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第6話 モビリティの三段活用

著者: 福田弘徳

第6話 モビリティの三段活用

©David Gilder

2017年4月より「消費税軽減税率」が施行される。小売業においては、複数の税率に対応することからさまざまな対策が必要になる。その1つにレジがある。現在導入しているレジが8%と10%の両方に対応しなければならない。大規模チェーンやフランチャイズの店舗では、POSシステムの変更で対応できるかもしれない。しかし、中小企業や個人経営の店舗では、導入しているレジをリプレイスすること自体が困難なケースも多い。

そこで、店舗向けレジの更新・改修に関して、経済産業省が996億円の補正予算で支援を実施する。このタイミングで、レジのリプレイスが爆発的に加速すると思われる。特に最近ではiPadを使ったレジやオーダーエントリー、予約管理、受発注など、店舗の業務にiPadが使われるケースが増えており、iPadを使ったモバイルPOSの普及に拍車がかかるだろう。

しかし、iPad+POSアプリを単に入れれば済むという話ではない。導入しようとすれば、大きな業務プロセスの変更が求められるだろう。

たとえば、各店舗からの受発注のほとんどをファクスで行っているという小売業は数多くある。また、昔ながらの帳票を使った発注作業が定着しているケースもある。当然、ファクスや独自の帳票で送られてきたものはシステムに手入力していくわけだが、商品点数が多くなればなるほど負担は大きくなる。さらに、場合によっては商品名とコードが異なっていて、その都度電話で確認しなければならないこともある。

このようなケースでiPad+POSアプリを使って電子化すればこれらの問題は一挙に解決しそうだが、一方で新たな問題を引き起こす可能性もある。たとえば、個人経営の小売店にとっては、重要な情報がメールで送られても店頭に出ていると気づけず、ファクスのほうが確実な場合がある。つまり、こうした現場に突然iPad+POSアプリを導入したところで、成功する可能性はゼロに近いということである。

導入前にじっくりと考えるべきなのは、「暗黙知」を検証することである。暗黙知とは企業や組織の中にあるコツやカン、ノウハウといったものだ。新しいシステムに移行するよりも、従来どおりの手作業で処理したほうが速い場合もあるだろうし、特定の場合にだけ作用する言語化が難しいノウハウもあるだろう。そうした企業内の暗黙知をすべて把握、検証することがまず大切なのである。それを行わずにiPadを導入しても部門最適で終わってしまい、受発注における業務プロセス全体は改善されないだろう。

人によっては、新しいシステムに合わせて全体の業務プロセスを変えてしまえばいいと考えるかもしれない。しかし、頭ごなしのシステム導入は決してうまくいかない。必要なのは、現場レベルの業務を細分化し、現場での必要性を認めることである。小売業においては、店舗での品揃えや発注業務、棚卸し作業…等々、現場それぞれの各業務をモジュール化し、必要なものをつないでいくような考え方がモバイルには最適である。

iPadの導入は段階的に考えられる。デジタルカタログを見せるための接客ツールなど「基本的なコミュニケーション」の利用が第一段階、iPadから在庫確認ができたり、売上情報を配信したりなど、業務の一部をモバイル化する「プロセスのモバイル化」が第二段階、そして「業務の改革」を実現するのが最終段階である。

モビリティを再定義し、これからのiOS活用は業務の改革を目指すところに来ている。コミュニケーションツールから始まり、プロセスのモバイル化、最終的にあらゆるビジネスプロセスを変革していく。iOSは業務の効率化や生産性向上に留まらず、新しいビジネスプロセスの中で活用されるツールとなる。

Hironori Fukuda

企業や教育機関向けのApple製品の活用提案や導入・運用構築を手がける株式会社Tooのモビリティ・エバンジェリスト。

【URL】www.too.com/apple