話題のフレームワークを利用
2016年も明けて間もなく。Macアップストアに新しいソフトが登場し、話題となった。イスラエル発の「Veertu」という、OS X上でウィンドウズやLinuxといった異なるプラットフォームのOSを動かす、「仮想化ソフト」と呼ばれるジャンルの製品だ。
このジャンルにはすでにいくつもソリューションが存在するが、最後発であるVeertuが話題になったのはなぜか。それは、OS Xに搭載されているネイティブ仮想化フレームワーク「Hypervisor.framework」を利用した初めての市販ソフトだからだ。
OS Xヨセミテから新たに搭載されたこのフレームワークについては、約1年前に本誌で解説を行っているが、その際にはまだ「hvdos」という小さなDOSをエミュレートする実証環境が存在するのみだった。その後、昨年8月にはFreeBSD向けに開発されていたものを移植した「xhyve」がリリースされたことで大きく前進。しかし、インストールするにはXcodeが必要など、万人向けではなかった。
その点インタラクティブなGUIを持つVeertuは多くの人が「使える」レベルで用意された製品だ。
実際に使用感をレビューしてみよう。Veertuを起動すると、ブートするOSをISOディスクイメージもしくはDVDなどのパッケージからインストールするか、クラウド上に用意されたVeertuに最適化されたUNIX/Linux系のOSをダウンロードして展開するかを選ぶ。あとは、画面に表示される各システム標準のインストーラの指示に従って作業をすれば完了だ。
ここまでの一連の流れは、既存の仮想化ソフトと変わりない。では、Veertuを使うメリットはどこにあるのだろうか。大手であるVMウェア・フュージョン(VMware Fusion)とパラレルス・デスクトップ(Parallels Desktop)と比較してみよう。まずはソフトのサイズだが、VMウェアが778・2MB、パラレルスが676・8MB、Veertuはわずか26・1MBという驚異的なコンパクトサイズになっている。動作に必要なフレームワークの多くを独自に開発するのではなく、システム内のハイパーバイザを利用することで大幅な削減が実現できている点は評価できる。
次にパフォーマンス面はどうだろうか。それぞれにウィンドウズ10をインストールし、いくつかのベンチマークテストを使って計測したところ、プロセッサやメモリのパフォーマンスはどのソフトもほぼ互角の性能を出している。しかしVeertuの場合、ディスクの読み/書きに関しては1割程度、そしてグラフィックス性能に関しては半分程度しかパフォーマンスが出ておらず、実際に使用してみると使用不能ではないものの、若干のスクロールの遅さを感じるのは否めない。総合性能スコアとしてはやはりVMウェアやパラレルスに比べるとまだまだ、といったところだろう。
また機能面に関していうと、前述の性能を最適化するためのドライバ類がまだ不完全であり、USBなど一部主要なインターフェイスが正常に動作しない。スナップショット(保存された以前の状態に戻す機能)や共有フォルダなどの拡張機能も未実装なため、仮想化ならではのメリットがまだ享受できないのは残念だ。
次世代の主役になれるのか
現時点の結果から考えると「まだVeertuをメインの仮想化ソフトとして使うのは早い」と判断する読者も多いだろう。では、長期的な視点で見てVeertuにはどんな利点があるのだろうか。
まず、最初に挙げられるのが「OSがバージョンアップするごとに高速化が期待できる」という点だ。VeertuのプログラムのほとんどはOS Xそのものに内包されており、アップル自らがハードウェアに最適化したハイパーバイザへと仕上げていくほど、その恩恵を直接受け取れる。
さらにVeertuは無料で利用できるので(ウィンドウズなどの商用パッケージのインストールに関しては有料)、バージョンアップのコストなどを考えていくと、Veertuを使うメリットはあるだろう。
また、VMウェアやパラレルスが今の形態のままアップデートを続けていけるのか、という問題もある。OS Xエルキャピタンでは、新たなセキュリティ整合性保護機能「SIP(System Integrity Protection)」が搭載された。サードパーティ製品がシステム領域にソフトウェアを追加できないようにして安全性を保つ仕組みだ。仮想化ソフトは実行速度を最適化するため、KEXT(カーネル機能拡張)をシステムに近い場所に配置して利用している。現時点では問題ないが、今後のセキュリティ事情によっては何らかの制約が課される可能性も少なくない。その点、アップルが理想とする「ソフトウェアの作り方」の模範解答のような設計になっているVeertuの未来は、安全そのもの。
この新しいフレームワークは、登場からようやく2年目に突入したばかりだが、OS Xにもハイパーバイザのシステムが搭載され、なおかつ活用事例がこの短期間でリリースされたことは喜ばしいことだ。選択肢の少なかった仮想化プラットフォームに有用な可能性が増えたことは間違いなく、また来年までには大きな動きが期待できるだろう。
仮想化ソフトベンチマーク
コンピュータ上でウィンドウズがどの程度うまく動作しているかを示す「ウィンドウズ・エクスペリエンス・インデックス」を測定できるソフト「WIN SCORE SHARE」でスコアを測定。数字が大きいほど高速で、応答性が高くなる。
【NewsEye】
筆者は、Veertuで余剰のCPUパワーを使った小さなLinuxサーバを構築し、サービスのテストなどを行っている。GUIを切った状態で利用しており、パフォーマンスの低下もなく快適だ。強いていうなら、バックグラウンドで起動し続ける「ヘッドレスモード」が欲しいところだ。