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第6世代CPU「スカイレーク」発売、積層化ストレージへの期待も高まる

Macからメモリが消える日が来る? インテル・テクノロジーの最新事情

著者: 加藤勝明

Macからメモリが消える日が来る? インテル・テクノロジーの最新事情

ほぼスキップされた第5世代

2010年に発売したコアiシリーズCPUの第1世代コア「ネハーレン」以降、インテルはほぼ年1回のペースで製品の更新を続けた。時折ネット上で話題になる新型Macのスペックの噂などは、インテルの新製品予想と常にリンクしていたわけだが、最近その法則が崩れてしまった。

2013年、第4世代コア「ハスウェル」を発売したあと、2014年はハスウェルのクロックを上げたコア「ハスウェル・リフレッシュ」を発売。そして2014年9月に第5世代の「ブロードウェル」を採用したコアMが、2015年1月にはコアi5とi7が発売された。

第5世代コアでは、回路設計のプロセスルール(微細度)が22ナノメートルから14ナノメートルに変更された。ダイのサイズは4割近く小さくなったのに、トランジスタ数は3割強も増えている。GPUも大きく強化された。だが第5世代コアはMacの主力にはなれなかった。一体何が起こったのか?

結論からいうと、インテルは第4世代コアの事実上の後継を、第6世代コア「スカイレーク」のCPUに据えた。第5世代コアは量産開始が遅れたこと、さらに第4世代の在庫のダブつきが要因となり発売が遅延。今年登場した13インチ以下のMacBookシリーズに搭載されたものの、15インチ以上のMacBookプロやiMac向けの4コアモデルはCPUの多くが発売されることなく次世代へ移行。かくして第6世代コアが、第4世代の実質的な後継者となったのである。

第6世代コアでは第5世代に引き続き、内蔵GPUの性能向上に主眼が置かれている。内蔵GPUはナンバリングルールが変更され「インテルHDグラフィックス500」シリーズとなった。EU(実行ユニット)の構造が改良され、描画性能はもとより、GPU性能の全体的な向上が期待される。

ただし第6世代コアへ移行することで得られる描画性能の向上は、CPUが搭載されるデバイスによって伸び幅が違うと予想されている。

12インチのMacBook用CPU(コアM)では41%、13インチ以下のMacBookファミリー用(i5、i7の2コア)では34%上がるとされているが、物理4コアモデルでは16~28%と控えめ(数値は予測値)。つまり薄型軽量志向のMacほど、内蔵GPU強化の恩恵が受けられるということだ。

■世代別CPUスペック比較表

CPUの世代ごとに、第2~第4コアまではMacBookプロ15インチの最下位モデルに搭載されていたコアi7を、第5・第6世代コアはi7でスペックの近いものを比較してみた。現状のラインナップではアイリス・プロ(Iris Pro)搭載のコアi7が無いため、次世代MacBookプロ15インチに搭載されるかはまだ未知数だ。

■世代別GPUスペック比較表

GPUは「GT」のあとに続く数値が増えるほど強力になり、内蔵GPUの世代が新しくなるにつれ、EUの数が増えてくる。第7.5世代から第8世代でEU数が2割増加し、そして第9世代ではEU数は据置きだが内部設計の改善で性能を向上した。さらに第9世代では72基のEUに128MBのeDRAMを組み合わせた「GT4」が用意された。

CPUも足回りも強化

第6世代コアでは、プログラム中の命令を取り込み、内部処理用のマイクロ命令に変換する部分に大きな改善が入った。さらに並列処理の実行効率の強化や、2次・3次キャッシュの効率強化など、多岐にわたる改善が施されている。物理4コア以上のモデルでは、特にマルチスレッド処理の伸びが期待できる。

また、第6世代コアでは足回りも大きく変化する。快適な動作にもっとも重要な役割を果たすメモリは、より低電圧で動作するDDR4メモリに対応。従来のDDR3メモリにも設計次第で対応可能だが、今後のメモリはDDR4が主流となるだろう。アップルがこの機会を逃すとは考えにくいため、今後のMacは以前の製品とメモリモジュールの互換性がなくなることが想定される。

サンダーボルト3への対応

そして地味に重要なのは、第6世代コアではチップセットとの接続(DMIバス)の帯域が向上し、チップセットからPCIエクスプレス3.0の信号線(レーン)を出すことが可能となったことだ。これはPCIエクスプレス3.0ベースで設計されている「サンダーボルト3」への対応を示唆するものである。サンダーボルト3のコネクタはUSB3.1タイプCコネクタと共通化され、さらにUSBパワーデリバリにも対応する。

すでにサンダーボルト3のコントローラ「アルパイン・リッジ」が出荷済であることを考えると、サンダーボルト3と第6世代コアがセットで搭載される可能性は十分に高い。

ただ、コンサバ志向へ傾倒しつつあるティム・クック体制下のアップルが、次世代のMacにどこまでこれらの新要素を盛り込んでくるかは微妙なところだ。一部機能を盛り込まない、あるいはUSB3.1タイプCコネクタ搭載だが最大転送速度を5Gbpsまでに絞った12インチMacBookのように、独自に性能を落としてくる可能性も考えられる。

■第4世代コア

デスクトップ向けのシステムではチップセットは「9シリーズ」も使える。9シリーズは第5世代コアにも対応するがMacでの採用例はない。

■第6世代コア

第6世代コアではCPU~メモリおよびCPU~チップセット間のバスが強化された。さらにNVMe接続のSSDにも対応している。

■順当に速い第6世代コア

デスクトップ用第4~第6世代コアi7のグラフィック性能を、ウィンドウズ8.1(自作PC)上の「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド」ベンチマークで比較した(画質最低、解像度は1920×1080ドット)。第5世代が首位に立っているのは、アイリス・プロを搭載したイレギュラーなモデルであるため。第6世代と第4世代のGT2クラスのGPUなら、順当な性能向上が期待できる。

■世代別CINEBENCH R15比較グラフ

CPU性能をウィンドウズ8.1(自作PC)上の「CINEBENCH R15」で比較したもの。第6世代はマルチコアもシングルコア性能も向上している。第5世代が遅いのは、CPUのクロックを下げるかわりにアイリス・プロを搭載した少々イレギュラーな仕様のCPUであるため。

積層半導体技術の今

ここまでは、製品発表が秒読み段階であると思われる第6世代コア搭載Macの話をしてきたが、最後に少し未来の話をしよう。今目が離せないのが今後の技術の要になるキーワード「積層(3D)化」だ。

これは半導体の実装密度を向上するために、これまで平面的に素子を配列していたものを、垂直方向にも重ねていく、というテクノロジー。プロセスルールは今、10ナノメートル代へ突入しつつあるが、これ以上の微細化は技術的なハードルが極めて高い。しかし半導体を積層化すれば、微細化のハードルを越えなくても大容量化が可能になるのだ。

積層化された製品はすでに存在しており、代表的なものとしてサムスンのフラッシュメモリ「3D V−NAND」、AMDがGPU用メモリに採用した「HBM」などがある。だが今後注目すべきは、インテルとメモリメーカー「マイクロン」が共同で開発中の不揮発性メモリ「3Dクロスポイント(3D X Point)」だ。

3Dクロスポイントは従来のフラッシュストレージ(SSD)よりもメインメモリに近い性能どころか、メインメモリとストレージを統合することまで視野にいれたデバイスだ。

実用化されている最速のSSDといえば、12インチのMacBookにも採用されている「NVMe」接続のSSDだが、3Dクロスポイントはこれよりも速い。既存のフラッシュメモリよりも1000倍高速になるという。

さらにメインメモリ(DRAM)より大容量化しやすいため、メモリには置けない巨大データの処理もぐっと楽になる。数値計算などの世界では膨大なデータを処理する際に、メインメモリに納まらないデータをストレージに展開するのでSSDやHDDの速度が足かせとなる。メモリと従来のストレージの速度差を埋めるデバイスとして、3Dクロスポイントが期待されている。

3Dクロスポイントは2016年の製品化を目指し開発が進められている。Macに搭載されるのは相当先であり、速度も現在のPCIエクスプレス直結のSSDで十分ではないか?と考える人も多いだろう。しかし、3Dクロスポイントは「速度」と「容量」、さらに「耐久性」でもSSDを凌ぐ夢のデバイスなのだ。

特に容量では、スティック型の基板1枚でテラバイト級のモジュールも設計可能になる。究極的にはメインメモリとSSDの区別がなくなり、メモリ構成に悩む心配すらなくなる可能性がある。

「メモリは何GB?」「500GB」「それはHDDの容量だよ」という初心者定番のあるあるネタも、いずれは3Dクロスポイントによって過去のものになりそうだ。

■3Dクロスポイントの圧倒的な性能

各種記憶域と3Dクロスポイントを「容量単価」「速度」「データの不揮発性」で比較。SSDはバランスのよいソリューションだが、3Dクロスポイントはそれよりも圧倒的に速い。さらに3Dクロスポイントは大容量化しやすいため、容量単価はSSDより速やかに下落するだろう。

■3Dクロスポイントの仕組み

3Dクロスポイントは、井桁(いげた)と柱の集合体のような構造を採用する。柱の部分が情報を保持するメモリセル、井桁の部分が読み書きするセルを指定する信号線だ。構造がDRAMより単純なのに加え、縦方向にスタックできるのでプロセスルールを微細化しなくても容量が稼げる。

縦と横の桁に電圧をかければ、交差する場所にあるセル(緑色)にアクセスできるが、その際セレクタ(橙色)にかける電圧で読み込みと書き込みを切り替える。メモリのようにセルごとのトランジスタが不要になるので、より大容量の記憶域を製造可能になる。

【H.265】

第6世代コア内蔵GPUには、H.265/HEVC動画のエンコードとデコードをハードウェアで行う機能が世界で初めて実装された。現在主流のH.264/AVCと同じ画質でも、より容量を抑えられる。ただOS Xの設計上、Macで活用できるのはデコード機能のみになると予想される。

【HBMとは?】

High Bandwidth Memoryの略。TB/秒クラスの速度でアクセスできる新たなメモリ規格だ。HBMはGPUダイのすぐ隣にメモリチップを配置できるため、チップセットの大幅な省スペース化が実現できる。さらに低クロック&省電力動作にも関わらず、バス幅は従来のGDDR5よりも広い。