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ビッグデータ企業が手を組むAIを駆使した「マネー×ヘルスケア」アプリ

著者: 朽木誠一郎

ビッグデータ企業が手を組むAIを駆使した「マネー×ヘルスケア」アプリ

「健康」の問題は、「お金」の問題。人生100年時代、この不都合な真実は、両者の相性の良さの裏返しでもある。そのことを象徴するのが、医療ビッグデータを扱う企業が、業界トップの証券会社と提携したというニュース。こうして生まれたAIアプリとは、いかなるものか。「マネー×ヘルスケア」のデータにまつわる戦略を読み解く。

「生命」「経済」のコラボ

人生に大きな影響を与えるトピックを指す「YMYL」という言葉がある。「Your Money or Your Life」、つまり「マネー」と「ヘルスケア」だ。では、この両者を扱う者同士が手を組んだとき、何が起きるのか。そのポテンシャルを感じさせるアプリの話題が今、マーケットを賑わせている。

「ダイベット(dAIbet)??」は、メディカル・データ・ビジョン株式会社??(以下、MDV)が開発した糖尿病AI(人工知能)アプリ。MDVは国内最大規模の診療データベースを保有する企業で、そのビッグデータをもとに開発したAIにより、糖尿病のリスクを算出し、予防につながる生活改善策を提案するという。

MDVはSBIホールディングスの関連会社であり、「インターネット証券初の880万口座」(??2022年6月時点)を謳う株式会社SBI証券と事業提携を発表。まさにマネーとヘルスケアのビッグデータ・カンパニー同士のコラボレーションとなったこの協働について、MDV代表取締役社長の岩崎博之氏、取締役の柳沢卓二氏、SBI証券執行役員常務の宮地直紀氏らに話を聞いた。

医療情報統合システムの開発・販売や保守業務、ポータルサイトの企画・設計、各種医療データの分析・調査などを手がけるメディカル・データ・ビジョン株式会社。社名は「豊富な実証データに基づいた医療の実現」という意味が込められたもの。[URL]https://www.mdv.co.jp

株式会社SBI証券は1999年10月にインターネット取引サービスを開始した国内インターネット証券事業最大手。「顧客中心主義」の経営理念のもと、日本におけるオンライン総合証券の先駆者として、業界屈指の安価な手数料体系や魅力ある投資機会(商品・サービス)の提供、安全でより良い取引環境の提供に努める。[URL]https://www.sbisec.co.jp

AIで糖尿病予防につなげる

まずは「ダイベット」アプリについて掘り下げていこう。ユーザが血液検査の結果を入力すると、その値に基づく糖尿病のリスクをAIが即時にスコア化(「AIスコア」)する。医学的な糖尿病の指標は主に「HbA1c(ヘモグロビンA1c)」であるが、それ以外の血液検査項目についても、糖尿病のリスクへの影響度をデータ群のディープラーニングにより解析。それらを加味したものを近似値として表示するシステムだ。

さらに、それぞれの血液検査値を変動させた場合の糖尿病リスクの変化をシミュレーションすることも可能。つまり、食事や運動、睡眠などの生活習慣を改善した場合、将来の糖尿病リスクがどれだけ低下するかをアプリが提示する。??同社はこの機能により、ユーザの行動変容を促しやすいとする。

人により、たとえば飲酒習慣よりも水分摂取の習慣を改善するほうが「AIスコア」が改善されるなど、個人差が反映されるのもビッグデータに基づくアプリならではだ。また、このスコアにはアップルウォッチ(Apple Watch)などで取得したアップルのヘルスケアデータも利用されている。

ただし、ビッグデータにより導き出される「AIスコア」と実際の糖尿病リスクの相関関係から因果関係があると言えるかどうかについては、医学的な検証が必要だ。柳沢氏はこの懸念点について「外部の医師らと協力関係を築き、レビューを続けている」と説明する。

ここで、「ダイベット」はプラットフォーマーとしてアプリ上で協働パートナーの情報を表示し、一元管理できる機能を活用して、第一弾としてSBI証券の資産情報を確認できるようにした。

これだけでは真価を十分に発揮できていないと感じる向きもあるかもしれない。ここで、実は同ホールディングスは、かねてから「バイオ・ヘルスケア」や「メディカルインフォマティクス」領域への事業展開に積極的だと宮地氏。たとえば、傘下のSBIファーマ??株式会社で健康食品の製造・販売を行っていることはあまり知られていない。

近年はさらに医療・健康情報のデジタル化や医療ビッグデータの活用を推進するソリューション・サービスの提供に乗り出しており、MDVの持分法適用会社??化などの動きもこれに伴うものとみることもできる。さらに、SBIグループとMDVは保険商品開発に向けた協議も開始しており、ヘルスケアとマネーのデータの相性の良さがあらためて浮かび上がる。

  「人生100年時代」と言われる中、メディアでは老後に必要な預貯金額なども取り沙汰される。「健康」の問題が「お金」の問題につながることは避けて通れない。AIにより個人に最適化されたサービスが次々と世に出る中、SBI証券にとっても、健康に関するデータは今後、非常に重要になると言える。

「未病」以前のデータを取得

MDVの強みは、医療機関から直接データを提供されていることだ。岩崎氏はその理由を次のように話す。

「弊社は約20年にわたり医療機関のシステム開発を手がけ、信頼を積み重ねたことにより、医療機関から直接(安全に匿名化等の処理がなされた)診療データを提供いただける関係を構築してきました。医療ビッグデータを扱う他社の多くはレセプト(診療報酬明細書)データ頼りですが、弊社にはそれよりも多様で詳細なデータが蓄積されています」

併せて、健康保険組合に加えて、国民健康保険・後期高齢者のデータも取り込み、データベースを充実させている。しかし、そんな同社であっても、「健康診断の結果」といった、病気やケガをして病院を受診する以前、いわゆる「未病」のうちの個人のデータについては取得できていなかった。そこで、同社としては健診結果などを記録することのできるサービス「カルテコ」を提供してきたが、そのデータ数は医療機関からのデータと比較すれば、わずかだったそうだ。

「ダイベット」アプリが広がれば、それをきっかけに「未病」データを取得できる。さらに、アップルウォッチといったウェアラブルデバイスによる健常時のデータも取得し、「未病」からいかに病気へとつながっていくかを経時的に追跡すること、同社のコア技術であるAIの精度をさらに高めることも可能になるのだ。

創業時から「医療・健康情報の一元化と利活用を促進し、生活者のメリット創出に貢献することに一貫して取り組んできた」(岩崎氏)というMDV。「ダイベット」アプリはビッグデータ・カンパニーとしてさらなる真価を発揮するための、非常に戦略的な展開であるとも分析できるだろう。

メディカル・データ・ビジョン株式会社の代表取締役社長・岩崎博之氏(左)と、取締役・柳沢卓二氏(右)。

株式会社SBI証券の執行役員常務の宮地直紀氏

医療機関を受診した際の診療情報や健康診断・人間ドックの結果を閲覧することができるオンラインサービス「カルテコ」。血圧などの測定値や歩数などの生活情報、服用中の薬やアレルギー情報などを登録でき、日々の健康管理に活用できる。[URL]https://karteco.jp

dAIbet

【開発】Medical Data Vision Co.,Ltd.

【価格】無料

【場所】App Store>ヘルスケア/フィットネス

糖尿病リスクを判定、生活改善と糖尿病リスクを「見える化」するアプリ「dAIbet」。AIが糖尿病に関するユーザの状態、リスクをシミュレーションし、どんな行動や生活習慣の改善が必要か、パーソナライズされたアドバイスを受けられる。

血液検査値を入力することで、ユーザの糖尿病リスクを「糖尿病AIスコア」として表示。どの生活習慣を改善すると「糖尿病AIスコア」が変化するか、6つの改善アクションよりシミュレーションし、自分にあった生活習慣の改善アクションの提案を受けられる。改善アクションをカレンダーに登録、行動変容を促す。

dAIbetのココがすごい!

□ 国内トップクラスの医療データに基づき糖尿病リスクを見える化

□ インターネット証券業界最大手のSBI証券と業務提携能

□ アプリをきっかけに「未病」以前の ヘルスケアデータを取得する