沖縄アミークス・インターナショナルは、教育出版社である旺文社が沖縄県およびうるま市と協力し、2010年にプレスクール、2011年に幼稚園と小学校を開校した。
日本の学校、しかしインターナショナル
沖縄にiPadを使った非常にユニークな教育を実践している学校があると聞いたのは数カ月前だった。インターナショナルスクールでのiPad導入はよく聞く話である。しかし、ここでのiPadはあくまでその学校の教育における延長線上にある「必然」であった。つまり、iPadから生まれた、ではなく、学校の生み出す教育姿勢と文化とのマッチングが求めていたといえば叙情的すぎるだろうか。
沖縄県うるま市にある沖縄アミークス・インターナショナルは幼稚園・小学校・中学校で構成されるインターナショナルスクールで、日本人を対象にしたイマージョンコース(欄外参照)と、外国人を対象にしたインターナショナルコースに分かれる。つまり1つの校舎に2つの制度の生徒が同じ学年に存在する。しかも、この学校をさらに特徴づけるのはいわゆる「一条校」であることだ。学校教育法第一条で定める「学校」なのである。
つまり、アミークスは英語で日本の教科を勉強するインターナショナルスクールであり、卒業資格は日本のそれと同じだ。幼小中の10年間を1つの教育期間にするというコンセプトと日本語、英語の入り乱れるこの学校は新しいだけでなく、教育への挑戦を行っている。ちょうど私の訪れた水曜日はオープンスクールで、入学希望の保護者などが多く校内を見学していた。
ペンタゴン(五角形)の形をした中庭を中心に校舎が広がる。教室には仕切りがなく、生徒や先生が自由に学び教える環境が整っている。敷地内にはトレイルコースや乗馬のための厩舎があるなど、まさに夢のような学校だ。
同校の松田浩一事務局長はこう語ってくれた。
「簡単にいえば、既存の受験を積み重ねる教育とは違う選択肢を子ども達に示してあげたいという思いがありました。この学校を特徴づけるものとして、日本の教育を英語で教えるという部分があるのは事実です。しかし、英語はただのツールでしかない。私達はここで学ぶ生徒に『意志』を持たせたい。日本の中学校と同じですから、受験のための補習も必要であれば提供する予定です。もし海外の学校に進学したいのであれば、米国の提携校へと進むこともできる。しかし、パン屋になりたいと思う子がいるならパリに行って中学校卒でパン屋の修行をしてもよい。そんな自分で自分の人生を選べる『意志』を育てたいのです」
今のテクノロジーを活かす教育
インターナショナルスクールとして英語と日本語を両方用いたバイリンガル教育が実施されているアミークスには、もう1つの側面がある。それがITをはじめとしたテクノロジーを全面的に授業や教育に取り入れている点だ。
例えば、4年生のクラスではLEGOのマインドストームというコンピュータを用いたロボットの制作を行っていた。そこでは男女が別々のチームとなり、設計図を書きながらそれぞれのLEGOで作ったモジュールにセンサを組み合わせてロボットを共同制作するという授業が行われていた。時間が過ぎると、先生がそれぞれのチームを前に呼んで設計図をプロジェクタで投射し、設計意図やセンサの動きなどを質問しながら生徒に説明させていた。
この授業でも生徒達はわからないことはPCを開いてブラウザでWEBを検索しながら調べていた。私達が見学したすべての教室では壁に貼られた大きな紙に参考にすべきWEBサイトのURLが書かれていたが、驚いたのがすべてにおいてその一番上か目立つところにあるのが「グーグル」だった。ここではわからなければ自分で調べるという、ある意味社会においては当たり前のことが実践されている。
世界レベルでWEBで開催されている数学グランプリのような大会へのURLもあった。英語とテクノロジーというそのニーズがかつてないほど高まったスキルを、アミークスでは基礎的素養として身につけられる。そしてWEB経由で世界と向き合うことまで子ども達は行っている。
課題の解決法を身につける
そんなアミークスだからこそ、iPadはまさに学校のあちこちに「偏在」していた。実際には現時点において同校で生徒が使うiPadはすべて図書館で管理され、電源供給できる移動可能な一体型ラックに32台が収納されている。生徒達は授業での必要性に応じて、そのラックをゴロゴロと転がして教室まで移動させる。
現在はほぼフル回転の状態らしく、2013年春にはさらに64台が追加導入されるそうだ。iPadはすべて16GBのWi-Fiモデル。学校内はいたるところで無線LANが整備されており、ストレスなくiPadを使うことができる環境が整えられている。ちなみに、先生が新しいアプリを導入したい場合、ヘルプデスクに欲しいアプリを申請すると1~2日ですべてのiPadにインストールされる。無料有料を問わずに、だ。このあたりに先生に教育の責任をきちんと委譲できていることが見受けられる。
最初に視察した授業は5年生の理科の授業だ。カナダ出身の先生による英語での授業で、今回はなんと「妊娠」がテーマ。授業の最初に先生はいくつかの指針とポイントを前に書き出す。生徒達はそれを5名程度のグループに分かれて調べて発表するのだが、ここでiPadが調査ツールとして利用されていた。グーグルで「Pregnant」と入力してウィキペディアを見たり、画像を見たりして、鉛筆で絵を書き写したりしている。生物に関するアプリで動物がどうやって誕生するのかを動画で見ている子もいた。
ここですばらしいのは、先生は生徒の出した質問を絶対に否定しない点だ。ピントがずれてるものでもうまく正しい答えが出るように導いてやる。英語がわからない子には日本語でほのめかしてあげたりする。ちなみにこの授業でもっともクールな質問は「赤ちゃんはどうやってトイレに行ってるの?」だった。
続いて3年生の算数の授業でもiPadは縦横無尽の活躍を見せていた。算数のドリルをアプリでやっていた、などという代物ではない。なんと分数の計算式の解き方を動画にしてプレゼンするというものだ。ノートに書いた分数の計算式を少しずつ解いていくところをiPadのカメラで撮影し、それらをiMovieで編集するのだ。しかも、付属のBGMや簡易編集で古い映画のようにしたり…それを少し暗くした教室で前にプロジェクタで映しながらみんなで見るのである。先生はここではあくまでファシリテーターだ。何もやっていないように見えて、逆に正しく生徒を導くという面では先生の技量が問われるはずである。
この学校の授業では、ただ先生が教えて生徒がノートをとり続けるという私達日本人が当たり前だと思っている教育はどこにも見られなかった。たしかに、教育要項は日本のものに沿っている。しかし、授業自体は私がかつて米国で見てきたそれと同じものだった。アミークスでは生徒が、どんな学年であろうと「説明すること」を求められる。そしてわからないことは「自分で調べる」ことが当たり前になっている。
つまり、「課題の解決法」を身につけることといえよう。課題は先生から出されるが、いずれその課題自体を生徒自らが発見する能力も磨かれていく。そのシーンのすべてにiPadは鉛筆やノートと同じように、当たり前に子どもたちが使って学習を行う。改めてタブレットという形・大きさ・機能のすべてが必然であるかのごとく、学びに昇華されているアミークスに未来の学校の姿を見た気がした。
iPadはラックに収納されて図書館に設置されている。移動もすべて子ども達が行う。
面白いのはアミークスでは数名でiPadを使うシーンが多かったことだ。
教室の壁に掲げられたグーグルのURL。わからないことは自分で調べるという姿勢の現れだ。
ビデオをiPadで撮影・編集・発表する。しかしまぎれもない算数の時間。
日本の学校の図書館とはまるで違う広大な空間を誇る図書館。
文:山脇智志
ニューヨークでの留学、就職、企業を経てスマートフォンを用いたモバイルラーニングサービスを提供するキャスタリア株式会社を設立。現在、代表取締役社長。近著に『ソーシャルラーニング入門』(日経BP社)。
『Mac Fan』2013年4月号掲載