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「2台持ち、2年交換、2画面」を実現するサイボウズのデバイス戦略

著者: 牧野武文

「2台持ち、2年交換、2画面」を実現するサイボウズのデバイス戦略

サイボウズ株式会社は、従業員の「パソコン2台持ち、パソコン2年交換、外付けディスプレイ1~2枚配付」を基本としている。パソコンの機種選択から周辺機器の購入まで最大限の自由が与えられているが、そこまでする理由はどこにあるのだろうか。日本国内最高水準の環境を提供する理由とその合理的な戦略を、同社の情報システム部に聞いた。

快適な業務環境のために

サイボウズ株式会社は、チームコミュニケーションツール「キントーン(kintone)」、グループウェア「サイボウズ Office」などのソフトウェアを開発運営する日本有数のIT企業だ。しかし、かつては離職率の高さに悩まされた時代があった。2005年には年間離職率が28%に上り、危機意識から人事/採用面での改革を開始。2014年からは情報システム部も同様に方針を転換し、従業員が快適に働けるようにITシステムに投資していくようになった。同社の情報システム部に所属する青木哲朗氏によると「情報システム部は『誰でもいつでも最高の仕事ができるITシステムを作る』をミッションに掲げています。必要な予算は増えましたが、戦略的投資ということで経営層にも同意を得て、さまざまな施策を行っています」という。

この考え方が、デバイス配布におけるCYOD(Choose Your Own Device)にも表れており、現状ではMacBookを含む6種類のパソコンから好きなものを選ぶことができる。それだけではなく、業務に必要な場合は別途オーダーすればメモリ増設やほかのモデルの導入もほぼ認められている。

パソコンは職種を問わず原則2年で交換し、オフィス用と自宅用、デスクトップ型とノート型、Macとウィンドウズ(Windows)などの2台支給も可能。配布対象従業員が1000人を超える中でデスクトップ300台/ノート1600台が配布されており、従業員ほぼ全員がパソコン2台持ちの体制(そのうちMacは40%程度)だ。なお、メインデバイスは最新モデルを2年ごとに交換でき、配付から2年経過したデバイスはそのまま2台目のサブ機として継続利用も可能。1台のパソコンを4年使うことになるため、調達コストを抑えながらも「2年で交換/2台持ち」を実現している。

加えて、スマートフォン900台/タブレット50台弱も支給(そのほぼすべてがiPhoneとiPad)しているほか、外付けディスプレイも24インチ2枚か32インチ1枚から選択でき、必要に応じて申請すればキーボードやトラックパッド、Webカメラなども支給される。パソコンからスマホ、タブレット、周辺機器まで含めて、従業員ひとりひとりにとっての快適な業務環境を提供しているのだ。

コロナ禍以前からテレワーク

同社はテレワークの取り組みも早かった。新型コロナウイルス感染拡大が始まる以前の2019年には、すでに出社率は70%で、常に30%の人が在宅ワークを行う体制になっていた。

「ただ、当時のテレワークでは基本的にオフィスで仕事をしつつ、在宅勤務は週1日程度という人が多かったので、オフィスにメインデバイスを置き、自宅にサブ機を置く従業員が大半でした」(青木)

パソコン2台配布は2017年から進めていたため、コロナ禍においても情報システム部での特別な対策はほとんど必要なかった。コロナ禍以降は出社率と在宅率が逆転して在宅が主になり、自宅でメイン機とサブ機を使う人が増えている。故障などのトラブルがあった場合、在宅ワークでは代替機をすぐには用意するのが難しい環境にあるため、仕事が滞らないようにサブ機を予備として自宅に置く従業員が多いそうだ。

2022年7月に同社に中途入社した、コーポレートブランディング部の浦田晃次さんに実際の使用感を聞いた。浦田さんの前所属企業ではごく一般的なノートPCを3~4年使う体制だったが、コロナ禍になってビデオ会議ツールを使うようになると問題が続出したという。

「前職で配付されていたのは古い機種でした。ビデオ会議の最中に映像が途切れたり、資料を開くのに時間がかかったりすることが頻繁にあり、動作を安定させるために社内会議ではビデオをオフにするのがマナーになっていたほどでした。サイボウズに転職してから、今までの環境が快適ではなかったことに改めて気づかされましたね。今の環境は本当に有り難いです」(浦田)

投資へのコストを惜しまない

従業員にリッチな環境を提供するにはコストがかかる。同社ではマイクロソフト(Microsoft)の「マイクロソフト365(Microsoft 365)」を契約しており、クラウドMDMツールの「インチューン(Intune)」を利用できる。これを使えばウィンドウズだけでなくMacの管理も行えるが、Macの管理にはあえて「ジャムフプロ(Jamf Pro)」を導入している。この体制だとMacとウィンドウズをそれぞれ別で管理することになるが、特に大きい手間ではないという。

「ジャムフプロの導入コストは決して安いものではないですが、それでも十分価値に見合う投資です。キッティングを自動化できるので作業を大きく省力化できますし、ユーザセルフでアプリをインストールできるツールもあるのが便利ですね。また、ひとつのMDMで管理しても、Macとウィンドウズで別のプロファイルを設計/管理する必要があるので、結局のところそれぞれの管理は発生してしまいます。現在の体制ではツールごとの操作に習熟する必要はありますが、ツールそれぞれの特性を活かして細かい管理を行い、従業員に快適な環境を提供することのほうがはるかに重要です」(青木)

自社サービスが文化を生む

同社では、自社で開発したキントーンにデバイスのシリアル番号などを登録してデータベース化しており、管理しているデバイスごとにコメントがつけられるユニークな仕組みも採用している。これにより、デバイスごとのデータ消去などの履歴が追えるようになるほか、社内で放置されている周辺機器が万が一あったとしても、誰でもキントーンで調べて所有者を確認できる。また、各種デバイスの使い方や設定方法がわからない場合、キントーンで質問するとどこからともなく助け舟が現れて、過去にあった同様の質問とその回答が記されたURLを教えてくれる。このようにキントーンでコメント付きの管理をすることで、情報システム部に問い合わせをせずとも従業員同士で自己解決できるシーンが増えるのだ。

さらにキントーンでは、社長から新入社員まで全従業員のデバイスコストが全社公開されている。使用額が多いと制限がかかるわけではないが、可視化により各人のバランス感覚が働き、必要なものだけを申請するという当たり前のことが当たり前に行える環境になっている。この自己解決/自浄作用が働く仕組みが情報システム部の負担を減らし、従業員同士の緩やかな信頼感や連帯感を醸成することにも大きく貢献している。

同社には、感謝を伝えたい部署/社員を従業員同士で選ぶ表彰制度が存在する。情報システム部はたびたび表彰されており、青木氏はそれが何よりもうれしいという。情報システム部門はバックオフィス部門だが、数多くの企業では「情報システム部門にやってもらって当然」という雰囲気や文化になってはいないだろうか。しかし、企業が何を大切にするのかを定義することで、情報システム部門はミッションに基づいて戦略的に動くことができ、従業員のパフォーマンスが向上。従業員に感謝されるという好循環が生まれることをこの事例が教えてくれる。

「情報システム部門はコストセンターと呼ばれることもあります。お金を生み出す事業部と対立的に捉えられることもありますが、対立からは何も生まれません。サッカーのオフェンスとディフェンスのように社内で役割分担をしているだけで、ひとつのチームなのです。互いを理解してリスペクトし合える関係にならないと、組織はよくなっていきません」(青木)

「kintone」利用によるデバイス管理(1)

サイボウズでは、自社サービス「kintone」でデバイス管理状況を公開。従業員が誰でもデバイスの利用状況履歴を閲覧できるほか、個人ごとの保有デバイス一覧やコスト総額が閲覧できる(マスク部分)。金額制限は設けていないが、可視化により業務に必要ないものまで購入するトラブルが発生しない。

「kintone」利用によるデバイス管理(2)

周辺機器を購入したい場合も、「kintone」で情報システム部に連絡する。正当な理由があれば、マウス、キーボードなど、ほぼすべての導入が認められる環境だ。

サイボウズ社員にインタビュー

今回お話を伺ったのは、サイボウズ株式会社の情報システム部に所属する青木哲朗氏(写真右)と、同社のコーポレートブランディング部に所属する浦田晃次氏(写真左)。

調査「CYODによる業務効率向上度」

サイボウズの従業員に対して行われた「CYODによって業務効率が向上したか」を問う調査への回答。Jamf Japanにより2022年2月に調査が行われており、多くの従業員がCYODによって業務効率が上がったと回答。特にエンジニアとMacユーザの間で評価が高い。

調査「CYODによる会社への信頼感向上度」

サイボウズの従業員に対して行われた「CYODによって会社への信頼感が向上したか」を問う調査への回答。企業がCYODを導入することで従業員の業務効率が上がるほか、企業自体へのロイヤリティ(愛着や親近感)向上にも期待できそうだ。

サイボウズのココがすごい!

□デバイス2台を2年交換で配付し、必要に応じて周辺機器も支給

□自社サービスでデバイスを管理し、従業員ごとのコスト感を可視化

□情報システム部の環境構築が社内で高い評価を獲得