メモリの“価値”を可視化する試み
USBメモリをはじめとするメモリ製品を選ぶ際の基準として「価格」を重視する人は多いだろう。だが、そのメモリ製品がなぜその価格で販売されているのかという理由を正しく理解している人は少ないのではないだろうか。
たとえば1つの要素として為替レートの問題があり、特に日本においては高価格帯メモリ製品の内外価格差が激しい。そして、メモリ製品の価格を押し上げる理由は、使われるメモリそのものの「質」にもある。そんなメモリの質と価格の関係について、マイクロンジャパン(以下、マイクロン)に話を聞いた。同社は「Lexar(レキサー)」ブランドのメモリ製品を取り扱ううえで、内外価格差を是正して適正価格にする取り組みを行っている。
「メモリなど半導体の材料であるウェハーは、円柱状のインゴットを薄くスライスして生成するのですが、そこで作られるメモリにはさまざまな種類があり、それがメモリの『質』の差となります。1匹のマグロから大トロ、トロ、赤身が取れるのをイメージをしていただけると、わかりやすいでしょう」(ジャパンセールスディレクター・大木和彦氏)
メモリの製造から販売までを一貫して行っている同社であれば、原材料の「質」を自在に選択し、製品ラインアップを構成できる。この「質」は価格に影響するだけでなく、メモリ製品の速度や耐久性にも関わってくる。
よく、製品選びの際に価格をメモリ容量で割ることで導かれる費用対効果、すなわち「コストパフォーマンス」を重視するのが“賢い”買い方だと語る人もいるが、これは「すべてのメモリが同質である」という誤った前提に基づいている。では、価格に対するメモリの「価値」を判断するための具体的な指標はないのだろうか? ここでマイクロンが提唱するのが「MVP(メモリ・バリュー・パフォーマンス)」だ。
「メモリ製品の“価値”というのは容量と速度のコンビネーションで導かれる、と考えています。容量はメモリの『量』を示しますが、メモリの『質』は書き込み速度に現れます。そこで、『価格を容量で割った数値』をさらに『書き込み速度』で割るのです。これをメモリ製品の価値、『MVP』という指標として新たに提唱したいと考えています」(大木氏)
同社のUSBメモリで算出したMVPを上の表にまとめた。普及価格帯の製品よりもハイエンド製品の「P20」のほうがMVPが低い。これは「量」と「質」を加味したコストが低いということになる。すなわち「コストパフォーマンス」ならぬ「バリューパフォーマンス」が高いというわけだ。
マイクロンが提唱するメモリの購入価値「MVP」を算出する式。まず製品価格をメモリ製品の容量で割って1GBあたりの単価を出し、これをさらに書き込み速度で割る。「読み出し速度」は使わず、書き込み速度で測るのがポイントだ。
MVPを上げるマイクロンの挑戦
メモリ製品の品質が「速度」に現れるという考え方はシンプルでとてもわかりやすい。このMVPという指標で見れば、どのメーカーの製品であっても価格に見合った品質を簡単に判断できるはずだ。品質は二の次で、とにかく安い製品が欲しいという場合を除いては、MVPを基準に考えるのがよいだろう。
だが、ここで1つの疑問が生じる。メモリ製品に詳しい人であれば、パッケージなどに大きく記載されている数値はメモリからのデータ「読み出し」速度であることがわかるだろう。なぜマイクロンは「書き込み」速度を重視するのか?
「USBメモリに限らずフラッシュメモリ製品はその構造上、データの読み出し速度を高速化するよりも、書き込み速度を高速化するほうが難易度が高いのです。一般的に言えば、書き込み速度を高速にするには『MLC(Multiple Level Cell:フラッシュメモリのデータ記録方式の1つ。メモリセルに3値以上のデータを格納する)』を採用するなど、メモリの『質』を上げなければいけません」(大木氏)
つまり、書き込み速度こそメモリ製品の価値を左右する大きな要素なのだ。
ちなみに、市場で格安で販売されているUSBメモリなどでは読み出し速度だけをカタログに記載し、書き込み速度は未公表という製品も少なくない(つまりMVPは算出できない)。その理由も、こうした技術的背景を知ればおのずと推測できるだろう。
あとは、実際にその書き込み速度がカタログに記載された数値どおりに出ているかが重要となるだろう。そこで、「SSD並み」のスペックを誇るレキサーのUSB3.0メモリ「P20」を用いて、負荷の高い書き込みテストを編集部で数種類実施してみた。フラッシュメモリ製品は容量が大きいほど書き込み速度が上がる傾向にあるため、P20のラインアップ中、最大容量である128GBのモデルを使用した。
読み込み・書き込みのテストを行ったが、いずれも良好な結果が得られた。そして何より書き込みが高速ということは、体感的にストレスが少なくユーザビリティも高い。
Macユーザであれば「価格に対して品質が良いもの」を選ぶことの大切さは理解してもらえると思うが、それはメモリ製品を選ぶ際にも同様である。この新しい基準「MVP」の良好なメモリを選ぶべきだと実感させられた。
●書き込み速度を測定!
Macでの読み書き速度を「Disk Speed Test」で測定した。読み出しはSSD並みの380MB/秒をマークし、書き込みもカタログ値には及ばないものの193MB/秒と良好だ。
●インストールディスクも5分で完成!
「DiskMaker X」を用いて、OS Xエルキャピタンのインストールディスク(6.06GB)を作成した。大量のファイル書き込みが行われるヘビーな操作だが、P20は5分以内に作業を完了した。1000円以下の安価なUSBメモリの実に5倍以上のパフォーマンスだ。
これからのUSBメモリの選び方
1 メモリの品質は新指標“MVP”で測ろう
2 品質は「書き込み速度」に表れる
3 動作速度はユーザビリティに直結
企画協力:マイクロン ジャパン株式会社