クラウドに対する不安感は誤解から生まれる
第2の問題として挙げられるのは、クラウドサービスに対する不安感だ。具体的には、「情報漏洩」「ダウンタイム」への不安である。
しかし、この不安はよく考えると(言い過ぎかもしれないが)、新たなものに対する無知に基づくものだ。クラウドサービスにもさまざまなものがあり、高度な技術をベースにしているものから、素人同然の格安サービスのものまである。ピンキリのキリのほうであればもちろん危ない。情報は漏れるかもしれないし、データ消失という悪夢のようなことまで起こる可能性があるだろう。
しかし、ピンのほうはどうか。有名なクラウドサービスであれば、おそらく日本のほとんどの企業のデータセンターよりも高度な運用がされている。実際、グーグルやアマゾンといった有名なクラウドサービスで、「障害により停止しています」などということは最近はまったく聞かない。データ流出に関しても、ハッカーたちはプロフェッショナルが管理するクラウドサーバのどこにあるかわからないデータを狙うよりも、セキュリティの甘い独自運営サーバのほうが狙いやすい。
これは「自宅なら安心だけど、ホテルは誰が侵入してくるかわからないから怖い」といっているのと同じことだ。情報システム担当者は、クラウドの安全度を判断できる独自の基準を持つべきだ。業務のあり方は企業によって異なるのだから、クラウドの安全度の評価基準も当然異なってくる。
基幹システムやグループウェアのクラウド化は必須の流れだ。いつまでも「クラウドは危険だから」と嫌っていると、気がついたら周囲から取り残されていて、莫大な経費と人材を使って、自社サーバのお守りをしているということになりかねない。そうならないためにも、今から積極的に「クラウドを評価する」という方向に考え方を転換すべきなのではないだろうか。
デバイスの一元管理は本当に現実的?
第3の問題が運用管理の手間だ。最近ではMac、ウィンドウズ、iOS、アンドロイドと全方位型のMDM(モバイルデバイス管理)が多くなり、これを使えば、すべてのデバイスが一元管理できるかのように思える。しかし、現実にはなかなかうまくいかない。というのはどのOSもバージョンアップがあるからだ。そしてMDMが最新OSへ対応するのが遅れ、MDMが対応するまで社員にバージョンアップを待ってもらわなければならなくなる。
待ってもらうだけならまだしも、その期間に購入した新たな機器には最新OSがインストールされているので(特にMacの場合、OSのダウングレードができないので)、MDMの対応を待たなければ機器の追加購入もできなくなる。アップルに対し、Mac、iOSの旧OSインストールモデルを販売してほしいという要望があるのはこれが原因だ。
しかし、現在のMDMの中には「エアウォッチ」(AirWatch)や「モバイルアイアン」(Mobile Iron)、さらには後術するMDM機能+αのMac向け運用・管理ソリューションである「キャスパースイート」(Casper Suite)など、OS Xへの対応が迅速になっているものが増えている。
そのため場合によっては、ウィンドウズとMacを別々に管理するという選択もあり得るだろう。貨物運搬車と役員用社用車を同じ自動車だからといって、まったく同じ運用管理をしようと考える人はいないはずだ。運用管理は目的によって変えて、管理情報だけを一元化しておけばいい。つまり、Macも無理にウィンドウズ系のMDMで管理しようとせずに、Mac、iOS専用のMDMを導入し、別々に運用管理するというのも1つの方法だ。
もちろん、この解決法は二重投資になる。情報システム担当者も2つのMDM管理法をマスターしなければならないという負担が生まれるし、経営者も安くない投資を二重に行うことにいい顔をしないだろう。そのような場合は、クラウド型MDMを検討してみるといいかもしれない。クラウド型MDMは、初期投資が少なく、月額制なので、長期で見たらコスト高になるが、経費の予測が立ちやすくなる。また、MDMはまさに今進化をしている分野なので、乗り換えをするときにもフットワークが軽くなるというメリットがあるだろう。
iOSデバイスのモバイルデバイス管理サービスとして始まったエアウォッチ(右)もモバイルアイアン(左)も最新のOS Xヘの対応が素早い。ほかのMDMサービスのMac対応も、Mac利用が増えるに従って迅速化するだろう。
既存資産活用はOffice 365で解決できる
既存資産の活用問題もある。いわゆるワード、エクセル、パワーポイントですでに作成した資料の活用が、Macのページズ、ナンバーズ、キーノートでは難しいという問題だ。特に複雑なマクロを埋め込んだエクセル書類、美しく作り込んだパワーポイント書類をナンバーズ、キーノートで再利用することは、業務の現場レベルでは無理がある。
しかし、この問題は、マイクロソフトが昨年10月に発表した「オフィス(Office)365」が大きなソリューションになる。従来のオフィスをクラウド化し、ブラウザからオフィスが利用できるだけでなく、タブレットやスマートフォンでも最新版オフィスが使える。もちろん、MacやiOSデバイスからも利用可能だ。
これを使うことで、Macの利用に関する障害はなくなる。オフィス資産の活用問題に頭を悩ませている情報システム担当者は、オフィス365への切り替えを検討すべきだ。
意外にレベルが高いAppleCare OS Support
業務で使うソフトウェアがMac、ウィンドウズの両方に対応していないと、業務で使うコンピュータとしてMacを採用することが難しいという意見がある。しかし、この問題も解決する方向に向かっている。オフィス、アドビといった主要ソフトがクラウド化され、プラットフォームを問わず使えるようになっているからだ。この傾向は、急速に他の主要ソフトウェアにも波及していくだろう。
問題は自社開発ソフトウェアだ。多くの場合、それはウィンドウズベースだろう。しかし、もはやシングルプラットフォームでしか動かないソフトは使い勝手が悪く、これこそがシャドーITを呼び込んでしまう元凶ともなっている。これもクラウドベース、WEBベースに更新していくことを考えるべきだろう。Macへの対応だけの問題ではなく、スマートフォン、タブレットでの対応が必須になるからだ。
また、Macのサポートの不足を心配する人もいる。ウィンドウズ系だと、機器を納入した業者が手厚いサポートを行ってくれるが、Macのサポートに関しては弱いという問題がある。しかし、アップルは法人向けの「アップルケア」(AppleCare)も販売している。AppleCare OS Supportというサービスで3つのサービスレベルが用意されているが、いずれも異機種環境への統合、ネットワーク構成などのサポートを行い、優先度の高いインシデントの場合には1時間から4時間以内に対応するなどサービスレベルはきわめて高い。
クラウド化/マルチ対応でシャドーは駆逐できる
理想的なIT環境というのは、クラウド化、マルチプラットフォーム化(モバイル、タブレットを含む)であることは論を待たないだろう。そのゴールの形は見えているのに、さまざまな現実的な問題があって、先に進むことができないのが現状だ。MacのシャドーIT化問題というのは、社員のマインドはとっくにクラウド/マルチプラットフォーム化になっているのに、ITシステムが追いついていない、その狭間に生まれる落とし穴だ。
今の法人ITシステムの現状は、このままレガシーシステムでいくのか、それとも思い切ってクラウドシステムに乗り換えるのか、きわめて判断が難しい時期になっている。かといって、判断を先送りにすることはできない。なぜなら、大がかりなITシステムの多くは、3年から5年の更新スケジュールに従って見直し、アップデートを行うので、今判断を先送りにしてしまうと、次の機会は3年後にしかやってこないからだ。判断が難しい時期=進化が著しい時期なのだから、3年の空白期間はあまりにも長い。
この問題を解決するには、「システムをクラウド/マルチ化するかしないか」という問題の建て方ではなく、「クラウド/マルチ化する」という立案をまず試み、期限を切り、どうしても解決できない重要問題があるようであれば断念するという姿勢で臨むべきだ。ただでさえ業務負担の大きい情報システム担当者にとっては、大変な話ではあるが、これを乗り切れば、社内のIT環境は大きく変わり、業務も大きく変わる。情報システム部門は、機械のお守りをする間接部門ではない。業務フローをデザインし、生産性を向上させることで、企業の売上に直接貢献できる直接部門でもあるのだ。今、日本の企業が試されているのは、間違いなく社内情報システムをデザインできるかどうかだろう。
AppleCare OS Support
【URL】http://www.apple.com/jp/support/professional/it-departments/
アップル製OSの統合や移行、ネットワーク構成や管理、プロ向けソフトウェア、WEBアプリケーションやサービス、高度なサーバ運用等の問題に関してアップルが電話およびEメールによるサポートを提供する。対応件数や対応時間に応じて「セレクト(Select)」「プリファード(Preferred)」「アライアンス(Alliance)」の3つのプランが用意されている。