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超高速SDカードがMacやiPhoneに与える影響とは?

著者: 今井隆

超高速SDカードがMacやiPhoneに与える影響とは?

読む前に覚えておきたい用語

SDメモリーカード(SD Memory Card)

マルチメディアカード(Multi Media Card)の上位互換カードとして、1999年8月に松下電器産業、東芝、サンディスクによる共同開発規格として発表された。SDメモリカードの規格策定は、2000年1月に設立されたSDアソシエーション(SDA:SD Association)に委ねられている。

microSDカード(microSD Card)

携帯電話などの小型デバイスの普及に伴って、より小型のメモリカードとしてSDアソシエーションによって2005年7月に承認された。2004年にサンディスクが開発したTransFlashカードがベースとなっている。11mm×15mm×1mmとSDメモリカードの4分の1程度の面積となっている。

PCIe 3.1(PCI Express 3.1)

PCIe 3.0をベースに、モバイル機器に対応するため信号数削減を行ったM-PCIe(Mobile PCI Express)や各種アップデートを盛り込んだ規格で、2013年7月に発表された。非通信時のアイドル電力を低減する「PCIe L1 PM(Power Management)」機能なども盛り込まれている。

進化を続けるSDメモリーカード

現在もっとも普及しており、かつ今なお現役で活躍するメモリカード規格が「SDメモリーカード(以下SDカード)」である。NANDフラッシュメモリを記録媒体に使用するメモリカードとしては後発ながら、当初より著作権保護機能をサポートし、ソニーが開発したメモリースティックとの市場競争に勝ち抜いて事実上のデファクトスタンダードとなった。

SDカードはその登場当初、主にデジタルカメラやビデオカメラの記録媒体として使用された。このためMacをはじめとするパソコンには、SDカードスロットを備えた製品が多かった。しかし、この10年ほどの間に写真やビデオ撮影の主役がスマートフォンに移ったことなどから、最近のパソコンではSDカードスロットを持たない機種が多くなり、現在Macで同スロットを備えるのはiMacと同プロのみとなっている。

その一方、アンドロイドスマートフォンやタブレット、あるいはウィンドウズタブレットや2in1パソコンなどではマイクロSDを増設ストレージとして使用する製品が多く、メモリカードの用途や役割が時代とともに変わりつつある。さらに、プロ向けのデジタルカメラおよびビデオカメラでも超高画素化が進んでいる。このような背景を受けて、SDカードは大容量化と高速化を目指して進化を続けており、その最新規格となるのが2018年6月に発表されたSD 7.0規格で規定された「SDエクスプレス(SD Express)」および「マイクロSDエクスプレス(microSD Express)」である。

高速なインターフェイスと新しいプロトコル

SDエクスプレスでは、従来のSDインターフェイスに加えて、PCIエクスプレス 3.1(以下PCIe 3.1)を採用しているのが大きな特徴だ。追加となるPCIe 3.1の高速伝送路には、2011年1月に発表されたSD 4.0で規定された、UHS-II規格で追加された2段目のピンを転用する。物理インターフェイスにPCIe 3.1を採用したことで、その転送速度は理論値で最大毎秒985MBとなり、SATA3インターフェイス接続のSSD(理論値毎秒600MB)をも大きく凌ぐ性能となっている。

さらにそのプロトコルとして、NVMエクスプレス(Non-Volatile Memory Express、以下NVMe)1.3を採用しており、NANDフラッシュメモリなどの半導体ストレージの特性を活かした論理デバイスインターフェイスが適応されている点も見逃せない。NVMeは最近のMacのSSDにも採用されているプロトコルで、半導体ストレージの特徴である高い並列アクセス処理能力を引き出すのに適した設計となっている。

従来のSDカードは、一般的にはUSB接続のカードリーダ/ライタを介してマスストレージクラスデバイスとして使用されることが多かったが、SDエクスプレスはNVMeに対応したことでPCIe 3.0に接続することが可能になり、MacなどのホストデバイスからはSSDと同等の高速半導体ストレージとして扱うことが可能となっている。

また、SDエクスプレスを規定するSD 7.0規格では、大容量化に対応する新たなフォーマット「SDUC」が規定された。SDカードはもともと容量の上限が2GBまでで、そのファイルシステムにはFAT12/16が採用されていたが、大容量化にともなって2006年に最大容量32GBのSDHC仕様が策定され、ファイルシステムにはFAT32が採用された。その後フルHDビデオカメラの登場によってさらなる大容量化が求められ、2009年には最大容量2TBのSDXC仕様が策定され、そのファイルシステムにはexFATが採用された。

しかし、その後もNANDフラッシュメモリが大容量化するにつれてSDカードも容量が増え続け、今年に入って1TBのモデルも登場している。このまま推移すると2TBの壁を突破するのも時間の問題であることから、SD 7.0では新たに最大容量128TBのSDUC規格が制定された。したがって、容量64GB以上(32GB超)のSDカードがSDXC非対応のカードリーダで読めないのと同様に、4TB以上(2TB超)のSDカードはSDUC対応のカードリーダでないと読めないので注意が必要だ。

高速化でもたらされる新たなアプリケーション

SDエクスプレスの登場によって、SDカードに新たな用途がもたらされようとしている。従来のメモリカードはUSB接続のマスストレージクラスデバイスのため、その転送速度の遅さやレイテンシ(遅延)が大きく、起動ディスクなどのメインストレージには使えなかった。しかし、SATA以上の速度を持つインターフェイスと、低レイテンシのNVMeプロトコルを採用するSDエクスプレスでは、OSを起動するメインストレージとして充分な性能を有している。

SDエクスプレスの実際の性能が規格上限に近づけば、ノートパソコンなどのストレージとしても利用できる可能性が高まるだろう。MacBookなどに搭載されているNVMe接続SSDの性能は、PCIe 3.0 4レーンを使用することからリード毎秒3GB、ライト毎秒2GBと非常に性能が高い。SDエクスプレスはこの性能には及ばないものの、USB 3.0接続のSSDに匹敵するか、それ以上の性能を発揮できる可能性がある。すでにSDカードスロットが廃止されて久しいMacBookシリーズだが、今後SDエクスプレスが普及し低価格化が進めば、将来のMacBookシリーズでは再びSDカードスロットが復活するかもしれない。

また、iPhoneのライバルであるアンドロイドスマートフォンにSDエクスプレスが採用されると、新たな脅威となる可能性が高い。アンドロイドOSは、すでにアンドロイド6.0以降において、マイクロSDカードをメインストレージと組み合わせて使う「内部ストレージ化」機能を採用しており、アプリや各種データの保管先として使えるようになっている。

アンドロイドスマートフォンのストレージがSDエクスプレスカードで手軽に大容量かつ高速に強化できるようになれば、ストレージの拡張性を持たないiPhoneにとっては不利な競争を強いられる可能性も考えられるからだ。今回のSDエクスプレスの登場が、iPhoneやiPadの拡張ストレージ対応へのきっかけとなることを期待したいところである。

SDメモリーカードの各種ロゴと最大容量

SDメモリーカードは大容量化とともにそのカード規格とファイルシステムを改訂してきた。最近ではその容量が1TBに達したことから、最大容量2TBのSDXCでは限界が見えてきた。これを見越して最新のSDUCでは最大128TBまでの容量に対応している。

SD Expressの高速伝送レーン

SD ExpressではUHS-IIクラスカードで追加された2段目の信号ピン(黒く囲った部分)を使って高速伝送を行う。一方で1段目の信号ピンは従来のSDカードと互換性があり、SD Expressに対応しない機器ではSDメモリカードとして機能する。

1TBに到達したSDメモリカード

今年1月にLexarが容量1TBのSDXC UHS-Iカードをリリースして話題になったが、その後、Sandisk(Western Digital)、Micron、Lexarなどから相次いで容量1TBのmicroSDカードがリリースされた。SDメモリカードの容量はわずか15年間で1000倍に達している。

【URL】http://www.lexar.com/jp/

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