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第9話「変化」よりも「現状維持」にこそ努力が必要

著者: 三橋ゆか里

第9話「変化」よりも「現状維持」にこそ努力が必要

そこそこ頻繁に聞かれるのに、いつも回答に困ってしまう質問があります。「これからどうしたいの? 何がしたいの?」。きっと、「がんばってね!」と背中を押したくなるような大きな何かを期待して聞いてくれているのだと思うのですが、そんなものはありません。今やっている「書く」仕事を今後も続ける。これが、私のやりたいことだからです。

昔から、書くという行為は私にとって時間を忘れて取り組めることでした。学生の頃から、国語の試験や小論文などを苦に感じたことはなく、むしろ心待ちにするほど。大学卒業後は出版業界への就職を希望したものの失敗し、出版業界に接点のある事業会社に入りました。その後数回の転職を経て30歳になった頃、ハマったのが当時日本でも流行り出したツイッター。今振り返れば、これが私のフリーライターとしてのキャリアの始まりでした。

文章は、制限があってこそ洗練されるもの。要点を140文字に収めてつぶやくのが楽しくなり、いつしか気になる海外のIT関連ニュースを紹介するように。余暇にそんな活動を続けるうちに、出版社やWEBメディアなどから「自分で書いてみないか?」という打診をいただくようになったのです。まずはWEBの1本の記事から始まって、1本、また1本とその本数は増えていきました。端から見ると遠回りの道のりに見えるかもしれませんが、私の場合、この方法、この順番だからこそ、書くことを生業にすることができたのだと思っています。

初めて記名式の記事をネットに公開したとき、どれだけ緊張しことか。あれから5年が経ち、年間約500本の記事を書くようになって、当時の初々しい感覚は薄れてしまったものの、その代わりに些細な「違和感」をキャッチできるようになりました。たとえば、小さくてニッチなIT業界のベンチャー界隈で「仲良しサークル」感が高まっているときは、自分の中でアラートのようなものが鳴ります。こうした感覚は、新しいチャレンジに臨んで猛進する段階から抜けて、それを継続する段階になってこそ生まれるものだと思います。

最近も、資金調達やマイルストーン達成などの記事執筆が続き、機械的に文章を書いている自分に気づきました。それではいけない、と思いあぐねて始めたのが、書くことについて学ぶこと。なりゆきでライターに転身した私は、過去に文章講座やジャーナリズムに関する授業を受けたことは皆無です。ありがたいことに、今は「MOOC(大規模オープンオンライン講座)」のサービスが増えており、その中の1つ「Udemy」を利用することにしました。ウォール・ストリート・ジャーナルなどで記者や編集員として活躍してきたShani Raja氏による講座を、現在受講中です。

1つ1つの講義は長くても10分ほどなので、気がつくと数回分が終わっていて学習の進歩がモチベーションにつながります。「小難しい言葉ではなく馴染みのある言葉を使う」「余分な言葉はなるべく削る」「最後まで皮をむいて一番シンプルな解釈を伝える」など、気がついたらやっていたこと、普段十分にできていないと感じることをプロの経験からわかりやすく教えてくれます。1日の始まりにまずこの授業を受けることで、その指南を頭の片隅に置きながら執筆することができています。

冒頭で触れた「これから何がしたいの?」という質問には、「今いる場所に留まる」という選択肢が答えから除外されているように感じます。私は今いる場所にこれからもいたい。英語でも記事を書いたり、書く媒体やジャンルが変わったりすることはあっても、書くことを続けていきたい。同じことを続けようとするからこそ、実力を上げていくための努力が求められるのではないかと思うのです。

Yukari Mitsuhashi

米国LA在住のライター。ITベンチャーを経て2010年に独立し、国内外のIT企業を取材する。ニューズウィーク日本版やIT系メディアなどで執筆。映画「ソーシャル・ネットワーク」の字幕監修にも携わる。【URL】http://www.techdoll.jp