ソーシャルのビジネス活用への疑問
ソーシャルメディアというと、ツイッターやフェイスブックをイメージする人がほとんどだろう。友人や知人を中心に広がる人的ネットワークとのコミュニケーションツールとしてプライベートで活用し、その楽しさを実感している人も多いはずだ。だが、ひとたび企業での活用となると二の足を踏んでしまうケースは少なくない。特に企業の規模が大きくなるほどコンプライアンスやセキュリティの関係から導入に慎重を期する傾向がある。採用したとしても、フェイスブックページやLINEを通じたキャンペーン、公式ツイッターアカウントによるプロモーション活動など、外部向けで限定的にならざるを得ない。
我々がさまざまなソーシャルメディアで実感しているコミュニケーションの手軽さや便利さは本当に社内で実現できないのだろうか? そうした疑問に対して正面から向きあっているのが、日本上陸を果たしたばかりの企業向けソーシャルプラットフォーム「Jive(ジャイブ)」だ。
2001年に設立された米ジャイブソフトウェアは9月に日本オフィスを設立。同オフィスの代表東貴彦氏(左)とマネージャーの藤武琢也氏(右)。「ユーザ視点に立った使いやすさを確保しながら、ソーシャルのテクノロジーを活かして企業や従業員の効率性や満足度を上げていきたい」とする。
企業の効率性を妨げる「メール」
「企業の生産性や業務効率の改善を妨げているものは、毎日の膨大なメールへの対応や上司や同僚とのミーティング、必要な情報やリソースの検索などに『無駄にかかる時間』だとわかりました」と語るのは、Jiveソフトウェア社の日本オフィス代表東貴彦氏。ビジネスコンサルタント会社のレポートによれば、企業ではメールと情報検索に平均週28時間が費やされているといわれる。
「この分野に対してはこれまでもさまざまなITシステムによる投資が行われてきました。ところが、日本の労働時間は20年前と比べて約30%以上も長くなっているという結果もあります。また、従来のシステムはモバイル環境への適合性が低く、かつ新しいソーシャルツールは社内の既存システムとの連携が難しい。Jiveでは、この企業内のイントラネットとうまく連携するソーシャルプラットフォームを提供し、そのうえで今の時代や働き方にマッチしたコミュニケーションをできる場を提供します」
確かにメールを中心とした社内や取引先とのコミュニケーションの弊害はたびたび指摘されてきた。グループウェアなどを導入して改善を試みる向きもあるが、そこで問題となるのが基幹システムとの統合やモバイルへの対応、外部との連携が不十分になりがちな点である。
では、Jiveを導入することによって、従業員は業務上どのようなメリットを得られるのだろうか。
「わかりやすいところでいえば、従業員に最新の情報を提供したり、新規に参加したメンバーに対する情報共有やトレーニングを提供したりする時間や手間が大幅に節約できます。また、社内だけでなく取引先とのコミュニケーションを円滑に行ったり、イントラネット内でも依然として残る部門ごとの壁を壊してスピーディな情報共有や意思決定が可能となります。現在は70%の企業が何らかの形でソーシャル技術を使っているものの、3%の企業しか成果を得られていません。Jiveの技術を使うことでナレッジワーカーの生産性は20%から25%は上げられると考えています」
WEBブラウザから見たメイン画面。情報は「ピープル(人)」「プレース(場所)」「コンテンツ(内容)」というカテゴライズから自動的にリストが最適化される。例えば、ピープルであればどの社員がどの程度のアクティビティで情報発信し、社内コミュニティに貢献しているのかが一目でわかる。専門性の高い人やドキュメントそのものをフォローする機能もある。
従来の社内コミュニケーションの課題の1つは、情報を持つ人を探す待ち時間。Jiveを活用することで、そうした無駄な時間を短縮できる。
ディスカッションには閲覧数や「決定」「役に立つ」のような影響評価が表示される。ソーシャルメディアの「いいね!」にも似た機能だが、ビジネス向けのため効果測定はより厳密で「インパクトメトリックス」という指標で従業員からの資料自体の客観的評価や信頼性が判断可能となっている。
ビジネス用途でも親しみやすいUI
Jiveは、基本的にWEBブラウザベースで動作するソーシャルプラットフォームだ。すでにインターフェイスは日本語化されており、ビジネス向けとあってメニュー類は極力シンプルに作られている。サービスは25ユーザから利用可能で、基本的な費用は1ユーザあたり12ドル、一番メリットを享受できる事業規模は3000人程度の大企業だという。
メインメニューには「コンテンツ」「ピープル」「プレイス」といった項目が並ぶ。これは従業員が投稿したさまざまな資料やディスカッションの話題などを、時系列や人物単位などさまざまな切り口でリスト化してくれるものだ。件名や本文内を読まないと内容がわからないメールと違って、目的に応じてもっとも素早く効率的にコミュニケーションできる。
例えば、「プレイス」は支社や部署といった単位よりもさらに小さい、あるいは部門横断的なプロジェクト単位のコミュニティ。ソーシャルメディアに馴染んだ人であれば、特定のテーマやトピックごとに人が集う状況をイメージするとわかりやすいだろう。クローズドな空間なのでメンバーの投稿内容に問題点があれば具体的に指摘したり率直に意見をぶつけ合えるのがメリットだ。
また、特にスピーディさを感じられるのはディスカッション投稿機能だ。疑問内容を投稿すれば社内すべてに情報が共有され、その答えを持っている社内の人からの意見が部門の壁を飛び越えて瞬時に反映される。誰に問い合わせれば問題が解決しそうなのかといったことも「ピープル」のアクティビティを参照することで一目でわかるようになる。「~企業の担当者の連絡先は?」を知るのに、口頭やメールで一人一人に問い合わせて無駄な時間を使う必要がないわけだ。
Jiveは企業内での利用のみならず、対取引先パートナー、対顧客向けのコミュニティも作成できる。これにより外部とのコミュニケーションを図りつつも自社の管理下に置くことが可能だ。例えば、イントラネットと結合された顧客向けサービスとして、Jiveはすでに多くのサポートサイトで使われている。同様のインターフェイスを持ったサポートサイトはたくさん存在し、実は気がつかないうちにあなたも使っているはずだ。
現在、iPhoneやiPadといったスマートデバイスが企業内で本格的に利用され始めているが、単に端末を導入するだけでは見合った効果は望めない。スマートデバイスを使って社員の生産性を高めたいならば、そのための環境や仕組みを整える必要がある。その解決策として、Jiveは企業の生産性を上げるためにもっとも重要なコミュニケーションに着目し、旧来の環境と方法論に異議を唱え、今のモバイルファースト時代に相応しいサービスを提供する。
海外の大企業を中心にすでに850社以上の導入実績があるJive。導入した米国企業からのアンケート回答によれば、新人の研修期間を23%、情報の検索時間を34%、会議を16%、メールを21%の削減が実現できたとの結果が示されている(この導入企業の中にはリコー、東芝、日立などのIT分野で有名な日本企業も含まれている)。これは実に素晴らしい結果だ。
働けば働くほど生産性が上がる時代はとうの昔に終わった。ツールがパソコンからタブレットに切り替わったのであれば、それに伴い、働き方や環境を私たち自身が変えなければ、真の意味でのスマートデバイスによる業務改革は起こらないだろう。Jiveの日本での浸透が非常に楽しみだ。
大手ソフト企業EMCのコミュニティサイトなどのように、社内のイントラネットと結合された顧客向けサービスの部分を、サポートサイトとして公開している企業も多い。
iPadやiPhone用の専用アプリが存在する。従業員は手持ちのデバイスで手軽に社内のネットワークにアクセスし、情報を持っている社員に呼びかけてダイレクトに応答を得たりディスカッションできるのだ。
コンテンツの検索機能もカテゴライズによる絞り込みが反映され、ドキュメントの中身はローカルにダウンロードしなくてもWEBブラウザ上で確認したりインラインで付箋にコメントを付けることもできる。また、ユーチューブには公開できないような社内研修用の動画などもビデオストリームで配信可能だ。
「Jiveアプリマーケット」ではジャイブの機能を拡張できるさまざまなアプリが販売されている。オンラインストレージのBoxと接続できるものなど、100を越えるアプリが登録されている。
『Mac Fan』2013年11月号掲載