入れやすさが大切です。
海外では、寄付を気軽で手軽な支援の形にするためのユニークなアプリが登場しています。イギリス発の「Gone for Good」は、不要な洋服や書籍などを写真に撮って投稿すると、地元で活動するNPOが回収しに来てくれるアプリ。海外ではNPOがお店などリアルの活動拠点を設けているため、既存のオペレーションを活かすことで寄付者の手間を最小限にする狙いです。
「Instead」は、普段の習慣を少し変えることでマイクロ寄付を促してくれます。3ドルのコーヒーを買わずに自分で淹れてみる。ウーバー(Uber)を呼ばずにバスを使ってみる。その分浮いたお金は、たとえば「水不足の地域に住む人1人分の飲み水」などとして寄付されます。アプリのデザインも素晴らしく、小さな習慣の変化がもたらすインパクトを視覚的に教えてくれます。
身体を動かすことで寄付もできる一石二鳥のアプリが「Charity Miles」。運動した分だけ、具体的には1マイル(約1.6キロ)走るごとに25セント、1マイルをサイクリングするごとに10セントが希望の慈善団体に寄付されます。寄付金はスポンサー企業が支払うため、ユーザ自身は運動して健康を保つだけで貢献することができます。
普通に生活していると、NPOと出会ったり、その活動について知ったりする機会は限られます。グーグルが提供する「One Today」は、1日1つのNPOを表示し、ユーザとNPOを引き合わせてくれるアプリ。習慣を寄付につなげてくれるこのようなアプリが日本でも生まれ、寄付がより身近になっていくといいなと思います。
Yukari Mitsuhashi
米国LA在住のライター。ITベンチャーを経て2010年に独立し、国内外のIT企業を取材する。ニューズウィーク日本版やIT系メディアなどで執筆。映画「ソーシャル・ネットワーク」の字幕監修にも携わる。【URL】http://www.techdoll.jp