1300万人を超える開発者
WWDC(世界開発者会議)はアップルが主催する開発者向けイベントだ。27年目を迎えた今年は、基調講演の会場をビル・グラハム・シビック・オーディトリウムに移し、例年よりも規模を拡大して行われた。
iPhoneの発売以降、爆発的に増え続けるアップル・プラットフォームの開発者人口。CEOのティム・クック氏曰く、登録済みの開発者メンバーは1300万人を突破し、今回のこのイベントには5000人を超える参加者を迎えたという。アップストアに並ぶアプリは、すでに200万本を達成し、アップルからの支払額は延べ500億ドル(約5.3兆円)にも上る。ダウンロード数は累計で1300億回を超え、まさに「巨大な」と形容するに相応しいマーケットにまで成長した。
これらの現状を踏まえたうえで、アップルが目指すものは「素晴らしい製品を作り、世界を変えていくこと」だとクック氏は断言。そのために用意されたのが4つのプラットフォーム(watchOS、tvOS、OS X、iOS)であり、このプラットフォームのうえで開発されるソフトウェア/アプリケーションの数々が人々の生活を実りあるものにしていくのだと訴えた。そして「今日はここでこれらのプラットフォームの驚くべき新機能たちを紹介しよう」と切り出す。
?ティム・クックCEO登壇、巨大なプラットフォームを語る
世界74カ国から参加
今回のWWDCには世界74カ国から参加者が集まり、72%はイベント初参加だという。クック氏も「まさにワールドワイドだ」と評したが、多様な文化を持つ人々が交流できる機会としても開催の意義は大きい。
最年少参加者は9歳の少女
参加者は大人だけでなく、学生を対象にしたスカラーシッププログラムで招待された350人も含まれる。ここには18歳以下も多く、最年少はなんと9歳の少女であることが告げられると、会場から大きな歓声が広がった。
1300億回のダウンロード数
2008年のオープン当初、わずか500本のアプリで始まったアップストアは、この8年間で4000倍にまで成長。この1年でも50万本増加しており、ダウンロード数は累計で1300億回を超える極めて大規模な市場になった。
より良い「使いやすさ」を模索
トップバッターとして紹介されたのはwatchOS。プレゼンターがアップルウォッチのソフトウェア責任者であるケヴィン・リンチ氏にバトンタッチされ、次期バージョンである「watch OS 3」についてプレビューを始めた。
まず挙げられたのが、パフォーマンスだ。ハードウェアの制約もあり、アプリケーションの切り替えに長いときでは十数秒かかることもあることが「アップルウォッチの問題」であり、これについてはリンチ氏も認めていた。
これがwatchOS 3では一瞬で切り替わるようにオンメモリにアプリが格納される。加えて、アプリの中にある情報がバックグラウンドで更新されるため、待ち時間の煩わしさから解放される。さらに、サイドボタンを押すと、iOSのマルチタスク動作のようにカード状に表示されてアプリを切り替えられる「Dock」が実装された。
この新機能によって下からスワイプして表示される「グランス」が廃止され、iOSと同様にコントロールセンターが表示されるようになった。また、ウォッチフェイス(時計盤)も新しいデザインが追加されただけでなく、左右にスワイプすると切り替えができるようになったり、メッセージの着信通知にスマートリプライで返信できるようになるなど、「待たされることなく使える」ことに重点を置いて、ストレスフリーで利用できるように再設計されている。
このほかにも手書きからテキストに変換する「Scribble(落書き)」(日本語は未対応)や、サイドボタンの長押しで緊急連絡が発信できるSOS発信機能が追加。さらに、新しいエクササイズとして「Breathe(呼吸)」が追加されたり、アクティビティの共有、開発者向けには各種センサを使ったデータ取得の拡大が図られるなど、より新しい「使いやすさ」「身につけやすさ」を探求できるようなアップデートが施されている。
?watchOS 3の進化は「より速く、より身につけやすく」
「Apple Watchの進化はアプリケーションの拡充のみに非ず」
「Dock」でパフォーマンス向上
アップルウォッチのサイドボタンを押すことで、新機能「ドック」を呼び出せる。起動中のアプリを表示できるほか、特定のアプリをピン留めしておき、よく使うアプリに素早くアクセスできる。
コントロールセンターで素早く設定
グランスは廃止されたが、「設定」の項目は画面を下からスワイプすることで呼び出せるコントロールセンターとして残された。バッテリ残量の表示のほか、画面ロックなどのボタンが新設されている。
手書き認識による文字入力に対応
手書き認識を利用して文字入力を行う新機能「Scribble(落書き)は、英語と中国語の2カ国語に対応。また、スマートリプライがメッセージの通知から直接利用できるようになった。
緊急連絡機能の追加
「SOS」では、緊急時に警察や消防への通話、さらに「ヘルスケア」に設定したメディカルIDの呼び出しなどが行える。この発想は、常に身につけているアップルウォッチだからこそ役立つという非常に合理的な新機能だ。
ウォッチフェイスのバリエーションが追加
ウォッチフェイスには、着せ替えができるミニーやアクティビティをより可視化しやすくなったデザインのものなどが多数追加された。左右にスワイプすれば切り替えができるため、気分やTPOに合わせやすい。
車椅子のユーザに合わせて最適化
アクティビティの広がりはアプリケーションの拡充だけでなく、想定される利用者の拡大もある。watch0S 3では、新たな取り組みとして、車椅子の利用者でもアップルウォッチのエクササイズが利用できるようになった。これもアップルが掲げる「すべての人に実りある生活を」というコンセプトを達成するための素晴らしい試みだろう。
呼吸を促す新アプリ
新しいエクササイズとして「呼吸(Breathe)」アプリが追加された。日常の生活の中に深呼吸を取り入れることができる。深呼吸の時間は1~5分の間で選択可能だ。
watchOS
今秋リリース
無料
(デベロッパプレビューは現在提供中)
着実に進むリビングの改革
次に紹介されたのはtvOSだ。プレゼンターはインターネットソフトウェアおよびサービスの責任者のエディ・キュー氏。
そもそも現行のアップルTV(第4世代)は2015年10月に発売され、それに合わせてtvOSもリリースされた。既存のiOSをベースにしているためシステムの完成度としては初期リリースとしてはかなり高いものの、プラットフォームとしてはまだ1年にも満たない。しかし、ビデオチャンネルが1300にまで増えたことや、アップルTV向けのアプリケーションが6000も登場するなど、tvOSの登場でアップルTVは急激に成長している。
この勢いに乗ってtvOSもさらなる進化を遂げていく。まずiOS向けのリモコンアプリである「Remote」がアップデートし、本体に付属するSiriリモートと同様に音声入力による操作や、ジャイロスコープを活かしてiPhoneをコントローラ代わりに利用できるようになる。
大画面で利用できる反面、細かな操作が煩わしいアップルTV。特にサブスクリプションなどの有償サービスを利用している際に、その都度パスワードを入力するのは非常に面倒だ。そこで、新しいtvOSでは、別のiOSデバイスでログインしていればアップルTVでの入力が不要になる「シングルサインオン」を導入する。
また、開発者向けにもゲームや写真、そしてIoT機器を操作する「ホームキット(HomeKit)」などを中心として数多くのフレームワークの拡張が図られ、より多様なアプリケーションの開発が可能になる。これによって、テレビがより「アップルらしく」使える大きな変化がやってくるだろう。
?より快適な操作が可能になったtvOS
「シングルサインオンでパスワード入力から解放される」
iOSデバイスを使った操作
アップデートされたiOS向けアプリ「Remote」。ハードウェアのSiriリモートと同等の機能を持ちながら、キーボードを使った文字入力も可能になるため待望の新機能といえるだろう。
視聴環境に合わせたUI
今回のアップデートで、ホームシアターなど暗い部屋で利用したいときに便利な「ダークUIモード」が追加された。視聴環境に合わせて利用するとよいだろう。
Siriが大幅にパワーアップ
新しいtvOSでは、Siriでトピックやテーマごとに映画を検索できるようになった。これまで以上にそのときの気分にあった映画などを検索できるようになる。また「Live Tune」機能では生放送のコンテンツを検索することも可能だ。
シングルサインオンで素早いアクセス
「シングルサインオン」に対応し、対応アプリ利用時などにパスワード入力の手間がなくなる。ストレス軽減という点で見ても、これはユーザだけでなく開発者にもありがたい新機能だ。
iOSデバイス同士の連係機能
他のデバイスとの連係に便利な新機能「自動ダウンロード」では、他のiOSデバイスでインストールしたアプリがアップルTVにも反映される。細やかなユーザストレスを軽減する工夫が随所に見られる。
tvOS
今秋リリース
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15年でOS Xは終了
プレゼンテーションは怒涛の勢いで続く。次はデスクトップ向けのプラットフォームであるOS Xだ。ここは期待どおりソフトウェア上級副社長のクレイグ・フェデリギ氏が担当する。
恒例の「次のコードネームは何か?」から始まったが、フェデリギ氏は「その前にまずOS X自身の話をしたい」と切り出し、15年続いたOS Xのブランドネームを「macOS」と改称することをアナウンス。バージョン10・12は「macOSシエラ(Sierra)」と名づけられた。
3つのユーザ体験
macOSシエラは、大きく分けて3つのユーザ体験にフォーカスされる。その1つ目が「連係(Continuity)」だ。複数のデバイス間での作業をシームレスにつなぐため、macOSシエラでは1つの作業でより多くのことができるようになる。まず「自動アンロック(Auto Unlock)」が搭載される。これは電源投入やスリープ解除時に求められるログインパスワード認証を、アップルウォッチによって本人かどうかを確認することができる機能だ。また「ユニバーサルクリップボード」が採用され、デバイス間(たとえばMacとiPhone)をまたいだコピー&ペーストが可能になる。
2つ目が「アイクラウド(iCloud)」だ。アップルが提供するクラウドストレージ「アイクラウド・ドライブ(iCloud Drive)」は、システム標準でサポートされるという特徴はあるものの、他社のサービスと大きな差がないのが現状だった。しかし、今回のアップデートで「書類」と「デスクトップ」をまるごとアイクラウド・ドライブで同期できるようになる。これによってわざわざ専用の同期フォルダにファイルを置かずとも、ごく自然にデータが同期されるようになる。
3つ目が「基本性能(Fundamental)」だ。まず、課題にあがったのが「ストレージの最適化」だ。macOSシエラは利用頻度の下がっている古いファイルをアイクラウドに退避させたり、不要なファイルを自動的に削除して空き容量を確保してくれるインテリジェンスな機能が実装される。ほかにも、MacでもアップルペイがWEBサイト経由の決済で利用できるようになることや(認証はiPhoneもしくはアップルウォッチで行う)、ファインダやサファリのような「タブ」機能をすべてのソフトウェアで実装できるようにサポートされた。さらに、WEBページ内で再生されているビデオを切り離して常時表示しておける「ピクチャ・イン・ピクチャ」もサポートされるなど足回りの強化にも抜かりがない。
最後にもう1つ
最後に、mac OSに対応した「Siri」が紹介された。これは単なるiOS版からの移植ではなく、macOSの持つインターフェイスに最適化し1つのソフトウェアとして動作する。これにより、ファイルの絞り込み検索や、通知センターとの連係、さらにイメージ検索した結果を直接ドラッグ&ドロップして利用できるなど、より柔軟な利用が可能だ。
?新ネームは「macOS」、Siriの搭載と「3つのユーザ体験」がテーマ
「これからはMacに話しかけ、Siriに作業を手伝ってもらう」
OS XからmacOSへ
ブランドがmacOSになっても、バージョンごとにスペシャルなコードネームを付けるルールは変わらない。今回もカリフォルニアにちなんだ地名「macOSシエラ(シエラネバダ山脈)」の名が冠されることになった。
MacにもついにSiri搭載
Siriはドック内のアプリをクリックするか、「Hey Siri」と呼びかけるだけで起動することができる。たとえば、「昨日作成した書類をリストアップして」と言えば検索リストで表示してくれる。また、ソフトウェア使用中に、特定のキーワードを話しかけて検索、インターネット上から画像や動画を探してくるといったこともできる。単なる音声入力によるスポットライトの代行検索だけでなく、ソフトウェアとして独立することで、データの活用がしやすくなるなどmacOSらしい使い方が可能になる。
近づいたらロック解除
キーボードによるログインパスワード入力が不要になる自動アンロックは、パスワードを入力する手間だけでなく「盗み見られる」リスクも低減するためセキュリティも向上する。またアップルウォッチで認証するため、既存のMacでも利用できるのも利点になる。
iPhoneで選んでMacにペースト
デバイス間でコピー&ペーストが共用できるようになるユニバーサルクリップボード。サードパーティのソフトを使用しなくても、そのままペーストするだけで使えるシンプルさが連係機能をより魅力的なものにする。
デスクトップをどこでも再現
アイクラウドの新機能は「あなたの書類フォルダとデスクトップにどこからでもアクセスできるようになる」という、このフレーズにまさに集約される。オンラインストレージもこの機能に対応できるだけ成熟してきたこともあり、クラウドサービスはmacOSシエラによってより身近なものになっていくはずだ。
要らないファイルを捨ててくれる
新機能の「Optimized Storage」。ディスク内のデータを1つ1つ不要かどうかを人間が判断するのは難しい。macOSシエラは利用頻度や作成日、ファイルサイズ、最後に開いた日、ファイルの特性などに基づいてインテリジェントに最適化を行う。アップル社内で実際に最適化のテストを行ったところ、20GBだったストレージの空き容量が150GBにまで増えるという結果に。グラフからも写真や動画などのメディアファイルや、メールの添付ファイルなどを抽出して効率よく整理されていることがわかる。
Macでもアップルペイ
実店舗だけでなく、オンラインでの決済もカード番号を入力せずに使えるメリットを持つアップルペイがmacOSシエラにも対応。iPhoneもしくはアップルウォッチが必要な決済ソリューションだが、利用率の向上につながるかが注目だ。アップルペイを使ったオンライン決済が可能な企業は確実に増えている。また、これに加えて数カ月以内にアップルペイが利用可能なエリアが6カ国から9カ国に増える。
タブとピクチャインピクチャを採用
サファリでおなじみの「タブ」機能が、macOSシエラでは「マップ」などの標準ソフト、さらにはサードパーティのソフトでも利用可能になる。また、動画をデスクトップに常時表示させておけるピクチャ・イン・ピクチャにも対応した。
標準ソフトの中でもっとも進化したのが「写真」だ。「Memories」では自動的に写真のスライドショーを作成してくれたり、「Albums」では撮影場所に基づいて写真を地図上に並べてくれたり、人物によって写真をソートしてくれる。また、検索機能が進化し、物体やシーンで検索が可能に。
メッセージも進化
「メッセージ」が新しくなった。大きな絵文字が入力できるようになったり、会話の中で動画の視聴やプレビューリンクが表示されるようになる。
macOS Sierra
今秋リリース
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(デベロッパプレビューは現在提供中、一般ベータプログラムは7月開始)