イラストレーター
Hama-House
金沢美術工芸大学を卒業後、映像制作会社勤務後、イラストレーターに。広告、雑誌、WEB媒体などで活躍中。最近の主な仕事に富士通エフサスTVCM、TOYOTA/LINEスタンプ、森永ヨーグルトGO-UP企業広告など。日本イラストレーション協会会員。【URL】http://hama-house.com
イラストの新しい表現を探して
これは本当に同じ人が描いたものなのか? Hama-Houseさんの作品を並べて鑑賞すると、思わずそんな驚きの言葉が口から出そうになる。ポップで記号的な作品もあれば繊細でクールなタッチもあり、そうかと思えば油絵を思わせる濃厚な色味のイラストもある。仕事に応じてあらゆるタッチを使い分ける魔法の腕を持つイラストレーター、それがHama-Houseさんだ。専業イラストレーターになって8年。以前はプログラマーをしていたという異色の経歴の持ち主である。既存のイラストレーターの枠に収まらない活躍の裏には、そうした経験も関係しているのかもしれない。技術の幅の広さからもわかるように、Hama-Houseさんは常に新しい表現を模索している。そのために欠かせないツールがアドビのソフト。特にイラストレータ、フォトショップは手足のような存在だ。最近ではアドビCCを導入したことで、さまざまな恩恵を受けているとHama-Houseさんは話す。
─ CCなら簡単にアドビのソフトが入れられるので、これまで使っていなかったソフトにも気軽に挑戦することができます。アフターエフェクツなんかはパッケージで買うと高かったですからね。正直、そこがCCになって一番よかったと感じているところです(笑)。
動画制作のためのツール、アフターエフェクツの名前が出てきたことを意外に思うかもしれない。イラストレーターであるHama-Houseさんにとって、アフターエフェクツがなぜ必要なのか。
─ イラストは今まで静止画しかありませんでした。しかし、ほかの人と同じように絵を描くだけでは新しい表現にたどり着くのは難しい。昔からうまいイラストレーターはたくさんいますからね。差別化するなら、過去の人が技術的にできなかったことをやるのが手っ取り早いのです。たとえば、イラストがほんの少しだけ動くとかね。
紙での仕事の割合に比して、WEB媒体での仕事が増えているというHama-Houseさん。紙ではイラストは静止画のままだが、WEBなら動かすこともできる。そんなときはアフターエフェクツとイラストレータを連係させて作業を行うという。「少しだけ動くイラスト」の案件はすでにいくつも入っている。
そのうちの1つが、マクドナルド公式インスタグラムのコンテンツを作成するというものだ。著名なクリエイターが9つの連作の中で自由に表現を行い、リレー形式でバトンを渡しながらコラボしていく。Hama-Houseさんはそのトップバッターに選ばれた。
─ 僕が提案したのは、1つ1つがアニメーションとして成り立ちながらも、9枚揃うことでワンビジュアルとして見られる作品です。これもイラストレータとアフターエフェクツを使って作りました。
最新の作品はイラストと動画のコラボ
日本マクドナルド公式インスタグラム(@McDonaldsJapan)で公開されたイラスト作品。9つの連作で、1つ1つが短い動画として独立しながらも、全部揃うと1つのイラストとしても完成する。
CCだからほかのソフトも取り入れやすい
アフターエフェクツにイラストレータのデータをリンクして動画作成。20種類以上のアドビソフトを利用できる「コンプリートプラン」に加入するHama-Houseさんは、普段使わないアフターエフェクツも追加料金なしで利用できる。
モバイルアプリの可能性
見る人を驚かせたい、ワクワクさせたい。そんな思いを持つHama-Houseさんにとって技術の最先端に身をおくことは絶対条件だ。もともとアドビのソフトは常に最新版のパッケージを購入していたが、アドビCCに移行したことでアップデートが頻繁に入るようになり、追加料金なしで最新ツールを使える環境を手に入れることができたという。
─ クライアントがトップクリエイターということも珍しくありません。そんなときにバージョン違いでデータが開けないなんてことはあってはならないことです。かっこつかないですからね。
イラストレータでツールパネルのカスタマイズを行える「カスタムツールパネル」も、CCになって導入されたお気に入りの機能だ。不必要なツールは非表示にすることで、必要なツールに素早くアクセスできるようになったという。そうした無駄をそぎ落とすことで、ワークフローはさらに洗練されていく。
最新のツールといえば、続々とリリースされるアドビのモバイルアプリにも関心を寄せている。アプリ単体の機能もさることながら、マルチデバイスを活用した連係には注目しており、それらを駆使して作品を制作してみたいと意気込むHama-Houseさん。とはいえ、現状そうした利用シーンはなかなか描きづらいのだという。その大きな理由はコンプライアンスの問題だ。
─ 特に超大手企業から請けている仕事には、絶対に外に出せないものも多いのです。仮にそのアイデアがオープンなカフェで描かれたものだとわかったら…クライアントからすると、この人大丈夫かなと思うでしょう。一般の人にも権利意識が芽生え始めた昨今、フィールドワークでデザインの素材を収集するということもありません。
と慎重な姿勢を崩さない。ラフ作成から作品制作、パッケージ化までをMacミニとMacBookの中だけで完結させるのがHama-Houseさんのスタイルなのだ。
─ ただ、ふとした思いつきや落書きを今はスケッチブックに書き散らしている状態なので、それをiPhoneのキャプチャCCで撮ってライブラリに保存、整理するという使い方はありかもしれませんね。スケッチブックの状態だとあとから見返すこともないので、そういうやり方はおもしろいかも。
気になるモバイルアプリ、キャプチャCC
iOS用アプリ「キャプチャCC」の「シェイプ」機能を使えば、撮影した写真データを瞬時にベクターグラフィックスに変換できる。アドビCCの「ライブラリ」に保存することで、Mac上のイラストレータに適用するのも容易だ。
プロとしては安定性も重要
Hama-Houseさんは、ほかのクリエイターやクライアントと制作途中でデータをシェアしたり、一緒に1つのプロジェクトを編集することはないという。共有はドロップボックスを使って、自分のマシン2台でデータのやりとりをするのみ。徹底してクローズドな環境を作り、その中で作品を仕上げていく。もっとも、クラウドをはじめとするさまざまな新しい機能の追加については歓迎しているという。
─ 機能が増えるのはいいと思いますよ。作り手には既視感を避けたいという思いがあって、そのためにはどうしたらいいか、僕も毎回悩みます。アイデアでうまくいけばいいのですが、そうではなく新しいツールや機能で見たことのない表現ができる可能性があるなら大歓迎です。こういうのは、早い者勝ちみたいなところがありますからね。
アップデートは即座に行い、常に最新の機能にチャレンジするというHama-Houseさん。プロの中には慣れた環境を維持したい人もいるかもしれないが、「僕はそうじゃない」と笑う。
─ リスクを考えないといけない立場の人は、アップデートにも慎重にならざるをえないでしょうけど、僕はイラストレーターだし、1人でやっているので気になりません。ただ、安定性はやはりほしいですね。今のアドビはどんどん進化しているけど、細かい不具合はあとから直そうとしているように見えます。プロとしてはより安定した環境が重要です。
さまざまなタッチのイラストや動画に加えて、現在はマンガの連載にもチャレンジ中だ。WEB媒体の特性を生かして、全コマをGIFアニメで少しずつ動かすという試みに挑戦している。イラストレータ、フォトショップ、そしてアフターエフェクツ。3つのソフトを自在に操りながら、いち早く最新の機能を作品に取り込んでいくHama-Houseさん。次はどんな新しい表現を見せてくれるだろうか。