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神戸医療イノベーションフォーラムに医療改革の本気を見た

著者: 隈夏樹

神戸医療イノベーションフォーラムに医療改革の本気を見た

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今年で3回目となる神戸医療イノベーションフォーラムの会場。初回となる2011年は約100名、昨年の2回目は約200名、3回目となる今年は約400名と来場者が倍増した。

 

コミュニケーションで医療の質を変える

1月20日に神戸のポートピアホテルにて「第3回 神戸医療イノベーションフォーラム」が開催された。このイベントは、神戸大学大学院医学研究科の杉本真樹氏の呼びかけにより始まったもので、革新的な医療事例の発表と交流の場として2011年から開催されている。

発表される事例は、必ずしもITの活用に限定したものではない。しかし今回、15セッション中の半分以上の発表は、なんらかの形でアップル製品を活用したものだった。例えば、千葉県は習志野台整形外科内科の宮川一郎氏は患者への治療説明を動画で行えるiPadアプリ「HC動画HD」やiPadを使った問診票システムなどを紹介。東京の桜新町アーバンクリニックの遠矢純一郎氏は、痴呆症患者を支える訪問医療スタッフ間の情報共有システムに「EIR」というシステムを使うソリューションなどを紹介した。この両名は、かつて本連載でも取り上げたことがあるため、覚えている読者もいることだろう。

もちろん、このような事例以外にも、iPadやiPhoneに関する発表が目白押しだった。中でも興味深いのが、救急医療でのiPadの活用だ。佐賀県健康福祉本部医務課の円城寺雄介氏からは、佐賀県内の全救急車にiPadを搭載した事例が紹介された。iPadで救急車受け入れ可能病院を確認できるシステムが構築されており、現場から最短の病院が一目でわかるようになる。搬送時間の短縮に効果があったほか、さらに搬送記録を分析することで搬送時間が長い場所を洗い出すことができ、ドクターヘリの導入にもつながった。この成果により全国の自治体が見学に訪れており、同様のシステムの構築をすでに5つの県が決定し、23県が導入を検討しているという。まさに日本の救急医療の形を変えた事例だといってもいいだろう。

 

既存のアプリやサービスも活用

これらの事例は、登壇者自らがシステムの開発に関わってきたものだが、その一方で既存のアプリやサービスをうまく活用している事例もある。

埼玉県の済生会栗橋病院の網木学氏は、腹部救急の現場でフェイスブックを活用し、医師間の情報共有を実現したと語る。個人情報の扱いに配慮するためのルールを決め、情報共有や意見交換ができる仕組みを無料で築き上げた。最近ではそこからさらに一歩進み、よりセキュアで高機能な医療従事者向けコミュニケーションシステム「アイストローク(i-Stroke)」を導入したという。

救急病院の現場では、当直医が深夜に運ばれてきた患者の対応方法を決定しなければならない。ほかの医師に相談もできず、不安と戦いながら決断を下さなければならなかった。しかし、こうした既存のコミュニケーションシステムを活用することで、その不安もずいぶん緩和されるようになったという。

このように、現在はさまざまな医療従事者向けのサービス、アプリがリリースされている。「スマートフォン医療 欧米最新現場レポート」セッションでは、書籍『絶対使える医療系iPadアプリ300』共著者の堀永弘義氏が登壇し、欧米で見つけた医療向けアプリを紹介した。教育用アプリとしてアニメーション付きで人体の構造を学べる「ハートディケイド(HeartDecade)動く3D人体解剖図」や、心電図の見方をトレーニングできる「シムモン(SimMon)」、などが会場の関心を集めていた。また、電極のついたiPhoneケースにiPhoneを入れることで心電図をとることができるシステム「ハートモニタ(Heart Monitor)」のデモも行われた。この製品は最近FDA(米国食品医薬品局)の認可を受け医療機器として販売が開始されたとのこと。わずか199ドルで心電計を胸ポケットに入れて持ち歩けるのは利用範囲が広がりそうだ。

「神戸医療イノベーションフォーラム」はいわゆる学会ではなく、本気で医療を変えたいと活動している人たちの交流の場である。その内容の濃さから注目度はぐんぐん上がり続けており、産学官全体を動かすインパクトを持った会に成長しているといえる。

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神戸医療イノベーションフォーラムの主催は、神戸大学生命医学イノベーション創出人材養成センターだ。写真はセンター長の神戸大学大学院医学研究科消化器内科 東健教授。このセンターは、医学のイノベーションを起こす人材の育成をミッションとして活動している。

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神戸大学医学研究科消化器内科 特命講師の杉本真樹氏。オープンソースの医用画像システム「OsiriX」の開発に関わるほか、医療分野でのiPadの活用に造詣が深い。神戸医療イノベーションフォーラムの発起人として、イベント全体の進行を行うほか、「3D拡張現実と臓器立体モデルによるロボット手術ナビゲーション」など3セッションを担当した。

●産学官で革新するiPad救急車・ドクターヘリとクラウド医療

佐賀県健康福祉本部医務課主査, 総務省ICT地域マネージャー 円城寺雄介氏

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救急車へのiPad配備事例。病院側は、急患を受け入れられるかどうか最新の状況を入力しておく。救急隊員は患者の様態などをiPadに入力することで、最寄りの受け入れ可能病院をすぐ見つけ出せる。従来はあちこちの病院に電話をかけて受け入れ体制を確認していたが、その時間を短縮できるようになった。

●スマートフォン医療 欧米最新現場レポート

tlapalli Inc. CEO 堀永弘義氏

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セッション中に紹介された「ハートモニタ」は、iPhoneケースに電極がついたような見た目の心電計。iPhoneをはめ込み、あらかじめインストールしておいたアプリを起動させるだけという簡単操作だ。

●3D拡張現実と臓器立体モデルによるロボット手術ナビゲーション

神戸大学大学院医学研究科 特命講師 杉本真樹氏

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体内に内視鏡を入れ遠隔手術を行う「ダヴィンチ」という手術支援ロボットが注目を集めている。しかし術者にとってはダヴィンチの3Dスコープを覗きながらCTの画像も確認しなければならない。そこでOsiriXで3D化した画像を、Macからダヴィンチに入力して3Dスコープ内に表示させてみたところ、手術のナビゲーションシステムとして活用できることがわかった。

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会場前には企業による製品展示コーナーが併設された。

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ファソテックブースでは、上記杉本氏のプレゼンで紹介されたダヴィンチの操作トレーニングシステムを展示。ダヴィンチは今までなかった医療機器であり、術者は事前に十分練習をしておく必要がある。従来はプラスチックのトレーニングキットを使用していたが、杉本氏はOsiriXの3Dモデルを3Dプリンタで出力する方法を確立し、さらにその3Dモデルに実物の臓器に近い触感を与える技術まで開発した。手術の練習やリハーサルをよりリアルに行うことが可能となった。

『Mac Fan』2013年4月号掲載