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MacBookの歴史を遡ってみよう・2●Macのしくみ大図鑑

著者: 中村朝美

MacBookの歴史を遡ってみよう・2●Macのしくみ大図鑑

ディスプレイの歴史

【2012~】IPS方式

現在主流の液晶ディスプレイの駆動方式。Macでは、MacBookエアを除くすべてのモデルで採用されています。広い視野角が特徴で一般的には水平・垂直ともに178度という広さを実現しています。そのかわりコントラストが低いという声もありますが、補償フィルムや補正回路によってTN方式と遜色ないレベルに達しています。特にレティナディスプレイでは、その精細さと相まって、非常に美しい映像を再現できます。

【1991~】TN方式

液晶ディスプレイが発明されたときと同じ駆動方式です。視野角が狭く、コントラストが高く、安価なのが特徴で、IPS方式とは真逆の性質を持っています。現在は唯一MacBookエアのディスプレイがTN方式で、特に垂直方向の見る角度によって明るさや色合いの変化が大きく、表示品質はIPS方式と比べてしまうと、良いとはいえません。発色も個体差によっては黄色っぽいものや青っぽいものがあり、IPS方式よりも安定していません。

【KEYWORD】画面サイズ

ディスプレイの物理的な大きさは、一般的には対角線で表されます。なぜ解像度のように縦横の長さではないのでしょうか。このルーツは液晶ディスプレイの前に主流だったブラウン管(CRT)からの名残にあります。最終的にブラウン管はかなり四角い形状になりましたが、実は当初のブラウン管は円形だったのです。そもそも真空管の一種ですから大気圧を一定に受け止めるため円筒形になるのは必然でした。このため、画面サイズを直径で表していたものが四角くなり、それが対角線に置き換わったのです。なお、メートル法ではなくインチが慣例として使われているのは、単にブラウン管の発祥が米国だったからです。なお、インチは国際単位系ではないので日本の企業はほとんどの場合、「インチ」ではなく「型」を使っています。

【KEYWORD】レティナの定義

iPhone 4で初めて登場したレティナディスプレイは、画素密度が326ppiだったので、レティナ=300ppi以上という認識が広まってしまいました。しかし、その後iPadやMacBookプロ・レティナディスプレイモデルに採用された際に画素密度が220~264ppiに下がったことについて、アップルはレティナに必要な画素密度は画面サイズと距離に応じて変わると説明し、「肉眼でピクセルを認識できない」を数学的に説明した公式を発表したのです。これによると、ユーザの視力も関係してくるわけで、レティナかどうかの基準は絶対値ではなく相対値であるといえます。ものすごく目のいい人にとって220ppiの15インチMBPRはレティナではないのかもしれません。

 

MacBookシリーズには、「TN」方式と「IPS」方式の2つの駆動方式が採用されています。駆動方式によってコントラストや発色、視野角等の品質の違いはありますが、現状唯一TN方式を採用しているMacBookエアが多くのユーザに受け入れられていることから、一般的な用途では実用面でそこまで大きな違いはないともいえます。

むしろ違いとして大きいのは「レティナ(Retina)かどうか」でしょう。「人間の網膜(レティナ)では認識できない」という意味から名付けられたこのディスプレイの特徴は画素密度の高さにあり、ppi(1インチ幅の中に敷き詰められている画素)を増やすことで、同じ画面サイズながらも従来よりも高精細に表示できます。つまり、一画面で表示可能な情報量が増えるだけでなく、一般的な液晶ディスプレイと比較して、同じサイズで文字や写真を表示した場合に、表示のためにより多くのピクセルを割り当てられるため、スムースで高精細な画像の描写が可能になるのです。

そして、レティナディスプレイは画素密度の高さだけが特徴ではなく、IPS方式採用による視野角の広さや、ディスプレイ個別のキャリブレーションによる発色の良さも特徴となっています。アップルが誇る高精細ディスプレイは、Macのスタンダードディスプレイとして、今後も採用し続けられることでしょう。

 

バッテリの歴史

【2009~】リチウムイオンポリマーバッテリ

リチウムイオンバッテリの材料は、発火・爆発のおそれがあるため、当初は頑丈な金属の缶に収められていました。そこで、電解質としてゲル状のポリマーを用いることで容器をアルミラミネート袋に置き換えたのが「リチウムイオンポリマーバッテリ」です。柔らかく自由な形に作れる特徴からMacBookエアやMacBookのような非常に薄いシート上のバッテリが実現しましたが、バッテリが着脱式ではなくなったため一部のユーザからは反発の声もあったようです。

【1997~2009】リチウムイオンバッテリ

充電式ではないリチウム電池が非常にハイパワーであるように、それを充電式にしたリチウムイオンバッテリも大変エネルギー密度の高いバッテリです。その代わり、充電時の電流をうまくコントロールしないと発火・爆発の恐れがあるという危険性も。実際にMacBookシリーズを充電すると、概ね9割以上になると充電速度がゆっくりになります。数パーセントしかバッテリを消費していない状態で充電を開始するとなかなかフル充電にならないのはこのためです。

【KEYWORD】自己放電・メモリ効果

ニッケル水素やそれ以前のニッケルカドミウム充電池にあった特徴として、「自己放電」と「メモリ効果」が挙げられます。まず自己放電は、電池単体が放電してしまう現象です。数日で空になってしまうこともあり、当時ノート型Macは使わないときも充電しておくのが常識でした。そうしないと、自己放電のせいでいざというときに使えなかったからです。次にメモリ効果は、つぎ足し充電をすると容量が減ってしまう現象です。充電したときに残っていた容量が放電しなくなってしまい、これを解消するには、いったんバッテリを使い切ってから充電しなければなりませんでした。リチウムイオン(ポリマー)は、自己放電もメモリ効果もないので、長時間放置したり、つぎ足し充電したりできるようになっています。リチウムイオンが急速に普及したのは、エネルギー密度の高さよりもこの利便性が評価されたためかもしれません。

【KEYWORD】ニッケル水素充電池

リチウムイオンバッテリが登場する前にノート型Macで使われていたバッテリです。ニッケル酸化物と水素を反応させる二次電池で、リチウムイオンが普及する以前は多くの携帯機器にも使われており、ヘッドフォンステレオ用のガム型電池もニッケル水素でした。このニッケル水素充電池は、水素吸蔵合金を用いた「ニッケル金属水素化物電池」のことを差しますが、水素ガスを使うニッケル水素充電池も存在しており、こちらは高圧水素タンクが必要なので、両者はまったくの別物です。現在は単3形のエネループなどが有名で、乾電池で動くデジカメやフラッシュなどで活躍しているほか、大型セルは安全性が高いためハイブリッド自動車のバッテリとしてまだまだ現役で活躍しています。

 

MacBookシリーズに欠かせない部品の1つがバッテリです。Macのエネルギー供給源として、現在は「リチウムイオン」が用いられています。リチウムは、元素記号3番の非常に軽い元素です。バッテリの材料としては最適な素材であり、物理的にこれ以上のバッテリは作れないともいわれるほど。

現在、すべてのMacBookシリーズには、「リチウムイオンポリマーバッテリ」が使われています。薄いシート上にも形成でき、形もある程度柔軟に変えられるため、ボディの隙間に充填するようにバッテリを配置できます。特にMacBook(12インチ)では積層形を採用し、面積と厚さの違う3枚のシートを重ねて、ボディの厚みに沿ってバッテリをすみずみまで行き渡らせています。

リチウムイオンポリマーの前の世代のノート型Macには、金属の缶を用いた「リチウムイオンバッテリ」を使っていました。これは、円筒型のバッテリセルをまとめてバッテリユニットとしたものです。この頃はバッテリが着脱式になっており、ユーザが交換することができました。

しかし、直方体のバッテリパックに円筒形のセルを詰めると、必ず隙間ができてしまいます。アップルはそれを無駄だとしてリチウムイオンポリマーに切り替え、同様に着脱機構のギミックやコネクタも排除し、内蔵固定式に切り替えと考えられています。

 

ボディの歴史

【2008~】ユニボディ

現行のMacBookシリーズに使われている筐体素材は、切削マシンによる削り出し加工で製造されているユニボディを導入しています。ユニボディでは、パーツを固定するフレームやネジ穴が一体成型され、強度と軽さを兼ね備えたボディが作れるようになりました。また、設計のマイナーバージョンが容易なことが、切削加工のメリット。金型を作り直すのは非常にコストがかかりますが、切削加工ならプログラムを修正するだけでいいのです。

【2003~2008】アルミボディ

2003年発売のPowerBook G4でチタンからアルミニウム合金へ素材が変わりました。この時点では、プレス加工されたアルミボディにマグネシウム合金によるフレームを合体したものでした。フチには樹脂も使われており、複数の素材を使っているため、今のアップル製品のリサイクル性と比べるといまひとつといえるでしょう。

【KEYWORD】チタン

原子番号22番、元素記号はTi。チタニウムとも呼ばれています。プラチナや金に匹敵する耐食性を持っており、強度や軽さの面でアルミニウム以上の特性を持っています。実は鉄に次ぐ量の地殻成分であり、自然界にはありふれた金属なのですが、その強靭さゆえに加工がとても難しいとされます。実際にPowerBook G4でも内部のフレームをチタンで形成できず、マグネシウム合金を併用していました。

【KEYWORD】ポリカーボネイト

ポリカーボネイトは透明性、対衝撃性、耐熱性を備えた熱可塑性プラスチックです。射出成型によって自由な形が作れるため、初代iMacやPowerBook G3のような曲線を多用したデザインが実現しました。透明性の高さは、CD、DVD、ブルーレイといった光学式ディスクのベース材として使われていることからも、折り紙付きであるといえます。

【KEYWORD】アルミ合金

アルミニウムは日常的に目にする機会の多い馴染みの深い金属。しかし、純粋なアルミニウムはとても柔らかいため、Macのボディに使われるのは微量の亜鉛やマグネシウムなどを混ぜた合金です。iPhone 6シリーズなどでは7000番台と呼ばれる超々ジュラルミンが用いられたことが話題となりました。表面には酸化膜が形成されてそれ以上錆びないため、鉄道車両の素材としてもポピュラーです。

 

現在、MacBookシリーズにはアルミニウム合金を切削加工して1枚の板から成型する「ユニボディ」が使われています。このユニボディが初めて採用されたのは2008年の初代MacBookエアから。発表当初はユニボディであることは語られず、その後のMacBookプロがユニボディ化されたときに明かされました。

この切削加工は、1つの製品にかかる時間がプレス加工に比べて長く、生産性が悪いことから、大量生産される工業製品に使うことは業界の常識を覆すものでした。アップルはこの問題を大量の切削マシンを導入して並列処理を行うという力技で解決したのです。

ユニボディ以前のアルミボディでは、まずボトムケースをプレス加工し、鋳造したマグネシウム合金のフレームや、細かい部品を取り付けていました。パーツのかみ合わせ部分には合成樹脂も使用。これにより見た目の美しさが損なわれるだけでなく、複数の素材が混在することでリサイクル性も悪かったという問題がユニボディの発明につながったといえます。

ちなみにアップルは、2001年発売のPowerBook G4でチタンを、1998年発売の初代iMacではポリカーボネイトをボディ素材に使い、それから後者の素材を積極的に採用しました。この影響で、当時のパソコン周辺機器に半透明デザインが大流行したのが記憶に新しいです。