エジプトの旅を終えた僕らは、すっかり人間不信に陥っていた。観光大国のこの国はなかなかに手強い。街を歩けば客引きがひっきりなしに声をかけてくる。何か物を買うにも、根強い交渉が必要だ。稀に親切を受けたかと思えば、やっぱりお金を要求される。
そんなこんなで純真さを失った僕らは、南へ下りスーダンへと向かった。国境を越えてすぐ、朝食をとっていた僕らに一人の青年が声をかけてきた。
「スーダンへようこそ」。そう言うと彼は、なんと僕らの分まで支払いを済ませてしまった。何事かと驚き疑ったが、結局、彼と別れるまで楽しい会話だけが続いた。すれた僕らにとって、これは衝撃だった。
スーダン滞在中はずっとそんな感じだった。英語を話す人が少ない国だが、道で困っていると、必ずどこからか英語を話す人が現れて助けてくれる。南の街カッサラーでは、ホテルが満室だらけで途方に暮れる中、一緒に宿探しをしてくれた少年がいた。市場では、ぼったくるどころか毎日おすすめの野菜をバケツいっぱい安値で売ってくれる。初めてヒッチハイクしたのもこの国だ。乗せてくれた運ちゃんに家族を紹介され、食事をしたのはいい思い出だ。
国境を越えるだけで、ここまで変わるものかと心底驚いた。世界中それぞれの国に、別々の個性があるのだと思う。スーダンの人たちは、本当にいい人ばかりだった。
鈴木陵生(Ryosei Suzuki)
映像作家。2011年より夫婦で世界一周を始める。旅の様子を発信する映像サイト「旅する鈴木」が、平成26年度文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に。2014年11月、DVD&Blu-ray「World TimeLapse」(KADOKAWA)をリリース。 【URL】http://ryoseisuzuki.com