観客からプレイヤーへ
教育ICTに関わるニュースは日々報じられている。しかしながらその多くは、現場のニーズとはほど遠い方針に基づいて選択された手段の話ばかりで、現場教師と生徒からの声が伝わることはあまりない。でも主人公はあくまで子ども達。結果として彼ら彼女らが置き去りにされてしまった愚例は今日においても枚挙にいとまがないが、教育ICTに対し、批判ではなく、新しい学びの提案という形で活動している教育者たちがいる。iTeachersだ。
国立、私立の大学や大学院、公立中学校に学習塾など、それぞれに属する立場は異なるこのiTeachersに共通するキーワードが「観客からプレイヤーへ」である。子ども達の「知りたい!」という欲求と自発性を引き出すために、教育者ができることはなんなのか。そのためにICTをどう使えばいいのか。実践を通して見えてきた彼らの解には説得力がある。本稿では、iTeachersの1人、広尾学園中学・金子暁教諭の教え子2人が先日行ったプレゼンを引用する形で、その説得力を皆さんにも共有したいと思う。先生の再定義? なんともセンスがいい。
広尾学園中学校 インターナショナルコース 3年・須田隆太朗さん |
広尾学園中学校 インターナショナルコース 3年・工藤凛太郎さん
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中学3年生のiStudentsが先生を再定義!?
須田●今日の本題ですが、①学生にとって先生って何?を私たちなりに再定義します。次が②受け身から自発へというテーマ。今まで「やらされていた」ところから「やりはじめた」に変わった話です。そして③ツールとしてのiPad。これが必要とかこれがないと生きていけないというよりかは、これを使いこなしてやる、そういう意味でのツールです。最後に④未来の学園生活ってどんなものなのかをお話してまとめたいと思います。
須田●①ですが、私たちは先生を、生徒の自発を促す存在として再定義します。これまでの学習スタイルは「やらされている」とか、先生だけがプレイヤーだった印象ですが、これからは、生徒がどういうふうにしたらモチベーションを上げられたり、どうすれば新しいことにどんどんチャレンジしていけるのか、を促して育ててあげられるのは先生だけなんじゃないかなと思っています。ではそもそも自発ってなんだろう? 例えば興味ワクワク。自分がこういうことをしたいとか、これをするとワクワクするだとか。金子先生であればコンピュータに若い頃ワクワクした。例えば喜び。ビル・ゲイツさんは自分の母親が喜ぶ姿を見たいからパソコンを作ってやがてマイクロソフトを築き上げた。他には情熱。例えばスティーブ・ジョブズは一度アップルからクビにされても、自分のコンピュータに対する情熱から再びアップルの礎を再起した。そういった感情を学生の仕事でもある勉強に向けるにはどうしたらいいのか。ということで今回、インターコース限定で2、3年にアンケートを実施しました。
工藤●「あなたの勉強意識に対するモチベーションの根源はなんですか?」。結果、その根源は「自分の夢」が1番、2番が「大学に対する意欲」でした。これだけですでに半数を超えていますが、「褒められる」とか「ライバルや仲間の存在」は他者との関わりである一方で、1番、2番は自分のことなんですね。つまり自発です。もう1つのアンケートは「紙媒体の教科書か、電子媒体の教科書か、どちらが好き?」。結果は、一番多かったのが「時と場合によって」でした。つまり併用したいんですね、みんな。
須田●例えばこのプレゼンを作成するときも、いきなりキーノートでタイプし始めるとわけがわからなくなってしまうため、最初はマインドマッピングする形で頭に浮かんだことを紙に書き出して、そのうえで要点を取り出し、まとめて、やっとここでキーノートを使います。最後の仕上げにMacを使うわけです。
須田●じゃあツールとしてのiPadやMacはなんなのか。これは自分たちの学校方針を示しますが、それによる成功と課題についてお話したいと思います。まず成功。これはプレゼンテーションができるようになったこと、その機会があることが大きな成功だと感じています。毎年秋にある学園祭では、生徒一人ひとりが必ずプレゼンをしなければいけません。しかしそれによって、自分のいいたいことを相手に伝えるためにはどうすればいいのか? iPadやMacを使えばみんな上手くカッコよくできるわけではありません。大切なのは論理的な組み立てとわかりやすさ。それに気づける機会があり、自己を表現できる場があることで、さまざまなことが学べました。
工藤●次は課題です。規制問題が大きいです。例えばiPadの管理者パスワード。実際に起きたことですが、勝手にアプリを入れられないように先生が管理していたものの、4桁のパスワードだったため、「見つけたー!」って解読しまう生徒が出てきてしまった。これではいけないということでリモートによる管理になるようですが、ぶっちゃけ、自由と規制のバランスをどう取っていくかの問題で、生徒からすれば規制は解除するためにあるようなものなんです(笑)。
須田●もちろん、ちゃんとした理由づけはできますが、、、(以降フィニッシュに向かって盛り上がる)
『Mac Fan』2014年4月号掲載