デザイナーが使うコンピュータといえば「Mac」のイメージですが、それもいつの日か「iPad」に変わるかもしれません。その証拠に、これまでMacでしか行えなかった作業が、今やiPadでもこなすことができるようになっています。「iPadデザイナー」として活躍中のクリエイターに話を聞いたうえで、iPadで行えるデザイン作業の基本とノウハウを学んでいきましょう。
CREATOR INTERVIEW
アートディレクター amity sensei
クリエイティブエージェンシーでアートディレクターを務めるかたわら、Adobe MAX Japan 2018にゲストスピーカーで出演するなど多方面で活躍中。
iPadネイティブ
─amity senseiはiPadデザイナーとして活動するだけでなく、今年の1月からはユーチューブでiPadプロを使ったデザインの解説動画をアップしていらっしゃいますね。名前の由来は、もしかしてアドビのAI「アドビセンセイ(Adobe Sensei)」からですか?
そうです! もともとアドビがすごく好きなのと、AIや最新のテクノロジーを使っていかに早く仕事をするかを目指しているので、そう名乗るようになりました。iPadも効率化のひとつです。
─iPadでイラストを描くようになったのはいつ頃からでしょうか?
高校生ぐらいだと思います。現在25歳ですが、プロシリーズが出る前から、他社製のスタイラスペンを使ってiPadで描いていましたし、それで大学の授業の課題も提出していました。大学生のときはペンタブレットも使っていたんですけど、ペンタブとMacを持ち運ぶなんて非現実的だし、スペースを取るしで大変。できるだけミニマムに生きられるように日々考えてはいました。なにせ好きな場所で仕事したいので。
─あまりアナログで描く機会はないのでしょうか。
ほとんどないですね。通っていたイギリスの大学が、デジタルメディアテクノロジーアートという、「デジタルを使って面白いことをしようよ」という学科だったんです。そのときはアニメーションやイラスト、写真、ファッションフォトグラフィなどをやっていて、そこから完全にデジタル側にシフトしました。
─ベースがデジタルを使ったクリエイションなんですね。もともと子どもの頃からデジタル系は得意でしたか?
そうですね、ITとかメディアは興味がある分野なので、今好きなことを仕事にできているなとは思います。
─愛用アプリは何ですか?
「プロクリエイト」を一番使っています。このアプリがいいのは、ブラシの種類の多さ。ほかに有名なイラストアプリには「クリップスタジオ」と「メディバンペイント」などがありますが、どちらかと言うとマンガ家さん向きですよね。マンガっぽいイラストを描くならそのほうがいいと思いますが、もうちょっと描写したいなら、プロクリエイトのほうがブラシがたくさんあっていいと思います。
─プロクリエイトを使い始めて、マスターするまでどのくらいの時間がかかりましたか? そして、うまくなるために何をしていました?
半年ぐらいでしょうか。写真のトレースは頻繁に繰り返していましたね。たとえばハンバーガーの写真をトレースして描いたり。いろいろな写真をかき集めて、キャンバスに貼って描いていくのがいいと思います。あとはピンタレストなどで素敵な画像を調べて、見本を見ながらひたすら描いていくとか。
iPadを相棒に
─ほかのアプリはいかがでしょう?
「スケッチブック(Autodesk SketchBook)」はプロダクトデザイナー向きですね。時計とか車、カメラやコップなんかを描くときはよかったです。アドビの「フォトショップ・スケッチ(Photoshop Sketch)」はブラシの種類が少ないのと、レイヤーの使い方が煩雑かなと。「ペイントストーム(Paintstorm Studio)」はプロクリエイトに似ています。ただパネルが多いので、ちょっと上級者向けかな。
─アプリをいろいろ試されているんですね。
めっちゃ試してますね。「アフィニティデザイナー(Affinity Designer)」もたくさんパネルがあってちょっと難しい。ただベクターとラスターが一緒に描けるんです。フォトショップとイラストレーターの合体版みたいな感じで。ただ、機能を詰めれば詰めるほどわからなくなってくるし、レイヤーも扱いにくくなります。結局プロクリエイトが一番シンプルだけど描きやすいし、ブラシの種類も豊富なので使っています。
─イラスト以外のアプリでお気に入りはありますか?
画像編集アプリの「アートスタジオ・プロ(Artstudio Pro)」は、フォトショップと共通しているところが多くて、非常に使い勝手がいいですね。画像合成をするときなどによく使います。アドビが今年中にiPad版のフォトショップをリリースすると発表していますが、うかうかしていられないかもしれませんね(笑)。
─これからiPadでデザインを始める人にアドバイスを贈るとしたら、どういうことを伝えたいですか。
とりあえず思いついたことをすぐにできるのが、iPadのいいところなんです。Macだとディスプレイを開いて、電源ボタンを押して、アプリを起ち上げる操作が必要ですけど、iPadなら思いついたことををどんどん試せる。だから、アイデアはすぐに残してほしいです。アプリはメモでもプロクリエイトでもスケッチアプリでもなんでもいいので。iPadを手放さずに常に持ち歩いて、相棒にしてほしいなと思います。だから私もiPadにホールドリングをつけて、常に一緒にいるような存在になっています。
amity senseiのYouTubeチャンネルでは、iPad ProとApple Pencilを使ったデザイン解説動画が視聴できます。【URL】https://www.youtube.com/channel/UCcXtyjK8wagT5LWS5bBgPPQ
愛用アプリはコレだ!
Procreate
【開発】Savage Interactive
【価格】1200円
Apple Design Awardを受賞した高機能のイラストアプリ。プロレベルの機能を備えており、特にブラシの種類の豊富さが特徴。
Artstudio Pro
【開発】Sylwester Los
【価格】1400円
【場所】App Store>写真/ビデオ
iOSおよびmacOSでリリースされている画像編集アプリ。Photoshopと使い勝手が似ており、その使いやすさが評判になっています。
amity senseiが愛用するのは、2018年発売のiPad Pro 12.9インチとApple Pencil第2世代。iPadは1TBのフルスペックモデル。ケースは着けず、ホールドリングに指を通して使っているそう。
「iPadでデザイン」に挑戦する読者へ一言
「アプリを知る」。どんなアプリでもいいので、思いついたアイデアはすぐに残してほしいです。それが最終的に何かにつながるはずなので、iPadを常に持ち歩いて相棒にしてほしいなと思います。