12月25日。午前0時になったその瞬間、湖の周りの村という村が、いっせいに光りだした。暗闇にチカチカ光るその正体は花火。無数の爆音が、休む間もなくどこかで上がる。その晩、決して小さくはない湖の周りすべてが、打ち上げられた花火で光り輝いていた。
この時期になると、僕は、4年前に過ごした中米の小さな村でのクリスマスを思い出す。アティトラン湖畔に点在するマヤ民族の村の1つに、そのとき僕らは滞在していた。伝統衣装を着た村人が湖で洗濯をし、ついでに体も洗い、小さな市場に集まって買い物をする、そんな素朴で居心地のいい村だった。
マヤの村といえど、村人の言語はスペイン語で宗教はキリスト教だ。クリスマスが近づくにつれ、村の雰囲気も少しずつ変わっていく。市場には飾り付けが売られ、色とりどりの花火が並びだした。そして毎日、村のどこかで見かける人だかり。“ポサダ”と呼ばれるキリストの両親の像が、クリスマス前の9日間、選ばれた家庭を転々とするそうで、それを一目見ようと多くの人がつめかけるのだ。イブの夜、ポサダの教会への到着と花火大会で、村のクリスマスは最高潮を迎える。
激しいクリスマスイブが明けた朝、花火の燃えカスが散乱する村は、異様なほど静かだった。夕方、人々は教会に集まり、祈りを捧げる。松ヤニのような匂いのするお香で、うっすらともやがかる中、昨日とはうって変わって厳かに、村人たちの夜は更けていった。
鈴木陵生(Ryosei Suzuki)
映像作家。2011年より夫婦で世界一周を始める。旅の様子を発信する映像サイト「旅する鈴木」が、平成26年度文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に。2014年11月、DVD&Blu-ray「World TimeLapse」(KADOKAWA)をリリース。【URL】 http://ryoseisuzuki.com
【PS】
ちなみに、アティトラン湖畔のこれらの村では、年明けの瞬間にもたくさんの花火を炸裂させます。湖を取り囲む村全部から、同時に花火が上がり出す様子は実に圧巻。思わず僕らも花火を買い込んで参加してみました。めでたい気分がこのうえないです。