新しい撮影の選択肢
前号に引き続き、オリンパスの新ジャンルカメラ「AIR A01(以下、A01)の検証を行っております、氷川です。今月は実際に撮影をしてみます。
撮影は付属のマウンタを使って、A01の背面にiPhoneを取り付けて行うのがスタンダードな形でしょう。この状態であればミラーレス一眼とほぼ同じスタイルとなり、どのレンズを使っても安定した撮影が可能になります。オリンパス純正の「M.ZUIKO DIGITAL ED 75mm F1.8」のような単焦点レンズで撮影すると、iPhoneに付けるコンバージョンレンズなどでは到底実現できないクオリティに、思わず顔がにやけてしまいます。
A01とiPhoneを分離させて撮影することもできますが、本体が円筒形なことや、レンズとの組み合わせによってはA01側が500グラムを超えてしまうため、片手でA01を持ち、もう片手にはiPhoneを持って撮影、みたいなスタイルにはちょっと無理があります。
軽量のレンズを使えば、A01を片手で持つのは簡単です。個人的には「フィッシュアイ・ボディキャップレンズ」を使った撮影がおすすめ。魚眼レンズなので撮影範囲は超広角、大雑把なフレーミングでもそれなりに撮れるので、今までのカメラでは構図を確認して撮ることが難しかったアングルも、iPhoneでざっくりと構図を見ながら撮影できて大変便利。ほかにも、定点観測や野鳥撮影のように、撮影者が被写体の近くにいないほうが良い条件で、三脚に設置してリモート撮影をするなど、本体の小ささを活かした撮影が楽しめます。
A01とiPhoneの接続は、A01自身がWi−Fiの親機となる「アドホック接続」なので、ルータを必要とせず、野外でも接続が可能。さらに、一部のレンズではiOSアプリ側からズーム操作も可能なので、ズームレンズの「M.ZUIKO DIGITAL EZ12-50mm」などは野外撮影における強力な組み合わせとなりそうです。
静止画の撮影に加えて、A01はムービー撮影にも対応しています。専用アプリも用意されており、小型・軽量な本体と豊富なレンズの選択肢を活かしてアクションカムよりも美しい映像の撮れる「イチガンムービー」的ツールとしても利用できます。まさに「アイデア1つ」で使い方は広がりそうです。
とはいえ、従来のカメラを置き換えて、メインのカメラとして使えるか?といわれるとそこは難しいところ。気軽に写真を撮れる便利さはiPhoneに敵いませんし、ペアリングが速いとはいえ最初の起動には10秒程度はかかるため、1秒を争うような機動力を求められる撮影には不向きです。iPhoneのカメラ画質もこれだけ向上してくると、スナップショット程度ではA01の出番がないのも事実。
では一眼レフと比較するとどうか、といえばこちらにも「超えられない壁」が存在します。高精細なレティナディスプレイをファインダ代わりに使えるとはいえ、本物のファインダに比べればピントの山は掴みにくいですし、A01からiPhoneに写真を転送する際には撮影あたり10秒以上の時間がかかります。「すぐに撮りたい」というレスポンスを求めるなら、一眼レフの機動性には勝てません。そういった点でもこのカメラは「玄人向け」であり、メインカメラとして使うものではないのでしょう
多数のレンズが可能性を広げる
一番右の白いレンズが「フィッシュアイ・ボディキャップレンズ」。薄くて軽い超広角レンズです。
A01による作例
フィッシュアイレンズを使えば狭い室内でも集合写真を簡単に撮れますし(左)、大口径単焦点レンズを使えば、iPhoneでは出せない柔らかなボケ味が楽しめます(右下)。手ぶれと明るさ調整が難しい満月の撮影も、三脚とマニュアルでの露出調整でバッチリです(右上)。
フレキシブルアームで機動力アップ
自宅にあったのは一眼レフ(望遠対応)用だったためやや大ぶりな感はありますが、もう少しコンパクトなものを選べば機動力は高そう。
いつでもどこでも一緒
しかし、A01にはそれを上回る魅力があります。ボディが小さく、採用しているレンズマウント規格の「マイクロフォーサーズ」にも、小型・軽量なレンズ群が揃っています。レンズ数本と本体を一式まとめてもコンパクトに収まるのは、一眼レフでは得がたい利点です。
マイクロフォーサーズは新しい規格なので、レンズ設計も新しく、安価なのに高品質なレンズが豊富に揃っています。今回使用した5種類のレンズを全部買っても、20万円前後(市場売価ベース)というリーズナブルさ。加えてほかの規格のレンズをマイクロフォーサーズで利用できる変換アダプタも数多く出回っており、ライカマウント用の変換アダプタなどを見てしまうと、中古レンズ屋さんでビンテージレンズを買い漁ってしまいそうな破壊力があります。
さまざまなレンズをシーンに合わせて使い分けたいのが一眼レフユーザの性ですが、A01を持っていればサブカメラとして使えます。筆者が普段使っているカメラバッグはサイドポケットが豊富なタイプなのですが、いつも使っているカメラだとボディ+予備レンズ2本を収納してしまうとそれでいっぱいいっぱいです。今回揃えたA01のセットは全部入れてもまだバッグには余裕があり、iPadや財布など、移動に必要なものが1つのカバンで収まりました。
あまりのコンパクトさに、「メインのカメラも互換性を考えてフォーサーズ系にしてしまおうかな」など本気で考えてしまうくらいの充実ぶり。「とりあえず軽いし、邪魔にならないから持っておこうか」みたいな感覚でカバンに入れておける、大変扱いやすいカメラなんですよね。A01、恐ろしい子…!
予想外の価値が出てくる
撮影後になって気づいたのですが、iPhoneを使っているからなのか、撮影したデータには位置情報が付加されていました。撮影に使ったのはすでに解約済みのiPhone 5。SIMカードが入っていなくても、GPSによる位置情報の取得ができるので、機種変更後に持て余している古いiPhoneの活用法としてA01専用機にするというのは良いかもしれません。
また、A01はブルートゥースとWi−Fi、iOSアプリが使えればタブレットでも利用可能。そう、iPadでも使えるんです。ビューアが大きいと撮影時に複数人でチェックできたり、モデルさんが自身の状態を確認しながら撮影を行う「セルフポートレート」もやりやすいはず。
このように、A01は従来の枠にとらわれない自由な発想でカスタムできるカメラです。公式WEBサイトでは本体の外形、接合部分の3Dデータから内部ソフトウェアの規格に至るまで、多くの情報が公開されており、「使いづらかったら自分でなんとかすればいいじゃない」という18世紀フランス王朝的ハッキング・スピリットを求めているようにも感じます。
使う人によって評価するポイントが全然変わってきそうなこのカメラ、アイデア次第では、デジタルカメラの歴史に残る逸品になるかも?
位置情報を付加
GPSによる撮影地情報記録。あとで見返すときに便利なので本当に重宝します。
オープンプラットフォーム
公式サイトでは、内部仕様が公開されています。カメラの制御系はアプリに組み込むタイプのほか、HTTP通信でも可能だとのこと。これはもう、ハックしてみるしか!
氷川りそなの評価
● 小さいのに本格一眼
● 価格も手ごろ
● 自由度の高い撮影スタイル
● 接続までのレスポンスが悪い
● アクセサリが少ない
【補足】
左の集合写真は「フィッシュアイボディーキャップレンズ」、右下の牡蠣は「M.ZUIKO DIGITAL ED 75mm F1.8」、右上の満月は「M.ZUIKO DIGITAL ED 75-300mm F4.8-6.7 II」で撮影しました。
【補足】
オリンパスの主催している「OPC Hack&Make Project」では、A01の仕様やアプリのSDKなどを公開しています。
【URL】https://opc.olympus-imaging.com
SPEC
[使用期間]60日
【発売】オリンパスイメージング
【価格】3万3800円(税別、ボディのみ)/4万9800円(税別、レンズキットモデル)
【URL】http://olympus-imaging.jp/product/opc/a01
【サイズ】56.9(W)x57.1(H)x43.6(D)mm
【重量】146g
【インターフェイス】ブルートゥースLE、IEEE802.11a/b/g/n
【備考】カメラ部有効画素数1605万画素、総画素数、約1720万画/対応OS:iOS 7.0以降、アンドロイド4.0以降ほか(アプリの制限による)/搭載センサ:4/3型Live MOS
氷川りそな Risonah Hikawa
システム構築からカスタマートレーニング、サポート業務までやらされる会社員兼業ライター。アップルネタで原稿代を稼いでMacやiPhoneを買うエコシステムを絶賛構築中。