開発者が使い続けたい言語
グーグルがアンドロイドのアプリ開発において、アップルのプログラミング言語「スウィフト」の採用を検討していると、米ネクストウェブが報じた。モバイルにおけるiOSとアンドロイドの競争を考えると信じがたいニュースだが、決してあり得ない話ではない。スウィフトがオープンソース化されて以来シリコンバレー界隈では、Javaの権利を持つオラクルとグーグルの訴訟が話題になると、冗談を装いながらもグーグルはスウィフトを採用すべきという声が聞こえてくるようになっていた。グーグルが決断するかはともかく、オープンソースになったスウィフトは、それが起こっても不思議ではない存在になりつつある。それを開発者たちは実感しているのだ。
そうした変化は、開発者による質問と回答のWEBサイト「スタックオーバーフロー」が公開した、「デベロッパーサーベイ(開発者調査結果)」の2016年版からも読みとれる。
「使い続けたい言語」でスウィフトは2位。前回から順位を1つ落としたものの高い人気は変わらず、2年連続でRust、Goとともにトップ5入りを果たした。そして、それらの中で唯一スウィフトだけが、未使用者を回答対象にした「これから使ってみたい言語・テクノロジー」でトップ10入りしている。
スウィフトに興味を持つ開発者が増えているのは、スウィフトがただオープンソースになったからではない。アップルは、コンパイラだけではなく、コアライブラリ、標準ライブラリ、そしてスウィフトの将来の機能を開発するプロセスまでもオープンにした。オープンソース方法には、アパッチ2.0という使いやすいライセンスを採用。若い開発者に親しまれているギットハブを使い、そしてリナックスのサポートも強化した。大企業による掛け声だけのオープンソース化が少なくない中、アップルは開発者コミュニティに貢献するプロジェクトとしてスウィフトを進めている。そんなアップルの取り組みが開発者、特に若い世代の開発者の心に響いている。
2015年版の同調査において、開発者が使用するOSで、OS Xがリナックスを上回った。今年は、その差を大きく広げ、さらに前回トップのウインドウズ7(22%)を抜いてOS X(26%)が堂々の1位に。元々UNIXベースを理由にOS Xを選ぶ開発者は多かったが、アップルを理由にMacを選ぶ開発者が増えている。
スタックオーバーフローの調査結果「Developer Survey Results 2016」は、こちらのWEBサイトで確認できる。プログラミング言語については、本文中で触れたもの以外に「もう使い続けたくない言語・テクノロジー(Most dreaded)」の項目もある。トップはビジュアル・ベーシック(79.5%)だった。【URL】http://stackoverflow.com/research/developer-survey-2016
これからの20年を支える
アップル製品のアプリを開発するうえで、スウィフトが魅力的な言語であるのはいうまでもないが、登場した頃の予想をはるかに超えて、スウィフトは広い場面で利用可能なプログラミング言語になろうとしている。「ザ・トークショー」というポッドキャストにゲスト出演したアップルのクレイグ・フェデリギ氏(ソフトウェアエンジニアリング担当上級副社長)は、スウィフトの目標について「今後20年を支えるメジャーな言語にする」と語った。オープンソース化は、その実現に欠かせない要素だったという。
完全にオープンソースになったスウィフトは、開発者コミュニティが望む何にだってなれる。5年後、10年後にスウィフトをどのようにしたいか、その可能性を自ら切り拓けることに、開発者たちはワクワクしている。そして今後スウィフトを利用できるプラットフォームが増えれば、開発者たちはより多くの場所で習得したスキルを活かせるようになる。
それはアップルにとってメリットが薄いように思うかもしれない。でも、モダンな言語を使いこなし、未来を思い描く開発者たちは、既存の常識にとらわれることなく、新しい製品やサービスの可能性を評価してくれるだろう。そんな開発者たちが、将来アップルのエコシステムを支えると期待しているのだ。
クレイグ・フェデリギ氏はスウィフトをオープンソース化するメリットの1つとしてプログラミング教育を挙げている。すでに数多くの大学がiOSアプリ構築の講座を設けているが、オープンソースにすることで、すべての学生が受講するような基礎的なプログラミング講座でもスウィフトが用いられるようになる。引いては、それが若い開発者の開拓につながる。【URL】http://www.apple.com/jp/swift/
【News Eye】
「デベロッパーサーベイ」は、開発者を対象にしたサンプル数の多い調査の1つ。質問が英語であり、「あなたはスターウォーズ派、スタートレック派」というような質問があるなど英語圏に偏りはあるものの、グローバル規模の旬のプログラミング動向が見えてくる調査になっている。