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“薬飲み忘れ”を性格診断で防ぐFrame Health

著者: 三橋ゆか里

“薬飲み忘れ”を性格診断で防ぐFrame Health

アメリカでは、病院の診察日が近くなると必ずリマインドのテキストや電話がきます。手厚いサービスだなと思っていたら、何のことはない、いい加減な患者に予約をすっぽかされないためのリスク回避の策でした。予約の時間に関しても、遅れてくることを見越して15分早めに来るように指示されたりします。

患者が診察に訪れないのも当然問題ですが、それ以上にアメリカで深刻なのが、医師に指示された薬の服用を患者が守らないこと。その結果、約3000億ドルという巨額の金額が無駄にされているのです。少し古い2012年の調査結果ですが、服薬が遵守されないことで患者の10%が入院し、年間12万5000人が死に至っています(ACPM調べ)。

アメリカ疾病管理予防センターによる2016年9月の報告では、健康保険を使う65歳以上の4人に1人(500万人)が、高血圧の薬を指示どおりに飲まないことがわかっています。それどころか、糖尿病などの慢性疾患の処方箋の20~30%が受け取られないままだというデータも。薬が指示どおりに飲まれるのは、なんと半数にとどまります。

自分の健康や命にさえ関わることなのに、人はなぜ薬をきちんと飲まないのか。状況は患者それぞれで異なるため一概には言えませんが、学歴、社会的または経済的地位、治療また服用の複雑さ、医師や病院による説明不足、患者のストレスレベル、薬を入手することへの物理的または金銭的ハードルといったものが理由にあるようです。そのほか、効果が実感できなかったり、副作用を感じたりして服用を途中でやめることもあるでしょう。

飲み忘れへの対策としては、薬の服用をリマインドしてくれる「メディセーフ(Medisafe)」のようなアプリ、またオンライン薬局「ピルパック(PillPack)」のようなサービスが存在します。後者は、自宅に届けてくれることで薬局に出向く手間を省いてくれるだけでなく、飲むタイミングに応じて薬を個別梱包することで飲み忘れを防ぐ工夫がされています。ピルパックは、2018年にアマゾンが約10億ドルで買収しました。

一方、課題のより根本的な部分に着目したソリューションもあります。患者に指示どおりに薬を服用してもらうには、医師と患者間の信頼関係が欠かせません。その関係づくり強化に性格診断テストを用いるのが、ロサンゼルス発の「フレーム・ヘルス(Frame Health)」です。CEOが、“健康”と“性格”の結びつきに着目したことが創業のきっかけでした。

フレーム・ヘルスは、サイコグラフィック(心理学的属性)データベースを活用して、患者に関する包括的なプロファイルを作成。判明した性格に基づいて、服薬指示を守らない可能性が高い患者(結果として再入院になるリスクが高い)を特定し、その人に合った形の治療アプローチを提案。たとえば、律儀な人は日常的に運動をしている可能性が高く、また薬の服用を守る傾向があるそうです。

2014年に実施したパイロットプログラムでは、患者は気分や対人関係などにまつわる70問(回答時間は約8分)の質問に回答しました。面倒だと嫌がられるかと思いきや、医師に自分のことをより理解してもらうためならと、患者は回答に協力的でした。

医師や看護師は、結果を普段のコミュニケーションに活かし、手のかからない患者ではなく “コスト高”な患者にリソースを充てることができます。患者が指示どおりに薬を服用するようになれば、本来なら起こらないはずの突然の発作や病状悪化といった状況が回避され、患者また医療従事者の双方にとってウィン・ウィンなのです。

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Yukari Mitsuhashi

米国LA在住のライター。ITベンチャーを経て2010年に独立し、国内外のIT企業を取材する。ニューズウィーク日本版やIT系メディアなどで執筆。映画「ソーシャル・ネットワーク」の字幕監修にも携わる。【URL】http://www.techdoll.jp