大きな問題になりつつある「シャドーIT」
7月下旬、アップルが2015年度第3四半期の決算報告を行った。Macの好調ぶりが際立っている。前年同期と比べて、世界での販売台数が9%増になり、日本でも円安の影響があったにも関わらず、販売額が9%増。iPadの販売が伸び悩む中で、Macがそれを補っている形だ。
一方のウィンドウズPCは昨年4月のウィンドウズXPサポート終了後の買い替え需要が一巡してしまったこともあるが、どのメーカーも販売台数を大きく落としている。実際、周囲を見てもMacBookエアやMacBookを中心に、Macを見かける頻度が年々高くなっている。
Macの輪が広がることはいちMacユーザとしてうれしいことだが、一方で、深刻な問題が潜行中だ。シャドーIT問題だ。
シャドーITとは、会社が承認していないデバイスやサービスを“勝手に”使ってしまう状態のこと。現在の多くの企業はセキュリティリスクを鑑みて、社員の利用するPCやモバイル端末の管理を行っている。使用可能なソフトウェアやネットワーク接続先の制限に始まり、社内システムへのセキュアなアクセス方法やセキュリティ管理等、さまざまな運用ポリシーを設けている。そこへ、会社が承認していない自分のMacやスマートフォンなどを持ち込んで「管理外」で利用してしまう。これがシャドーITだ。
情報と知識の欠如がMac対応を阻む!?
この最大の問題は情報漏洩だ。会社が管理していないので、セキュリティは本人まかせになってしまい、情報漏洩のリスクはきわめて高くなる。同時に情報漏洩が起きても、検証に時間がかかる、対策が取りづらい、責任の所在が曖昧になるなど、さまざまなな問題を引き起こす。
これに対し「個人のデバイスを社内ネットに接続することを禁止」「個人のデバイスの持ち込みを禁止」「クラウドサービスの使用を禁止」など、対処療法的な措置を取っている企業も多い。しかし、これは長続きしない。なぜなら、「カフェでコーヒーを飲みながらMacを使ってドヤ顔をしたい」などという理由でシャドーITをしている人などいない。みな仕事の効率化を図りたいから、生産性を高めたいから、「合理的な判断で」シャドーITを選んでいるのだ。つまり、シャドーITは情報システム担当者にとって悩ましく危険性の大きな問題だが、禁止をするだけでは済まない。地下に潜る分、問題はかえって深刻になってしまう。
情報システム担当者の本来の仕事は、社員の生産性が上がる環境を用意して、マンパワーを拡張するデザインをすることである。そのためには「どのような業務実態なのか」という調査と「業務効率の上がる環境とはどのようなものか」という立案をしなければならない。それが社内を巡回して禁止事項が徹底されているかどうか注意して回る風紀委員のようなことになっていては、情報システム担当者としても不本意なことだろう。
Macの売れ行きが伸び、特にビジネスパーソンに人気が出てきているが、多くの企業のシステムがMacに対応していないので、必然的にMacはシャドーIT化しがちだ。理屈では、Macも利用できるように社内システムや運用ポリシーを変更して、正式に「会社が承認するデバイス」にすればいい。もちろん、それをいち早く実行している企業が実際に増えているし、今後それが広まっていくのは確実だろう。
だが、現時点においてはまだまだだ。Macの業務利用が現実的であり、そのためのソリューションが存在し、実際にMac対応を行っている企業がある一方で、「Macは無理でしよ、面倒だし」といったような先入観と知識の欠如があるのも確かだ。では、具体的に、Macの業務利用を妨げている要因とはどんなものなのだろうか。一つ一つ見ていこう。
Macから基幹システムへのアクセスは簡単?
Macの企業導入を阻む一番の障壁となっているのは、企業の基幹システムとの接続だ。多くの企業では在庫管理や勤怠管理、経費精算などに基幹システムと呼ばれる独自OSのシステムを使っている。その多くがウィンドウズPCからの接続を前提に作られているため、Macは「会社が承認するデバイス」にしづらい。
大きな潮流として、基幹システムはクラウド化する方向に進んでいる。Macに対応するというよりも、スマートフォン、タブレットなどに対応できることと、管理運用コストが抑えられるという理由からだ。クラウド化されれば、MacからでもWEBブラウザ経由で基幹システムへアクセスできるため問題は一気に解決する。実際にスタートアップ企業などいちからシステム構築する場合は、初めからクラウド前提で進めるため、Macの導入になんら問題がないことが多い。
また、航空、鉄道、ECなど、基幹システムが顧客に密着している業態ではクラウド化がしやすい。最新のクラウド型の基幹システムに入れ替えるということは、顧客サービスの改善に直結するからだ。その入れ替えを提案して、同時にシャドーITをゼロにするデザインを立案するのがもっとも正統的な解決法といえる。
しかし、特に一般企業などクラウド化が簡単でない場合があるのも確かだ。なぜなら基幹システムそのものについて不満がなく、現状のままでも十分だと考えている場合、「Macに対応するために基幹システムを入れ替え」という提案をしても、莫大な投資に見合うだけの業務効率の改善が見込めるかが問題になるからだ。
もちろん、そうした場合でも、方法がないわけではない。膨大な投資をしなくてもHTML+Java等でブリッジソフトを開発してMacからも基幹システムへのアクセスを実現しているケースがある。また、業務ではMacを使いながら、基幹システムだけは共用のウィンドウズPCを使う、「パラレルス」などの仮想化ソフトを利用して基幹システムにアクセスさせるという運用を行っているところもある。
クラウド化する方向は今後避けられないので今から投資するほうが現実的だが、簡単な問題ではない。