ロジックボードの歴史
【2015】MacBook(Early 2015)
2015年にデビューしたMacBookのロジックボードのサイズは面積も容積も小さく、それはiPadのロジックボードのサイズに匹敵するほど。ほとんどのパーツがワンボードのロジックボードにまとめられているのが大きな特徴です。メインメモリだけでなくフラッシュストレージも直接実装されたのもMacBook史上初めて。今後のMacのハードウェアのあり方を予感させる設計といえるでしょう。
ロジックボード表
(1)インテルコアmプロセッサ (2)Wi-Fiモジュール (3)SSDコントローラ (4)NAND型フラッシュメモリ
ロジックボード裏
(5)NAND型フラッシュメモリ (6)マイクロコントローラ (7)温度センサ (8)メインメモリ(LPDDR3)
ブロックダイアグラム
【KEYWORD】直接実装
MacBookのロジックボードには、ほとんどのパーツが直接実装されています。一般的に外付けとなるメインメモリ、フラッシュストレージ、Wi-Fiモジュールを含めて、1つのボードに一体化し、コネクタやスロットといった無駄を徹底的に省いています。フラッシュストレージまで直接実装している点はさながらiOSデバイスのよう。
【KEYWORD】ファンレス構造
MacBookのロジックボードは、主要チップにヒートスプレッダを装備している程度で、ファンやヒートパイプといった放熱機構がありません。ロジックボードはアルミユニボディと密着するように装着され、ボディ全体がヒートシンクの役割を担っています。ファンが省けるうえ、回転部分もないので完全無音のMacとなりました。
2015年に発売されたMacBookは、先進的なロジックボードを搭載したモデルの1つだといえるでしょう。なぜなら、フラッシュストレージやメモリなどすべてのコンポーネントを1つのボードに直接実装しながら、現行のMacBookエアのボードサイズに比べて67%も縮小しているからです。これはiPhoneやiPadのロジックボード設計の経験が活かされており、パーツの最適な配置を工夫することで実現しています。
また、MacBookエアなどのフラッシュストレージといえば、フラッシュメモリとSSDコントローラをボードに収めた、ロジックボードに外付けする基板でしたが、MacBookではロジックボードに直接実装することで、別のボードやコネクタが不要になっています。そのため、所狭しとフラッシュメモリ(4)(5)とSSDコントローラ(3)が配置されているのです。SSDのキャッシュメモリは、SSDコントローラ(3)にスタックして面積を抑えたほど。
メインメモリ(8)も以前までは8枚単位で装備されるものでしたが、わずか2枚のチップしか見えません。これもスペースの節約を優先したからです。
とはいえ、このデザインが成立しているのはわずか消費電力5Wのコアmプロセッサ(1)があってのことです。MacBookプロなどがここまでコンパクトになるかといったら、難しい問題でしょう。
【2013】MacBook Air(Mid 2013)
2013年に登場したMacBookエアでは、第4世代コアプロセッサとなる「ハスウェル」を採用することで、CPUとプラットフォームコントローラハブ(PCH)が1枚のパッケージに集約されました。大きさは違いますが、MacBook(12インチ)と同じDNAを持つロジックボードのデザインといえます。
ロジックボード表
(1)インテルコアi5プロセッサ (2)インテルプラットフォームコントロールハブ (3)サンダーボルトコントローラ
ロジックボード裏
(4)メインメモリ(LPDDR3) (5)ブートROM
フラッシュストレージ
(6)SSDコントローラ (7)フラッシュメモリ
ワイヤレスモジュール
(8)Wi-Fi&ブルートゥースコントローラ (9)Wi-Fiフロントエンドモジュール
ブロックダイアグラム
【KEYWORD】PCH(プラットフォームコントローラハブ)
内蔵ストレージや各種インターフェイスなどを制御するためのチップ。かつては2つのチップで構成されていたので「チップセット」と呼ぶこともあります。CPUの高速化に伴い、CPUとチップセット間のバスの帯域が不足するようになり、一部の機能をCPU側に統合するなどしてワンチップ化されました。
【KEYWORD】フラッシュストレージが標準に
初代MacBookエアは、1.8インチのハードディスクが標準搭載でしたが、2010年に現在のデザインになった時点でハードディスクが完全に廃止され、フラッシュストレージのみの設計になりました。これにより、筐体に必要な容積が大幅に減り、薄型化にも貢献したといえます。レイアウトも、自由度設計の自由度もアップしました。
MacBookの登場から2年遡って、MacBookエア(Mid 2013)のロジックボードを見てみましょう。プロセッサ(1)が1つのパッケージとなっていて、メインメモリ(4)も直接ボード上に実装されています。ロジックボードだけ見ると主要なチップの数はMacBookと大差ありません。
しかし、フラッシュストレージが外付けになっていることに注目です。フラッシュストレージはSSDコントローラ(6)、キャッシュメモリ、フラッシュメモリ(7)で構成されており、コネクタを介してPCIエクスプレスで接続されます。よって、互換性のあるフラッシュストレージを換装すれば、足りなくなった内蔵ストレージを増量することができたわけです。といっても、大容量フラッシュメモリは当時MacBookエア本体と遜色ない価格だったので、気軽に換装とはいきません。
また、ワイヤレスモジュール(「AirMacカード」ではありません)も同様に外付けです。こちらもコネクタを介してロジックボードに装着されていますが、なぜ外付けなのかといえば、出荷する地域によって電波法が異なるため、コントローラチップを変更する必要があったからです。現在はチップの統合が進み、1つのチップでさまざまな地域に対応できるようになり、2015年モデルのMacBookエアは直接実装に変更されました。
【2012】MacBook Pro Retina Display(Mid 2012)
2012年リリースのMacBookプロ・レティナディスプレイでは、レティナディスプレイがMacとして初採用され、USB3.0のサポートも始まりました。代わりにファイアワイヤとイーサネットというレガシーなインターフェイスが廃止されており、1つの時代の節目となっていることがわかります。
ロジックボード表
(1)インテルコア7プロセッサ (2)エヌビディアジーフォースGT650M GPU (3)プラットフォームコントローラハブ (4)メインメモリ(DDR3L) (5)サンダーボルトコントローラ
ロジックボード裏
(6)グラフィックメモリ(GDDR5) (7)メインメモリ
フラッシュストレージ
ワイヤレスモジュール
ブロックダイアグラム
【KEYWORD】USB3.0
USB3.0が初めて搭載されたのがMacBookプロ・レティナディスプレイでした。480Mbpsから5Gbpsへ帯域が約10倍になり(理論的なデータレートは4Gbps)、800Mbpsだったファイアワイヤ800をはるかに凌ぐ転送スピードです。すでにサンダーボルトがあったとはいえ、外付けストレージへの転送速度の遅さに悩まされてきたMacユーザにとってうれしい半面、慣れ親しんだファイアワイヤが廃止になって残念がる人もいました。
【KEYWORD】ゼロスピンドルの始まり
アップルはMacBookプロ・レティナディスプレイをきっかけとしてゼロスピンドル化(HDDや光学ドライブといった回転部分のある補助記憶装置を搭載していないこと)を始めました。これが薄型化と軽量化につながり、余ったスペースはバッテリで埋め尽くされて、バッテリ動作時間が延びたのです。光学式ドライブの廃止は、ちょうど1年前にOS Xライオンの入手がMacアップストア経由となったことが伏線になっていたともいえるでしょう。
2012年まで遡ると、Macに初めてレティナディスプレイが載ったMacBookプロ・レティナディスプレイ(以下MBPR)が登場します。
この世代になると、当時プロセッサ内蔵のGPUでは力不足となったことから、独立したGPU(2)が搭載されています。もちろんPCHも個別に載っているため、主要チップが3枚も搭載されており、ロジックボードはかなり大きくなっています。
独立したGPUが搭載されるということは、グラフィックスメモリが別途必要になります。ちょうどロジックボードの裏面、GPUの真下に「GDDR5」(6)というメインメモリよりも高速なメモリが実装されているのがわかります。内蔵GPUはメインメモリの一部を割り当てるため、ここが描画のボトルネックになったり、メインメモリが減ることでソフトの実行速度の低下を招いたもの。そのため、独立GPUが搭載されたMacはパフォーマンスに優れている傾向があります。
プロセッサには、第3世代コアプロセッサとなるアイビーブリッジ(1)を採用。サンダーボルトとファイアワイヤに加えてUSB3.0が搭載されたことで、外付けストレージの選択肢が広がりました。特にサンダーボルトは対応機器が少ないうえに高価でオーバースペック気味だったので、安価なUSB3.0機器が接続可能になったのには大きな価値がありました。
【2008】MacBook Pro(Late 2008)
初代MacBookエアでユーザの好評を得たアルミユニボディを使用し、MacBookプロをリニューアルしたのが2008年モデルです。このときのロジックボードは3チップ構成で、メインメモリがSO-DIMMスロットになっているなど、ユーザによるメモリ増設が可能だった時代です。
ロジックボード表
(1)インテル コア2デュオプロセッサ (2)エヌビディア ジーフォース9400M(GPU統合型チップセット) (3)エヌビディア ジーフォース9600M (4)SO-DIMスロット
ロジックボード裏
(5)グラフィックスメモリ
SO-DIMMモジュール
2.5インチHDD
スーパードライブ
ブロックダイアグラム
【KEYWORD】NVIDIA GeForce 9400M
この頃のMacのアーキテクチャでユニークだったのは、現在のPCHに相当する部分にグラフィックス(GPU)統合型のエヌビディアのチップセットを使っていたところです。独立したGPUも搭載されており、いわばデュアルGPUでした。これらは負荷に応じてMacを再起動せずに切り替えられたのです。
【KEYWORD】イーサネット&ファイアワイヤ800
MacBookシリーズの薄型化にともなってほとんどの現行モデルでは消滅しているイーサネットとファイアワイヤ800がこの頃には残っています。MacBookの厚さを決めているのは最大サイズのポートの高さといえるので、薄くするためにはファイアワイヤ800という自社が主導してきたインターフェイスですらバッサリ切り落とすあたり、アップルらしい判断です。
現行のMacシリーズは、ほとんどのパーツが直接実装されており、ユーザの介入する余地がないのは、先ほど触れたとおりです。そのため、購入時にメインメモリやストレージ容量を決めてから買わないと、あとで変更ができないのです。しかし、2008年まで遡ると、この様子は今とは変わったものになります。
ロジックボードの構造自体は、2012年のMBPRと同じく目立ったチップは3枚と同じですが、メインメモリ、ハードディスク、光学式ドライブが外付けされています。当時、ハードディスクの換装は、それこそ初心者でも可能でした。メインメモリも、購入時にカスタマイズすると高価だったため、この頃はMac本体は初期構成で購入して、PCパーツショップなどでドライブやメモリを買って換装するユーザも目立ちました。
また、プロセッサ内蔵のGPUが貧弱だった時代のため、本機には独立GPU(3)とグラフィックス(GPU)統合型チップセット(2)が載っています。これらはバッテリ状況や負荷に応じて、Macを再起動せずに切り替えることができました。
なお、本機からアルミユニボディ化されたものの、現代と比べるとまだ分厚く、イーサネットポートやファイアワイヤ800ポートが残っている時代でもあります。この頃のMacBookプロの拡張性は非常に高かったのだといえます。
【2005】PowerBook G4(15"-Double Layer Super Drive)
いよいよインテル時代からPowerPC時代まで遡ってきました。最近Macを使い始めた人には馴染みのない言葉だと思いますが、インテルCPUが搭載される前、Macのノートブックは「PowerBook」という名称でした。ここでは最後にPowerBookと名のついたG4の構造を見ていきましょう。
ロジックボード表
(1)PowerPC G4 (2)ATIモビリティラディオン9700 (3)システムコントローラ(Intrepid) (4)SO-DIMスロット (5)グラフィックスメモリ
ロジックボード裏
(6)グラフィックスメモリ
ドーターカード
SO-DIMMモジュール
2.5インチHDD
スーパードライブ
バックアップバッテリ
AirMacカード
ブロックダイアグラム
【KEYWORD】PowerPC
Macに採用されたプロセッサとしては2つ目にあたる、当時としては最先端のマイクロプロセッサ(CPUよりもMPUと略されました)。アップル、IBM、モトローラの連合によって開発が行われ、派生したプロセッサはプレイステーション3に採用されるなど、評価は高かったもののPowerPC G5の性能向上が頭打ちとなり、アップルはインテルCPUに移行するのです。
【KEYWORD】AirMacカード
73ページで「ワイヤレスモジュールはAirMacカードではない」と述べました。なぜそのように呼ぶ人がいるのかといえば、この頃までWi-Fi機能がいわばオプション扱いだったからです。初めてWi-Fiに対応したのは初代iBookですが、AirMacカードは別売りであり、自分で装着しなければなりませんでした。
2005年まで遡ると、名称が「MacBook」から「PowerBook」となります。インテルCPUへの移行直前に登場したPowerBook G4は、最後のPowerPC搭載のノート型Macになりました。
緑色の基板が歴史を感じさせるロジックボードを見てみましょう。目立ったチップは3枚であるところはMacBookプロと同様ですが、フルサイズのDVIポートを備えているあたり、今では考えられない大きさです。
しかも、Wi-FiモジュールであるAirMacカードや左側のポート類がドーターカードになっているほか、バックアップバッテリもぶら下がっています。
搭載プロセッサは、最後期のPowerPC G4(7447B)1.67GHz(1)で、メモリは当時として主流のDDR2-533規格を採用していました。最大データレート毎秒4.3GBというスペックだったので、現在主流のDDR3-1600と比べると3分の1しかありません。ちなみに、バッテリ動作時間は実質2時間程度だったので、出先で使うには電源アダプタを忘れたらアウト!という時代でした。
ここでページが尽きてしまいましたが、さらに遡るとシステムコントローラがノースブリッジとサウスブリッジに分裂していきます。集積度のアップにより、どんどんパーツが減ってきた歴史を感じられたのではないでしょうか。