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コーディングもできる情報科教員の「iPad×プログラミング」

コーディングもできる情報科教員の「iPad×プログラミング」

2020年度からプログラミング教育が小学校で必須化されるなど、「情報教育」の重要性はますます高まってきている。高校でも情報教育の重要性が高まる中、先を見越して高校の授業でプログラミングを取り入れるなど、Society5.0時代を生きる子どもたちの教育に尽力する京都市立西京高等学校(全日制)の森裕崇教諭の多彩な活動に迫った。

先を見越したプログラミング教育

森裕崇教諭が今年度より赴任した京都市立西京高等学校(全日制)は、2003年に学校名の改称や新学科の設置といった大規模な教育改革が行われ、その際に1人1台コンピュータが整備された。

「現在は個々人で所有するウィンドウズ端末のほかに、学校所有のiPadが100台、臨時休校中のコンテンツ作りのために調達したMacBookプロ2台も活用しています。iPadはキーノート(Keynote)やiMovieを活用したストーリーテリングなど、普段の授業以外で活用されることが多いです」

森教諭がはじめてiPadの活用推進に携わったのは、京都市立の美術工芸高校に勤務していた2016年のこと。前年に試験的にiPadを導入し、授業でどう活用できるか検討した結果、生徒たちからの反応も良好だったため、正式導入となったそうだ。そこでICT担当として校内にLANを引くところから携わり、最終的に1人1台のiPad環境を実現。さらに前任の中学校でも同様にiPadの導入を果たすなど、赴任したそれぞれの学校でICT担当として尽力してきた。

2017年には美術工芸高校の情報科の授業でプログラミングの指導に挑戦した。当時は小学校でプログラミング教育が必修化されることが確定し、高校の新学習指導要領の全貌も見え始めてきた時期である。そのような中、アップル純正のプログラミング学習アプリである「スウィフト・プレイグラウンズ(Swift Playgrounds)」が日本語対応を果たしたため、すぐに授業へ取り入れた。ほとんどの生徒がプログラミング未経験だったことから、授業では「そもそもプログラミングとは何なのか」という話からスタート。プログラミングの3要素である順次・分岐・反復などについて、生徒がイメージしやすいように日常にあるものに例えながら説明を行った。

「授業は全4時間で実施して、最後の1時間でアプリを使用しましたが、進度が遅い子でもかなり上手に扱えました。スウィフト・プレイグラウンズは教員が細かく指示しなくても生徒が感覚を掴みながら自主的に進められるくらい、とても丁寧に設計されています。生徒たちは実際にiPadを使ってコードが書けることに驚きながらも楽しんでいましたね」

森 裕崇教諭

京都市立西京高等学校(全日制)教諭。1992年生まれ。滋賀大学大学院教育学研究科学校教育専攻修了、教育学修士。2019年にAppleからApple Distinguished Educatorとして選出され、国内外の教育者と連係し、テクノロジーを教育に取り入れ、教育に変革を起こすべく新たな教育に取り組んでいる。

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。 世界45カ国で2000人以上のADEが、Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。

自身でアプリを開発

森教諭は大学で教育学部に在籍し、情報教育を専攻してプログラミングを学んだ。プログラミングを始めたきっかけは、高校時代で放送部に所属したこと。

「中学校からバスケを始めて、高校でも続けるつもりでしたが、入学前の怪我が原因で断念せざるを得ず、放送部に入りました。そこで動画制作を志す先輩と出会い、パソコンで映像作品を作ることに興味を持ち始めたのです。2年生になると工学部出身でコーディングができる先生が顧問になったことで、プログラミングについて教えてもらい、高校3年生の夏に将来は教員になることを決意。情報教育の道に進みました」

森教諭はアプリを自作し、アップストアでリリースもしている。そのきっかけとなったのは、先述の美術工芸高校在籍時に同僚である美術の先生に頼まれ、丸・三角・四角の3つのパーツだけを組み合わせて絵を描くことのできるアプリを制作したことだった。その後、自身の情報の授業で生徒に二進数をうまく教えられず、どうしたらインタラクティブに伝えられるかを考え続けた結果、コードを用いて二進数を理解させるアプリの開発も果たした。

さらに森教諭はアップルブックス(Apple Books)にて電子書籍を7冊ほど発刊している。その中には情報や数学といった教科に関する書籍のほかに、部活動の顧問として指導にあたっているバスケットボールについてのものもある。現代のバスケットボールにおいて、対戦相手の分析や自分たちの試合や練習の客観的なフィードバックは、ほとんどがビデオで行われている。その背景にあるのはiPhoneやiPadなどの登場によって誰でも簡単に動画を撮って見られるようになったことだ。

「部活にはバスケ初心者の生徒もいるので、1つのプレーに対して説明が必要な場面も多いのですが、そのためにはどのようなプレーをしたかという記録が重要です。数年前、たまたま部員全員がiPhoneを所持していたため、学校にあったiPadも借りながら練習を撮影し、対戦相手の映像も仕入れてそれらを分析することを始めました。撮った写真や動画はすべてアイクラウド(iCloud)に保存するようにして、いつでもどこでも見られる状態にできたのは便利でしたね」

本当に役立つ情報教育を

これまでiPadの活用に力を入れてきた森教諭は、2019年にADE(Apple Distinguished Educator)に認定された。きっかけは、ADEが自主運営するイベント「ADEカフェ」に参加したこと。これまでの実践をほかのADEの先生方に見てもらい、改善のアドバイスをもらえるADEのコミュニティに魅力を感じ、自身もADEへの応募を決意。前任校である中学校に在籍していた際に実践していたiPadで撮影した動画の逆再生を利用した「負の数×負の数の計算」やドローンの飛行時間を活用した「文字式の代入」などのユニークな授業と、空間図形ARアプリの作成などが評価され、2019年にADEに認定された。

「ADEの先生方はそれぞれスケッチやドローイング、写真、ビデオ、音楽など得意分野を持っているため、さまざまな実践を聞けるようになったのは大きいですね。悩んでいることを打ち明けても肯定的なフィードバックがもらえますし、とても良い刺激になります」

私立学校と異なり、数年ごとの異動が伴う公立高校で勤務を続ける森教諭。学校にはそれぞれの背景があるので、それに合わせながら自分が目指している教育は何なのかを表現していきたいと前向きに語る。

「情報教育は、入試の有無に関係なく、授業終了後も引き続き活用できる教科だと思います。現時点の社会背景やテクノロジーの発達などを考え、生徒たちに今後はこうなるだろうという予測を見せながらプログラムの作り方の話などを伝えていきたいです」

常に一歩先の世の中を見据え、さまざまなアイデアを携えながら実践を生み出し続ける森教諭の姿は頼もしい。ソサエティー5.0時代を生きる子どもたちのために、これからも情報教育のリーダーとしての活躍が楽しみだ。

Appleの「Swift Playgrounds」の日本語対応をきっかけに、情報科の授業でプログラミング教育を実践するようになった森教諭。「Swift Playgroundsは教員が細かく指示せずとも、高校生が直感的に進め方が理解できます。小中学生でも取り組める可能性があり、とてもおすすめです」。

森教諭は自作アプリもリリースしている。そのきっかけとなったのが当時の同僚教諭に頼まれて制作した「造形表現アプリ」(上)。また「2進数ドリル」(下)は、生徒に二進数をインタラクティブに伝える方法としてアプリ制作に至ったという。

顧問を務めるバスケットボール部でもiPadを活用。試合や練習風景を撮影し、対戦相手の分析をはじめ、自分たちの試合や練習の客観的なフィードバックを行っている。

森教諭が企画したプログラミングの勉強会「Saturday Night Coder」。毎週土曜日21時からオンラインで開催し、本格的なプログラミング技術を紹介している。

森裕崇教諭のココがすごい!

□ Swift Playgroundsを活用したプログラミング教育を実践している

□ アプリや電子書籍を自作し、授業や部活指導で活用している

□ プログラミングの勉強会を企画し、教員の学び合いの場を運営している