その瞬間、その雰囲気を決して逃さない
まるで空中に浮かんでいるかのような、不思議な場所に佇む一人の女性。その真下にあるのは、東京は表参道の雑踏だ。都会の中にありながら静謐さに満ちたこの写真は、どこか非現実の雰囲気をたたえている。
今泉純さんは職業写真家ではない。学生時代から写真に親しんではいたものの、より深く写真にのめり込むきっかけとなったのがiPhoneだ。
「ブログに載せるために子どもの写真をiPhoneで撮ったところ、意外なほどよく撮れることに気づいたのです」
同時期、インスタグラムと出会い、写真を共有する楽しさを知った今泉さんは、iPhoneフォトの世界に夢中になっていく。インスタグラムユーザには1つのテーマで被写体を追いかける人も多いが、今泉さんの写真はポートレートから都市のスナップ、ネイチャー写真まで多彩だ。その代わりに一貫して感じられるのは、寂寥感や退廃感といった独特の空気感だ。
「華やかさや明るさといったプラスの感情だけでなく、悲しみなどマイナスの感情を表現できるのが写真の良さ。僕はそういう侘び寂びを感じさせるものや緩急のリズムが好きで、そのせいか物事をちょっと引いたところから斜めに見るくせがあるんです。そうした情景は、何気なく生活している中で不意に現れるんですよ。そんなシーンを見つけたときに、素早くシャッターを切れる瞬発力。やはりそこがiPhoneの魅力です」
この作品も、休憩のために立ち寄ったカフェで2つの建物が織り成す素朴な構図を見つけ、その場でiPhoneで撮影されたもの。デジタル一眼カメラも所有する今泉さんだが、iPhoneで撮影する場面も多い。
「何より撮りたいと思ったときにすぐ取り出せること。iPhoneの瞬発力は一眼カメラよりもはるかに上なんです」
今泉さんの愛用ツール
機材
魚眼・ワイド・マクロのiPhone用レンズ(tokyo grapher)。あらゆるiPhone用レンズの中で最高レベルの描写力が気に入っているという。よく使うのはワイドレンズで、専用ケースにつけっぱなしにしている。【URL】http://tokyo-grapher.com
今泉純
東京都在住。建築業界で設計の仕事を手がけながらiPhoneフォトグラファーとしても活躍する。2015年、某公開ストレージに保存していた写真がアップルの「ワールドギャラリー iPhone 6で撮影」に採用された。【URL】https://www.instagram.com/ima_ju/
誰もが映像作家になる時代がやってきた
iPhoneで商業用の映像を撮るなんて、一昔前なら考えられないことだった。いや、今でも認めないというプロもいるだろう。しかし、映像作家・岩元康訓さんがiPhoneだけで撮った映像を見たなら、そんな考えは吹き飛んでしまうに違いない。
岩元さんはネイチャーやライブ、音楽イベントなどの映像作品を手掛けるクリエイターだ。海外の自然を撮ることをライフワークにしている。こちらの作品は、パプアニューギニアのソロモン海が見えるトゥフィの岬で撮影された。
「撮影クルーは僕と水中カメラマンの石川肇さんの2人だけ。iPhone 6とレンズ、ソーラーバッテリを持って撮影に臨みました。水中に潜るときはさすがに緊張しましたね。何しろまだiPhone 6用のハウジング(カメラを水から保護するためのツール)は一般発売されておらず、知り合いのメーカーに作ってもらった試作品を使っていましたから」
苦労の甲斐あり、最高の映像作品が出来上がった。タイムラプスやスローモーションといったiPhoneのネイティブ機能はもちろん、多彩な外付けレンズワークによるダイナミックなフレーミングなどプロとしての技も惜しみなく注ぎ込まれている。しかし、iPhoneの真価はそうした機能以外のところにあると岩元さんはいう。
「パプアニューギニアの原住民を取材したのですが、彼らは外部の人間に慣れていないので、業務用の大きな機材を使うと武器と勘違いして警戒されてしまいます。その点、iPhoneはまったく警戒されず、自然な表情や生活を映像に収めることができました」
岩元さんが撮影した映像素材は、業務用機材で撮ったものと同じ扱いで、テレビ番組などに当たり前のように使われている。iPhoneカメラと専用機材のボーダレス化。それはつまり、誰もが気軽に映像作品を制作できる時代になったことを意味する。
「今までは機材を揃えたり使い方を学んだりと撮影以前のハードルが高かったのですが、iPhoneの登場で誰もが気軽に映像作品を作れるようになりました。ペン1本で絵を描くのと同じ感覚で、映像を撮る時代がきたんです。映像の世界は面白いことになりますよ」
iPhoneの登場で急速に変わりつつある映像業界。そのトップランナーであり続けるために、岩元さんはこれからもiPhoneで作品を撮り続ける。
岩元さんの愛用ツール
機材
右から反時計回りに、スタビライザ「M3s」(Swiftcam)、360度撮影用の回転台「SK-EBH01」(Sevenoak)、ミニ三脚「PIXI」(Manfrotto)、18倍望遠レンズ(ノーブランド)、魚眼/広角用のレンズと固定用のiPhoneカバー(Moment)。
アプリ
TimeLapse
【開発】xyster.net LLC
【価格】600円
【カテゴリ】App Store>写真/ビデオ
安定したタイムラプス撮影ができるカメラアプリ。4K動画やRAW画像の撮影にも対応するスグレモノ。
岩元康訓
1982年生まれ。幼少期より微速度撮影の魅力にとりつかれ、映像作家の道を選ぶ。現在は映像監督、映像カメラマンとして活動。パプアニューギニア政府観光局の公式映像を手がけるほか、音楽系の映像やドキュメンタリー作品を手がけるなど、その活動は幅広い。【URl】http://www.ifs.tokyo