【今回の先生】カマタ_ブリッヂ工房長 秋吉浩気さん
建築家。メタアーキテクト。東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。建築系ハードウェアスタートアップRELLUFを起ち上げ、さまざまな地域のまちづくりに参画する行動派。ShopBot社から「ShopBot Guru」に認定されており、エバンジェリストととして国内8拠点にShopBotを導入。
生活の中の不便を作って解決しよう
先日、MacBookエア11インチから、プロの13インチレティナに買い換えました。サクサク動くし、画面は鮮やかだし、言うことなし! と思いきや、1つだけ気になることが。いつもの机で作業していると、鋭角的なMacBookの縁が腕に食い込んでくる…。エアのときはそうでもなかったんですが、プロだと厚みが増すのでそう感じるようです。痛い。うーん、どうしよう…と悩んでいたところ、東京・蒲田に大型の木工用工作機械を備えたファブスペースができたという記事を見かけました。この際、専用の机を自分で作ってみようかなあ。
「あの、MacBookプロがはまるような、へこみがついている机って作れますか?」とカマタ ブリッヂ工房長の秋吉浩気さんに聞いてみると、あっさり「作れますよ」とのこと。通常はワークショップなどを催して、もの作りの面白さを地域に発信しているカマタ ブリッヂ。今回特別に、個人授業&取材をお願いすることができました!
私が適当なイメージを描いていったところ、その場で3Dデータを作成してくれる秋吉さん。1時間もしないうちにMacBookプロ専用机……もといちゃぶ台が出来上がりました。サイズを正確に測って作っただけあり、天板とMacBook本体の上面が段差なしにはまっています。脚も自分の膝の幅に合わせたので、ぶつからずに快適。こんな簡単に、自分の体に合った家具ができるなんて。ちょっと感動しました。
カマタ_ブリッヂにある大型のCNC(コンピュータ数値制御)ルータ「ShopBot」。刃物を数値制御で移動させて、デジタルデータで設定した形に加工します。ここまで大きいものは日本に数台しかないそうです。
「アイデアを出し、寸法を測り、デザインし、製作する。こうしたことが当たり前になれば、暮らしにまつわるさまざまなものを、自分たちの手で作れるようになりますよ」と秋吉さん。それが一人一人の生活の心地よさ、暮らしやすさにもつながるといいます。
家具だけでなく公園の遊具を作るなど、町そのものを作っていく試みも進行中なのだとか。これからは、暮らしの中の不便を「買う」ことで解消するのではなく、「作る」ことで変えていく時代がやってくるのかもしれません。
自分の体やMacBookのサイズを測って、作りたい家具の寸法を割り出します。「数値の正確さよりも、それを使ってどんなことがしたいのか、そのイメージのほうが重要」と秋吉さん。
通常のワークショップでは、3Dデータも自分たちで作ります。今回は時間がなかったので、秋吉さんに作成してもらいました。次の2つのソフトを使って作成します。
Rhinoceros 5
【URL】http://www.rhino3d.co.jp/
Vcarve Pro Shopbot Edition
【URL】http://www.shopbottools.com/mproducts/software_vcarve.htm
木材をShopBotにセット。今回使用した素材は合板です。木のいい匂いがしました! カット中に木材が動かないよう、基盤に固定したらカッティングスタートです。
ShopBotのすべての動きを、このソフトで制御。板の角を原点として、刃のある位置がX、Y、Z座標上の数値で表示されます。
ShopBot Control Software
【URL】http://www.shopbottools.com/msupport/controlsoftware.htm
データどおりにShopBotが動くのであとはお任せ。深く切り込んで刃が折れないよう、少しずつ削るように進めていきます。
天板が切り出されました。穴をあけたのは、裏からの排熱を効率よくするためです。
切り出した脚を天板にはめます。穴と脚のサイズがぴったり同じなので、結構カタイ…。金槌で勢いよく叩きながらはめていきます。
完成! 見てください、この段差がまったくないMacBookと天板の境目。これでもう腕が痛くならない!
作りながら暮らす共同住宅
カマタ_ブリッヂ
カマタ_ブリッヂ
住所:東京都大田区西蒲田1丁目2-12
【URL】http://www.atkamata.jp/about/ブリッヂ
築40年近い「太平橋コーポ」という共同住宅が、リノベーションにより生まれ変わった「カマタ_ブリッヂ」。1階には、大きな木材をカットできるCNCルータ、3Dプリンタ、レーザーカッターなどを備えたファブスペースが。コワーキングスペースも併設しており、入居者・一般向けの工作機械を使ったものづくりのワークショップなども開催されています。海苔づくりの町から町工場の町へ。そしてさらに次の変化を迎える蒲田の、まちづくりを仕掛ける拠点となっています。
崎谷実穂
北海道生まれ。人材企業の制作部で求人広告や企業制作物のコピーライティングを経験したのち、新聞社の広告部門の記事制作で100名以上の著名人・タレントなどに取材。現在はビジネス系、学術系、教育系の記事および書籍のライティングを中心に活動。