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第4話_ネット情報の真偽を確かめてみよう●“遅くならないMac”の作り方

著者: 氷川りそな

第4話_ネット情報の真偽を確かめてみよう●“遅くならないMac”の作り方

「ディスクのアクセス権」は修復すべき?

システムのメンテナンスといえば、おまじないのように出てくる定番テクニックが「ディスクユーティリティ」にある「アクセス権の修復」機能です。確かに実行するとたくさん修正されるのでなんとなく「直った」気になるのですが、実際に動きの遅くなったMacにアクセス権の修復を行っても使用時の速度改善にはつながりませんでした。

そもそもこの機能は「レシート」というシステム標準の方法でインストールされたプログラムが残したログ(記録)をもとに正しいアクセス権を「推測して」修復を行い、プログラムを正常に起動できるようにするためのものです。このためグーグル・クロームなどドラッグ&ドロップでインストールできるものや、ドロップボックスのように標準ではない方法でインストールされるものなどはこの修復の対象外となるためそもそも影響を受ける範囲も限定的です。

こういった経緯やSIP(System Integrity Protection)という新しいセキュリティモデルが導入されたことによりOS Xエルキャピタンからはディスクユーティリティにそもそも「アクセス権の修復」がなくなっています。

メモリ解放ソフトは効果があるの?

>古くからあるメンテナンステクニックの1つです。メモリ上にある使われていないデータを強制的に解放することでスペースが生まれる様子は気持ち的にもすっきりするため、快適になった気もします。しかし、今回この方法を試してみたところ逆に動作が一時的に遅くなったり、不安定さが増すこともありました。

この原因はOS Xマーベリックスから導入された「圧縮メモリ」機能にあります。メモリをすべてのソフトで効率的に利用できるようにするこの仕組みは、管理対象となるメモリ領域を事前に大きく確保します。つまり、ステータス上「メモリをたくさん使っている」ように見えても不用意にこれに干渉してメモリを開放してしまうと、内部にある圧縮されたデータを再取得する時間がかかりますし、ともすれば破損してしまうなど新しいトラブルを招いてしまう可能性があります。新しい世代のOS Xでは不用意なメモリ開放は「禁じ手」としておいたほうがよさそうです。

メモリから溢れ出したデータをハードディスクなどのストレージに書き込む「スワップ領域」が大量にできているのであれば、まずはソフトを終了したり、Macの再起動を試みましょう。それでも動作速度が改善しないのであれば、問題は別のところにあります。

OSの上書きインストールは意味がある?

OS Xのインストールは全部を消去しないでもシステムだけを入れ直すことができる、いわゆる「上書きインストール」という方法も用意されています。これはディスクユーティリティで内蔵ストレージを消去せずにOSインストールを実行することで自動的に上書きされ、完全な初期化よりは時間がかかりませんが遅くなってしまったMacに実行してみてもほとんど何も変化がありませんでした。

上書きインストールはシステムファイルと一部の純正ソフトと関連するライブラリは入れ替わりますが、それ以外のものはそのまま引き継がれます。その結果として問題になりそうな箇所の大半は直されていないことが多いのが実情なのでしょう。

上書きインストールはシステムが起動しなかったり、起動中に止まってしまったりといったトラブルが発生した場合の応急措置として利用するのには有効な手段の1つです。

NVRAM/SMCのリセットが効く?

NVRAMとは、電源を落としても情報が消えない不揮発性のメモリと呼ばれるもので、画面の明るさや解像度、ボリューム音量、起動ディスクの指定、ブルートゥースのアクティベーション情報など、ハードウェアに関するものが記録されています。同様にSMCも電源やバッテリ、ファンの制御といったセンサ系の制御を行うためのファームウェアです。

これらをリセットして工場出荷時に戻した場合、ハードウェアに関するトラブルは改善しますが、速度の「速い・遅い」といった今回のような問題には役立つことはありませんでした。

NVRAMもSMCもOSよりも低い階層にある、よりハードウェアに近いプログラムです。そのためこのパラメータをリセットしてもOSそのものが改善するわけではないことからも、あまり有効な手立てではありません。ちなみに、NVRAMリセット、SMCリセットの方法は以下のURLで確認ください。【URL】https://support.apple.com/ja-jp/HT204063 【URL】https://support.apple.com/ja-jp/HT201295

ドックアニメーションを切ると効果的?

OS Xはユーザインターフェイスにさまざまなアニメーションが組み込み、見た目の美しさや滑らかさといった体験を向上させています。しかし、環境によってはこのアニメーション処理が足かせになってシステム全体の速度を落としているという意見もあります。特に日常的によく使うドックにはさまざまなアニメーションエフェクトが用意されているため、これをオフにするとMacに対する負荷が減り快適になる、というテクニックがネット記事でも紹介されていました。

そこで「システム環境設定」から設定できるものだけでなく、コマンドラインで実行する裏技的なものまで駆使してドックのアニメーション機能を徹底的にオフにしてチェックしてみました。しかし、結果としては負荷の変化はまったくと言っていいほどありませんでした。

体感的な速さを改善するテクニックとして古来より紹介されています。10年近く前のMacなら効果があったかもしれませんが、CPUもGPUもはるかに高速となった今のMacではほとんど意味がないようです。

クラウドサービスの共有は切るべきか?

ドロップボックスやエバーノートなどクラウドサービスを利用してデータ同期を行うソフトは、更新されたファイルをアップロードしたり、逆に別のデバイスからの変更通知を受け取るために常にシステムのバックグラウンドで動作するため、わずかですがCPUの使用量を占有しています。これらのソフトをオフにすれば常時使用されるCPUの負荷を減らすことができると思えますが、実際に試してみたところデータが更新完了するまで待たされる時間が増えたり、手動で更新する手間が増えたため、結果として「利用できない時間が増えた」というのが率直な実感でした。

もし、複数のクラウドサービスを同時利用していて遅くなっているのであれば、一本化するなど「利用するサービスを厳選する」ほうが効果が高いのではないでしょうか。

やはりクラウドサービスは、非同期通信で普段からコツコツとデータがバックグラウンドで更新されていることこそが大事になります。いざ使いたいときにウェイトタイムが発生しないという利点があるためです。

Wi-Fiは使わないならオフにしたほうがいい?

ワイヤレス技術であるWi-Fiやブルートゥースは、ケーブルで物理的にMacと接続するものがない代わりに、通信可能な範囲につながる相手がいないかどうかを探す「ディスカバー」という動作を行います。もしこれらを利用していないのであればオフにしたほうがその分動作にかかる負荷が減る…ということでしたが、すべて有線に切り替えて機能オフしてみましたが改善は見られませんでした。

携帯電話が圏外の場所にあると急速にバッテリ消費する印象から「無駄にワイヤレス系はオンにしていると余計な仕事をする」という印象があるのかもしれませんが、少なくともMacに限ってみればそれほど大きな影響を与えるわけではないようです。

Macの中にあるWi-Fiやブルートゥースは、独立したチップで直接ハードウェア制御されているため動作速度そのものに大きく影響しないように設計されています。もし正常に動作しないのであれば物理的な故障も考慮したほうがよいでしょう。

通知センターの項目を減らすとよい?

都度ソフトを切り替えなくても、更新や新しいメッセージなどが来たことを教えてくれる「通知センター」は、iOSデバイスだけでなくMacでも重宝している人は多いことでしょう。対応するソフトやWEBサービスもどんどん増えており、とても便利なのですが、一方で「登録しすぎると通知のせいでシステム全体の動作が遅くなる」という意見もあるそうです。

そこで、実際に通知センターを許可するソフトを40個ほどに設定し、0個の状態と比較してみました。結果としては平均してCPU利用率に大きな変化は見られませんでした。

そもそもこの機能はiPhoneなどのモバイルデバイス向けに設計されていたこともあり、通知1件あたりの負荷が小さい機能なので「1時間に数百件通知が来る」などの状態でなければ、さほど効果がないのかもしれません。

通知センターは1つのプロセス(プログラム)で動作し、データはAPNS(アップルプッシュ通知サービス)という仕組みを使って小さなテキスト形式で受け取っています。これは常時専用のポートを解放してやり取りしているため負荷に変化がない特徴があることに起因しています。

不必要な言語は削除してもいい?

OS XはI18n(国際化)に対応しており、世界中のさまざまな言語に表示を切り替えてシステムが利用できるのも特徴です。仕組みとしては中に複数の「言語リソース」を組み込んで使用している言語に合わせて切り替えており、OS Xエルキャピタンでは30カ国以上のシステム言語表示に対応します。裏返せば普段使っていないデータがあるわけで、これを削ればストレージのディスク使用容量もぐっと減るという方法だそうです。

実際に言語削除に対応するユーティリティソフトを使って削除してみましたが、結果としてソフトあたり数MBしか軽くなりません。数百個のソフトが入っている状態で1GB減るかどうかというレベルですし、Macアップストア経由で利用しているソフトはアップデートのたびに毎回削除しなければいけないので、作業コストを考えても実用性にはかなり乏しいトラブルシューティングでした。速度面に関しても複数の言語リソースを内包していても、ソフト起動時には使用する言語リソースだけが読み込まれているので、動作には改善が見られませんでした。

ソフトの中にはそれぞれの言語に対応するために「.lproj」という拡張子がついたフォルダが複数用意されています。この中身はほとんどが元々の名前(英語で書かれたもの)をどう表示するのかという「翻訳情報」が入っているテキスト情報だけなので、一部例外はありますが、1言語あたり1MB以下という非常に小さなものがほとんどでした。

デスクトップにあるものを減らすと効果がある?

OS Xには、ファイルを開かないでも中身を確認することができる「クイックルック」という機能があります。メールやファインダ上ですぐに実行できて利便性が高いのですが、同時にそれぞれのファイルのアイコンにも中身のプレビューを付けるという動作も行います。このためデスクトップ上にたくさんのファイルが置いてある場合、描画負荷が高くなる原因になるので、なるべく減らす(理想はゼロにすること)というメンテナンステクニックがあるそうです。

実際にどれくらい効果があるのか試してみましたが、2000個程度のテキストファイルでは大きな変化は見られませんでした。一度にたくさんのファイルを置いた場合などにはクイックルックのプレビュー生成に負荷がかかったのは確かなので、スクリーンショットをたくさん撮ったりデスクトップを埋め尽くすほどファイルを置かなければ動作に支障をきたすほどの影響は与えないようです。

クイックルックで生成されたプレビューはストレージにキャッシュされます。そのため、ファイルの中の内容が変わったり強制的にキャッシュをリセットしない限り、再生成するプロセスは発生しないのです。速度低下を防ぐ1つの重要な要素です。

※上記の方法は、あくまでも筆者の環境下で検証し、効果がなかったと判断したものです。

必ずしもすべてのMacで効果がないとはいえないことをご了承ください。