検知率は単純には計れない
セキュリティソフト選びにおいて多くの人が最初に求めるのは、やはり検知率の高さではないでしょうか。確かにそれがセキュリティソフトの本質であることは間違いありませんが、これはなかなか優劣をつけにくいポイントです。
コンピュータに脅威を及ぼすウイルスやスパイウェア、いわゆるマルウェアは、新しいものが次々と登場し一瞬で全世界に広がっていきます。そんなマルウェアを検知するためのもっともオーソドックスな方法は、定義ファイルと照らし合わせて、登録されているタイプと同じものを見つけ出すというもの。数時間前に生まれたばかりのマルウェアを駆除してくれるかどうかは、メーカーがどれだけ迅速に発見し、定義ファイルを公開できるかが重要になります。そう考えると、もはやソフト自身の優劣というより、メーカーそのものへの信頼感ということになってきます。
もっとも、最近は未知のマルウェアにも対応できるよう、マシン内で「疑わしい挙動」をするプログラムがないかを監視する「ヒューリスティックエンジン」という技術も利用されています。これ自体は心強い機能ですが、その優劣をエンドユーザが評価することはほぼ不可能です。第三者機関の評価を頼りにしようとしても、機関によって評価にばらつきがあり、判断がしにくい状況です。
Macユーザを守る決め手
では、それ以外に何を決め手にすればいいのか。注目点として挙げたいのが「動作の快適さ」です。セキュリティソフトはバックグラウンドで常にマシンの動きを監視していますが、監視やスキャン中もほかの処理を阻害しないことが大切です。これは、CPUやメモリを大量に占有しないかどうかで確認できます。最近のセキュリティソフトは、ほかに大量にCPUを使うソフトが動いているときはそちらを優先し、スキャンのCPU使用率を自動的に下げるといった仕組みを持つものもあります。
また、もう1つ注目すべきポイントとして、「悪意のあるWEBサイトへの訪問を防いでくれるかどうか」も重要です。一口に悪意のあるサイトといってもさまざまですが、もしそれがマルウェアをダウンロードさせるようなWEBサイトであれば、ウイルス対策ソフトでも被害を防げる可能性があります。しかし、ネットバンキングを騙ってIDやパスワードの入力をさせるような「フィッシングサイト」の場合、ウイルス対策ソフトでは防ぎようがありません。ネット決済やオンラインバンキングの利用が増えている今、フィッシングサイト対策は極めて重要になってきました。ウイルス対策ソフトとは別のツールでフィッシング対策を行うという手もありますが、両方の機能がまとめて提供されているのはやはり安心です。
ソフト比較時のチェックポイント
次から始まる個々のソフト検証では、評価項目や検証データを次のようにまとめています。
?インターフェイス
ユーザにとってわかりやすく親しみやすいインターフェイスかどうか、操作が煩雑にならないよう設計されているかといった観点で、筆者の独断を交えつつ評価しています。
?機能の豊富さ
どれほど豊富な機能を備えているか、ユーザの細かなニーズも満たしてくれるかどうかを評価しました。
?検証機関によるファイルスキャンテスト
国際的にも定評のあるセキュリティソフト検証機関「AV Comparatives」(以下、AV)の最新評価をベースに5段階で表現しました。検証機関はいくつか存在し、AVはその内に1つですので、あくまでも参考程度にとどめておいてください。今回ピックアップしたラインアップの中にはAVでMac版ソフトを検証していないタイトルもあり、その場合はウィンドウズ版の検証結果を元にしています。
?フルスキャン時のCPU使用率
フルスキャン中にアクティビティモニタを表示させ、実行プロセスのCPU使用率をチェックしました。CPU使用率は常に一定ではないため、目視により確認したおおよその範囲を記載しています。検証マシンは現行のMacBookエア13インチ 1.6GHzです。なお、スキャンの実行プロセスは、ソフト名と同じとは限りません。注意しましょう。
?20GBフォルダのスキャン時間
さまざまな形式のファイルを含んだ20GBのフォルダ(ファイル数は約4000個)をスキャンしたときの所要時間です。ソフトによっては、一度スキャンしたファイルを覚えて2度目以降はスキップする場合があるため、それぞれのソフトで一番最初に計測した時間を掲載しています。
【セキュリティソフト徹底比較 ?】
KASPERSKY 2016 MULTI-PLATFORM SECURITY
カスペルスキー 2016マルチプラットフォーム セキュリティ
使ってみて最初に好感が持てるのは、シンプルで洗練された雰囲気のインターフェイスです。豊富な機能を搭載している本ソフトですが、わかりやすい画面構成で戸惑うことなく設定ができます。また、細かなことですが、メインウインドウを開くことなくメニューバーアイコンから保護機能を一時停止できるのは便利なポイント。負荷の大きい作業をしているときにウイルススキャンが始まってしまうのを防げるためです。
そもそも、このソフトのCPU使用率は比較的低い部類に入ります。アクティビティモニタでチェックすると、フルスキャン時でも、120~160%の使用率となりますが、これは今回検証したラインアップでは中クラスの部類です。それでいて、スキャン速度も比較的速いほうでした。
こうしたウイルス駆除の基本性能の高さに加え、その他の機能も充実しています。ネットショッピングやオンラインバンキングの利用時に口座情報などの流出を守るWEBブラウザ機能拡張が利用できるほか、さらにキーロガー(キー入力を読み取って外部に送信するマルウェア)の被害を防ぐためのソフトウェアキーボードまで搭載されているなど、ネット上での決済を徹底的にガードしてくれます。
また、ペアレンタルコントロールの機能もあり、閲覧するWEBサイトの制限はもちろん、子どもがメッセンジャーソフトで電話番号などの個人情報を入力してしまわないよう防ぐ機能もあるのです。OS Xには標準でペアレンタルコントロールの機能がありますが、より細かく柔軟な設定が可能です。小さな子どもを持つ親にとっては、非常にうれしい機能といえます。
本製品は1台版のライセンスのほか、5台版のライセンスも用意されています。「ご家族、親戚、友人と分けて使ってもOK!」という、とても融通のきくライセンス形態を明示しているのも気持ちがいいです。
統一感のあるインターフェイス
トーンに統一感があり、洗練された雰囲気のインターフェイス。設定もわかりやすいです。
メニューバーから操作
メニューバーに常駐するアイコンから、一時的に保護をオフできます。メニューバーからオン/オフができるソフトは意外と少ないのです。
ベンチマーク結果は?
ジャバスクリプトベンチマークサイト「Octane」を実行してスコアを比較しました。上は通常時、下はフルスキャン実行中。スコアは落ちますが、今回比較したソフトの中では低下の少ない部類に入ります。
機能拡張でセキュリティ強化
WEBブラウザに機能拡張を入れると、オンラインバンキングやネットショッピングの利用時にセキュリティレベルがいっそう強化されます。
パスワードは読み取らせない
キーロガーによる情報流出を防ぐソフトウェアキーボードまで用意されています。金融機関によってはWEBサイト上に用意している場合もありますが、用意されていないサイトでも安心です。
個人情報の送信を保護
ペアレンタルコントロールでは、設定したワードをメッセンジャーソフトなどで送信してしまわないよう制限できます。
【発売】カスペルスキー
【価格】5台版(ダウンロード・1年):4980円/1台版(ダウンロード・1年):3980円 ほか、複数年ライセンスや台数無制限のプレミアライセンスなどを用意
【URL】http://home.kaspersky.co.jp/
【備考】5台版では1製品につき5台までのデバイスで利用可能(Mac、ウィンドウズ、アンドロイド版を用意)
【セキュリティソフト徹底比較 ?】
VIRUSBUSTER CLOUD 10
ウイルスバスタークラウド 10
モバイルデバイスも含め、複数のコンピュータを持っている人に検討してほしいのがこの「ウイルスバスタークラウド10」。この製品は、Mac、ウィンドウズ、iOSデバイス、アンドロイド、キンドルファイアのそれぞれに対応したツールを提供しており、合わせて3台までインストールできます。1年間のライセンスでパッケージ版が6450円(税込)と、コストパフォーマンスも高く、複数のデバイスを持っていたり、仮想化OSにもインストールしたいという人にとってはお買い得な選択だといえます。
機能面では、マシンのフルスキャンはもちろん、ファイルをダウンロードしたりコピーした直後に自動で行われるリアルタイムスキャン、特定の曜日にスキャンを行ってくれるスケジュールスキャンと、ウイルス/スパイウェアの駆除に関して必要な機能がひととおり揃っています。
そのうえ、有害サイトの対策機能も充実しています。WEBブラウザにインストールされる機能拡張により、金融機関などを騙ったフィッシングサイトをブロック。さらにページ内にあるリンクの安全性も自動でチェックして表示してくれるため、危険なサイトがあればクリックする前に気づくことができます。
面白いのは、SNSからのプライバシー漏えいを守る「プライバシー設定チェッカー」という機能。ツイッターやフェイスブックにログインした際、自分のプライバシー設定内容を確認し、投稿の公開範囲が適切に設定しているか、個人情報が漏れるような設定をしていないかをアドバイスしてくれるのです。SNSというのは不特定多数の目にさらされるもので、こうした機能があるのは心強いでしょう。
ただし、フルスキャン時のCPU負荷は、今回検証したソフトの中では高い部類に入ります。スキャン中はほかのソフトのパフォーマンスが落ちる可能性があるので、フルスキャンは空き時間を見つけつつ、また先述のスケジュール機能をうまく使って運用していくといいでしょう。
整ったインターフェイス
ウイルスバスターのメイン画面。項目がすっきりとまとめられており、わかりやすいのが特長です。
普段使いでも気にならない
ウイルスを発見するとこのような通知が現れます。OS X標準の通知と同じようにコンパクトで、日常の使用を邪魔しません。
リンク先の安全をお知らせ
WEBブラウザに機能拡張を入れると、リンクの安全性を自動でチェックしてくれます。短縮URLでもクリック前に安全かどうかがわかるのはうれしいところ。
SNSこそセキュリティを
SNSの設定を確認してくれる「プライバシー設定チェッカー」。いろいろな情報をうっかり「公開」に設定していて、見知らぬ他人に個人情報が漏れるのを防いでくれます。
CPU使用率は高め
フルスキャン時のCPU使用率は200~300%。フルスキャン時にはほかのソフトのパフォーマンスが落ちる可能性があります。
iOSも守る
iPhoneアプリでは、セキュアな組み込みブラウザによって危険なWEBサイトをブロックしたり、SNSのプライバシー設定をチェックすることができます。
【発売】トレンドマイクロ
【価格】5パッケージ版(1年):6460円/ダウンロード版(1年):5380円ほか、複数年のライセンスを用意
【URL】http://www.trendmicro.co.jp/jp/
【備考】1製品につき3台までのデバイスで利用可能(Mac、ウィンドウズ、iOS、アンドロイド、キンドルファイア版を用意)
【セキュリティソフト徹底比較 ?】
ESET PERSONAL SECURITY
ESET パーソナル セキュリティ
アンチウイルスソフトの存在を感じずに、Macを快適に使いたい。そんな人におすすめなのがこのソフトです。その理由はCPU負荷の低さにあります。スキャン時でもCPU使用率はわずか40%前後に抑えられており、ほかのソフトの処理を阻害することがありません。日常的に使っていて、このソフトが動作しているせいでほかの処理が重く感じることはほとんどないでしょう。
機能面では、リアルタイム監視などのウイルス/スパイウェア対策機能はもちろん、豊富なセキュリティ機能を備えています。メールの送受信に使用する通信ポートを監視して、メールからのウイルス侵入を防ぐ機能や、WEBブラウジング時のフィッシングサイト対策もしっかり押さえています。フィッシング対策のセキュリティはWEBブラウザの機能拡張ではなく通信ポートを監視する方法のため、サファリやグーグルクロームのような代表的なWEBブラウザ以外のものでも効果を発揮してくれます。
さらに、ファイアウォールの機能をしっかり備えているのもこのソフトの特徴です。OS X標準でもファイアウォールの機能はありますが、基本的にはソフトごとに通信の許可/ブロックを設定できる程度。一方このソフトでは、ソフトごとに外向き/内向きの通信を個別に制御できるほか、「画面の共有を許可」「iOSデバイスからのハンドオフを許可」など通信の内容ごとにオン/オフを設定することができるのです。ファイアウォールの設定は多少ネットワークの心得を必要とするので万人向けの機能とはいえませんが、セキュアな環境を必要とするユーザにとってこのソフトの柔軟なファイアウォール設定は心強い。
機能が多い分、細かく設定をしていこうとすると複雑なインターフェイスを目にすることになりますが、標準設定で使っても基本的に問題ありません。気軽にセキュリティ対策をしたい人にとっても、高度なセキュリティ設定をしたい人にも、どちらにもおすすめできるソフトだといえます。
まとまったインターフェイス
細かな設定は多岐にわたるものの、メインインターフェイスはスッキリとまとまっています。
CPU使用率はとても低い
CPU使用率はスキャン時でも40%前後と極めて少なく、他のソフトのパフォーマンスに支障が出る可能性は低いです。
危険なページを遮断
WEBブラウジング中に危険なページに遭遇すると、このような表示になります。機能拡張ではなく、通信ポートを監視して遮断する仕組みです。
柔軟なファイアウォール
ファイアウォール設定では、最初から複数の項目がリスト化されており、先頭のチェックボックスで通信の許可/ブロックを制御できます。
コンテキストメニューから実行
フォルダ/ファイルのスキャンはメインパネルを開いてもできますが、コンテキストメニューからすぐに実行できるのが便利です。
OS Xと組み合わせる
ペアレンタルコントロールでは、WEBサイトのカテゴリごとに細かく制限できます。使用時間を制限する機能などはないので、OS X標準のペアレンタルコントロール機能と組み合わせて使っていく必要があります。
【発売】キヤノンITソリューション
【価格】パッケージ版(1年):オープンプライス/ダウンロード版(1年):3200円/パッケージ版(3年):オープンプライス/ダウンロード版(1年):4300円
【URL】http://canon-its.jp/product/eset/
【備考】端末を問わず1台のデバイスで利用可能(Mac、ウィンドウズ、アンドロイド版を用意)
【セキュリティソフト徹底比較 ?】
SOPHOS ANTIVIRUS FOR MAC
SOPHOS Antivirus for Mac
無料のセキュリティソフトはMacでもいくつか存在しますが、せっかくソフトをインストールしたのに、環境がすべて英語で書かれていて、何がなんだかわからない…と困惑した人はいないでしょうか。しかし、このソフトならインターフェイスが完全に日本語化されてるため、そんな心配は無用です。最初の設定やスキャン操作がわかりやすいのはもちろん、いざ感染ファイルが見つかったときも、警告の内容がしっかり理解できるので安心できます。
また、無料ソフトとしては機能が充実している点も魅力です。リアルタイムスキャンだけでなく、フルスキャンや指定フォルダのスキャン、スケジュール機能なども備えています。さらに、悪意のあるWEBサイトをブロックする機能まで付いています。
ただし、スキャン速度はあまり高速とはいえません。テストで20GBのフォルダをスキャンしてみたところ1分20秒かかりました。これは、今回の比較検証では遅い部類に入ります。スキャン中のCPU使用率は50~80%と比較的抑えられていますが、スピードを考えると、フルスキャンはスケジュール機能を使って、Macを使用していない時間に行うのがいいでしょう。なお、一度スキャンしたファイルを覚えて、次のスキャン時にスキップする機能などは備えていないようなので、Mac内のすべてのデータをチェックするフルスキャンは比較的長い時間がかかります。
また、本ソフトを使用していて少し気になったのが、ウイルス定義ファイルの更新に時間がかかってしまったことでした。マシンによっては、その間もパフォーマンスが少々低下してしまい、負荷の高い処理をしているときに更新が始まってしまうと煩わしく感じることがあるかもしれません。
このように一長一短はありますが、無料でありながらウイルス/スパイウェア対策とフィッシングサイトのブロックの両方ができるというのは、ユーザに大きな安心感を生んでくれます。
安心する「日本語対応」
メニューバーも含め、すべての項目がしっかり日本語化されています。無料ソフトでは貴重なポイントです。
シンプルなウインドウ
メインウインドウはいたってシンプル。ここからMac全体のスキャンが行えます。
負荷は気にならない程度
スキャン時のCPU負荷はそれほど高くなく、スキャン中にジャバスクリプト実行テストのOctaneを実行しても、通常時と比べそれほどスコアが低下しませんでした。
ダイアログで脅威を通知
標準設定では、ウイルスを検知するとこのようなパネルが現れます。また、数秒間表示されて自動で消えるコンパクトな通知にすることも可能です。
空き時間にウイルススキャン
スケジュール機能も備えています。フルスキャンはMacの空いている時間を狙って設定しましょう。
危険なサイトをブロック
フィッシングサイトなどをブロックする機能も備えています。機能拡張ではなく、ポートを監視して危険なサイトをチェックしているようです。