Appleデバイスの管理ソリューションを古くから手掛けてきたJamf社のディーン・ヘイガーCEOが来日した。iPhoneがそうであったように、Jamf社は「Empower User(ユーザにパワーを)」を掲げながら、真に使われるIT管理ソリューションを開発している。
Jamf CEOのDean Hager氏。St. Cloud State Universityでコンピュータサイエンスと数学の学士号、St. Mary's Universityにて経営の修士号を取得。Lawson Software社、 IBM社での経験を経て、 Kroll Ontrack社のCEOに就任。2015年から現在の役職に就く。
iPhoneが変えた
iPhoneやiPad、Mac、アップルTVといったアップルデバイスを組織で管理する際のデファクトスタンダードとなりつつあるのが、ジャムフ(Jamf)社が提供する「ジャムフ・プロ(Jamf Pro)」だ。アップルデバイスの導入から配備、運用管理までをシンプルかつ安全に行え、一般的なMDM(モバイルデバイス管理)ソリューションの枠を超えた性能や機能、使い勝手を実現することから、国内外の多くの企業や教育機関で採用されている。
このような素晴らしいプロダクトは、一朝一夕に生まれたものではない。実は、ジャムフ社はアップルが今のトップブランドの地位を獲得する遙か前、2002年からアップルデバイスに特化して管理ソリューションを提供してきた実績がある。アップルが大好きで、ユーザと同じ目線で製品を利用するプロフェッショナルが作り上げたものだからこそ、アップルデバイス同様にユーザを魅了するのだ。そんなジャムフ社のCEOであるディーン・ヘイガー氏がこのたび日本で2度目となるイベント「ジャムフ・ネーション・ロードショー」のために来日、いろいろと話を聞くことができた。
近年、アップルデバイスが企業や学校に続々と導入されることがジャムフ社成長の追い風となっているが、そもそもなぜ、アップルデバイスは組織においてここまで利用されるようになったのだろうか。
「法人市場と教育市場でその理由は異なると見ています。教育市場に関しては、アップルは創業当初から製品を投入し、注力してきた分野です。そして、2016年にはアップルスクールマネージャー(Apple School Manager)やクラスルーム(Classroom)アプリなどを発表し、さらに教育向けのソリューションを強化しました。アップルの教育市場へのコミットメントが着実に実を結んでいった結果だと思います」
「一方、法人市場に関しては、2007年のiPhone発売後から導入が進みましたが、興味深いのはそれがアップルが戦略的に意図しているように表面上は見えなかったことです。アップルは単にコンシューマー向けに素晴らしい製品を作ったに過ぎませんが、結果として、iPhoneを仕事でも使いたいと考える従業員が増えていったのです」
ITの歴史の中でこれは大きな転換点だとヘイガー氏は語る。従来ITデバイスというのは、業務オペレーションに適したものを企業が選択をして、従業員が利用するという上から下への流れだった。しかし、iPhoneを契機に「従業員が選んだものを利用する」ようになり、さらにiPad登場以降、ユーザの選択が増えるほどアップルの企業における存在感も増したのだ。
Jamf
注目すべきはトータルコスト
そしてこの流れは日本でも今後さらに加速すると見られるが、特に今後5年以内の大きな変化となるのはMacの導入だとヘイガー氏は語る。というのも、米国では6~7年前と比べて圧倒的にMacを使うビジネスパーソンが現在増えているからだ。ヘイガー氏は、企業におけるMac導入が進まなかった理由として、「価格」「アプリケーション」「管理とセキュリティ」の3つを挙げる。
「確かにMac本体は高価かもしれません。しかし、企業は製品価格ではなく、ライフサイクルの観点から考えるべきです。Macは管理コストが大幅に抑えられるので、他機種に比べてトータル導入コストは20%程度低くなります。Macが高いというのは実は誤解で、正しい知識が広まっていないだけなのです」
また、業務向けアプリケーションに関しては、確かに昔は数が少なかったものの、最近は数が増しており、WEBアプリやクラウドといったプラットフォームを問わずに使えるサービスが主流となっていることから問題ではないと語る。
「管理とセキュリティに関しては、弊社がもっとも関わりのあるテーマです。ジャムフ・プロが広く知られるようなったのはこの数年のことですが、すでに世界で3万社に採用され、1400万台のデバイスが管理されています。つまり、アップルデバイスは管理しやすく、使いやすく、セキュリティが高いという証拠です」
では、今後も日増しに高まるアップルデバイスの組織導入に対応するため、ジャムフ社はどのようなスタンスで製品開発を行っているのか。
「企業向けの管理ソリューションを提供するたいていの企業は、ユーザを〝IT企業のチーム〟と思っています。一方、私たちは、ユーザは〝デバイスを使う人〟と捉えています。ですから、その一人一人が満足のいくものを作れれば、ITチーム全体がよくなります。このアプローチは一般的な企業とは逆かもしれませんが、Empower users with Technologyを掲げ、私たちはとても重要視しています。また、ITの役割には『ユーザ価値の向上(Empower People)』と『ポリシーの徹底(Enforce Policy)』があり、IT黎明期は前者のほうが、ここに来て後者のほうが優先されています。しかし、これからのIT管理者はこの相反する2つの命題を両方叶えることが重要です」
2つの新サービス
米国ではすでにリリースされているが、ジャムフ社がロードショーに合わせてアナウンスした新サービスに、「ジャムフ・コネクト(Jamf Connect)」と「ジャムフ・スクール(Jamf School)」がある。
「現在、データはクラウドに保存され、アプリはクラウドで動きます。また、個人のアイデンティティ(IDやパスワード)もクラウドにあります。つまり、セキュリティはもはやネットワークのファイアウォールではなく、クラウドなのです。そうした背景の中、従業員にとっても、IT管理者にとっても安全で利便性の高い、ID管理の手法がジャムフ・コネクトです」
現在Macを利用する場合はサービスごとに複数のログインとパスワードを使い分ける必要があり、ユーザ体験と生産性が損われている。また、セキュリティ面でもたくさんのIDやパスワードを利用するため危険が伴う。そこで、Macのログインアカウントを、OktaなどのIDaaSサービスのシングルサインオンのアカウントと同期させ、1つのID/パスワードだけであらゆるサービスへ安全かつ効率的にログインできるようにするのがジャムフ・コネクトだ。
「一方、ジャムフ・スクールは弊社が買収した『ズールーデスク(Zulu Desk)』をベースとしています。IT管理者がいない小さい学校でもWEBベースのインターフェイスで最低限必要なアップルデバイスの配備や運用管理を簡単に行えるMDMでありながら、アップルのクラスルームアプリでも実現できない、教員や児童・生徒に役立つさまざまな機能を内蔵しているのが特徴です」
最後に今後のジャムフ・プロに関して尋ねてみた。
「アップルの教育における最大の強みは、アップストアにある数多くのアプリだと思っています。そうしたアプリを、児童・生徒にとって、そして教員にとってより使いやすくするための機能を実装することが、教育市場における私達のミッションです。一方、企業向けには全体の管理・運用やセキュリティを強化しながら、同時にUX(ユーザ体験)を引き続き高めていきたいと思っています」
相反するこの難問に挑戦するため、ジャムフ社では昨年からUX研究チームを組織し、その成果を製品に反映している。たとえば「ジャムフ・エンゲージ(Jamf Engage)」という機能は、ユーザに同意を得たうえでジャムフ・プロの使用状況をトラッキングし、科学的にUXを改善していくものだ。
「業務ツールでも、エンパワーするのはユーザ」。まさに、ジャムフ社製品の根幹に流れている哲学を象徴するような取り組みの1つである。ちょうどアップルがユーザ目線のiPhoneで世界を変えたように、ジャムフ社にも業務ツール、管理ツールの通念をこれからも覆してほしい。
Appleデバイス管理の最先端を知る「Jamf Nation RoadShow」開催
日本におけるAppleデバイスの企業/学校導入の高まりを受け、国内においてもJamfの存在感は日増しに強くなっている。5月23日には、"Appleデバイス管理の最先端を学ぶ"をキーワードに、東京・六本木ヒルズで国内で2回目の開催となる「Jamf Nation RoadShow」が開催され、国内の名だたる企業を含むIT管理者を含む多くの来場者が参加した。
Dean Hager氏の基調講演のほか、Jamf ProによるmacOS、iOS、tvOSの最新事情、そしてiPadとJamf Proを導入した熊本県熊本市による大規模な教育ICTプロジェクトに関するNTTドコモの講演、ならびに同じくJamf Proを活用して先進的なIT管理を実践するJ.フロント リテイリング株式会社の講演も行われた。Jamf社はグローバルでこうしたイベントを行っているほか、世界最大のIT管理者のコミュニティーJamf Nationを運営していて、参加者は8万人にも達している。