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第36話 3.11から学ぶ 日常と非日常のIT

著者: 林信行

第36話 3.11から学ぶ 日常と非日常のIT

「東日本大震災と情報、インターネット、Google」

【URL】http://www.google.org/crisisresponse/kiroku311/

4年前の今頃、グーグル社の依頼を受け、友人の山路達也さんと一緒に東日本の沿岸部を回っていた。「間もなく東日本大震災から1周年」という時期だった。東京は計画停電の心配がなくなった頃には、人々も平常心を取り戻し始めていた。「震災1周年」を迎えたあと、人々の関心はさらに薄れるだろう、という思いがあった。グーグル社の公式サイトに今も掲載されている連載「東日本大震災と情報、インターネット、Google」は、あのときITがどう役に立ったのか、どう役には立たなかったのかの調査報告だ。東日本大震災での失敗から学び、それを繰り返さないようにという思いで書いた。

たとえばコンピュータにも人にも扱いやすいマシン・リーダブルな資料作り。震災直後、多くの自治体や電話会社などの公共機関の資料が未だに手書きやPDFであることが問題になった。

震災直後、私は自分にとって身近な東京で誰が一番困っているかをまず考え、日本語がわからない外国人が困っているだろうと日本のニュース媒体の情報を精査して要約し、英語でツイートを始めた。

あのとき、仮設公衆電話がたくさん設置されたが、実はその地図が日本語だった。そのまま地名を英語にしてもわからないだろうとマップを作り始めたものの、仮設電話のリストは紙に手書きをして作られていたようで、字の形は似ているけれど微妙に名前が違っていたり、2つの名前の似た小学校の名前が写し間違いでごっちゃになったりしていた。それを一つ一つツイッターなどで問い合わせ、何人か仲間も見つけて完成させ、その後自分ではメンテナンスができないからと被災地で役立ちそうな地図を作っていた他の人に譲渡した。

実際に、あの編纂した地図がどれだけの人に役立ったのかは不明だが、今思えば地図を印刷して現地で配るか、現地の防災ラジオ放送などに提供したほうが良かったかもしれない。

ここからの学びは、大事な情報を手書きで記録してしまうと、写し間違えなどのリスクも高ければ、拡散するのも、地図など他の形に加工するのも大変だということ。また、その際の記録方法も重要で、せっかく用意したリストをPDF形式にしてしまっては意味がない。なぜなら、たとえば公衆電話の場所を一件一件手作業でPDFからコピーしていては大変だからだ。

PDFにするくらいなら、テキストファイルに場所名を書き連ねたほうがよほどいい。あとから場所と場所の間をカンマで区切る、スペースで区切るなど決まったルールで整形すれば、コンピュータプログラムで何千、何万件のデータでも一瞬で地図に展開するなどの加工ができてしまうからだ。

もっとも理想的なのはエクセルやナンバーズなどの表計算ソフトで1行あたり1件、1マス目は場所名、2マス目は電話の台数のようにしっかりとルールを作って表記すること。日頃から情報をマシン・リーダブルな形で記録しておけば、日常業務を効率化してパフォーマンスを高められるだけでなく、いざというときにも役立つ。

ツイッターなどの活用にしてもそうだ。東日本大震災では、リアルタイムに情報を拡散する手段としてツイッターが大活躍したが、一方で救出済みの人の助けを求める声を拡散してしまったりと、意図にそぐわない情報発信をしていた人も少なくない。情報発信者の前後のツイートを見てから、あるいは情報が発信された日時を確認してからにしないと痛い目に合うのは普段でも同じで、日頃から習慣づける必要がある。

先のグーグルの連載を書いての一番の学びは、日頃からやっていないことを皆がパニックしている被災時に突然始めようとしたって絶対にできっこない、ということだった。2016年、東日本大震災から5年目を迎える今年、日本人はどんな進化を見せることができるだろう。

Nobuyuki Hayashi

aka Nobi/IT、モバイル、デザイン、アートなど幅広くカバーするフリージャーナリスト&コンサルタント。語学好き。最新の技術が我々の生活や仕事、社会をどう変えつつあるのかについて取材、執筆、講演している。主な著書に『iPhoneショック』『iPadショック』ほか多数。