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高速化したマシン性能はもはや“プロ”級!

高速化したマシン性能はもはや“プロ”級!

【OVERVIEW】プロユースに対応するハイスペック

コア数増でパワフルに

新Macミニは下位モデルで10万円を切る低価格ながら、第8世代コアiプロセッサを搭載するなど、最新技術を取り入れたパワフルなマシンに仕上がっている。特に大きな変更が、CPUに最高で6コアを選択できる点だ。コア数が多ければ同時に処理できる命令が増えるため、動画のエンコード処理といった「重い」処理で大きな力を発揮する。

これまで6コア以上のCPUを搭載できたのはMacプロとiMacプロ、MacBookプロの15インチモデルだけで、いずれもプロ向けのハードウェアだ。プロユースの視点からはCPU内蔵のGPUというのが大きな弱点といえるが、必要ならばeGPU(外付けGPU)を使うことでカバーできる。こうなると、コンパクトなワークステーションとしてのポジションすら視野に入ってくる。

このように、新Macミニはコストパフォーマンス重視のローエンドから、プロユース市場までをフォローする、実に懐の広いモデルに進化した。これまでのMacの歴史の中でも、唯一無二の位置づけを得たといえるだろう。

検証に使ったモデル

今回検証に使ったのはスペックの異なる3つの新モデル。CPUに4コアのCore i3を搭載したローエンドモデルと、6コアのCore i5を搭載した上位モデル、そして6コアのCore i7を搭載したCTO専用モデルだ。メモリ搭載量はそれぞれ8GB、8GB、32GB。

第8世代Coreプロセッサを搭載

新Mac miniは、全モデルでモバイル用ではないデスクトップ用の第8世代Coreプロセッサ「Coffee Lake」を採用。消費電力が大きくなるため、Mac mini本体の電源容量も大幅に拡張された。

GPUはCPU内蔵型

GPUは「Intel UHD Graphics 630」。最大3台までのディスプレイに出力可能で、5Kディスプレイにも対応する。

メモリはDDR4-2666を搭載

メモリは2666MHzのDDR4 SO-DIMMを使用。スロットは2つあり、同容量・同速度のSO-DIMMを挿すことでデュアルチャネルによる高速化にも対応する。最大64GBまで搭載可能。

SSDはPCIe接続

SSDストレージはPCIe接続で、ローエンドモデルは128GB、上位モデルは256GBの容量を備える。CTOで最大2TBまで増設可能だ。 写真●iFixit

【Point】CPUはどのくらい速くなった?

期待以上の高速化

前モデルで第4世代インテルコアプロセッサ「ハスウェル(Haswell)」を採用していたMacミニは、最新モデルで第8世代「コーヒー・レイク(Coffee Lake)」を採用した。また、モバイル用のCPUからデスクトップ用のCPUに変わっている。

デスクトップ用CPUはそもそもコア数がモバイル用よりも多く、3次キャッシュの量も大きい。消費電力が大きくなるぶん、CPUや内蔵GPUのクロック周波数も高くなり、よりパワフルな処理が可能になる。こうした変更により、実際にどの程度の処理能力があるか、CPU全体の能力を比較する「ギークベンチ4(Geekbench 4)」を使って計測してみた。

結果を見てみると、2014年の下位モデルと比較して、CPUコア1つあたりの能力が約1.5~1.8倍近くも向上。コア数が増えたこともあり、マルチコア環境では2.5~4.4倍という大幅な向上を見せている。

マルチコアの恩恵はベンチマークソフト「シネベンチR15(Cinebench R15)」でも確認できる。「CPU」テストではCPU演算のみでレイトレーシングレンダリングを行うのだが、このときにコア数が多いほど、高速でレンダリングされる様がグラフィカルに表示される。特にコアi7モデルの場合、コアの余剰パワーをもう1つのコアのように扱う「ハイパースレッディング」のおかげで12コア相当の演算が行われるため、非常にサクサクと描画された。

CPUはコンピュータにとって、自動車のエンジンに相当するパーツ。コンパクトながらもパワフルなCPUを搭載する新Macミニは、さながらコンパクトボディに強力なエンジンを積んだ“ホットハッチ”とでも言えるモデルに仕上がっているのだ。

CPUのベンチマーク(Geekbench 4)

Core i3~i7の違いにより、トータルのCPU性能は2014年モデル比で2.5~4.4倍へとほぼリニアに向上した。

マルチコアで同時処理

コア数に応じて描画ブロックが増加するCinebench R15のCPUベンチを計測。Core i7モデル(右)ではハイパースレッディングにより12スレッドが同時に処理されている。

前モデルとのCPUスペック比較

前モデル(左)と新モデル(右)のCPUスペック。同じCore i5同士だが、第4世代と第8世代ではCPUのコア数が全体に増加。3次キャッシュの量も増量している。

【Point】ディスク性能は上がってる?

SSDの容量がキモ

新MacミニではHDDが廃止され、PCIeベースのSSDが標準搭載となった。SSDは前モデルでもCTOで選べたが、このときはリンク幅がx2、リンク速度が5GT/s。新モデルではリンク幅がx4、リンク速度は8GT/秒に拡張され、これだけでもかなりの性能向上が見込める。容量は最大2TBまで拡張可能だ。

実際に速度を計測してみると、コアi7モデルの読み込み速度は約2.4~2.7GB/sと、HDDとは比較にならないほど高速化。書き込み速度はSSDの場合、容量に比例して速くなる性質があり、コアi3モデルの128GBを基準にすると、コアi5モデルの256GBで約2倍、コアi7モデルの1TBでは約4倍の差が確認できた。いずれのSSDでも非可逆圧縮であれば60fpsの4K動画でも問題なく記録できる速度があるが、本当に4Kのリアルタイムキャプチャを行うのであれば、できるだけ大容量のSSDを積んでおいたほうがいいだろう。

SSDはユーザ側で交換できないため、最初に大きめの容量を選んでおくと後々面倒がない。どうしても足りない場合は外付けストレージでカバーしよう。

ディスク性能のベンチマーク

書き込み/読み込みともに申し分のない速度を記録。ただ、SSDの書き込み性能は容量に大きく依存するため、プロユースの場合は1TBクラスまで増量しておきたい。

容量不足を助ける外付けSSD

Samsung Portable SSD X5

【実売価格】9万5000円前後 (1TB)

【発売】Samsung

【URL】https://www.samsung.com/semiconductor/minisite/jp/portable/x5/

読み込み速度は約2.8GB/s、書き込み速度は約2.3GB/sに達するプロ仕様の外付けSSD。容量は500GB/1TB/2TBの3種類だ。

【Point】GPUの性能はどれくらい?

向上は見られるが…

新Macミニが搭載するGPUはCPU内蔵の「インテルUHDグラフィックス630」だ。一般的な使用には十分な性能を持っているが、他機種と比べるとどうだろうか。OpenGLのレンダリング速度を計測する「シネベンチR15」と、「ギークベンチ4」のOpenCLを使ってGPUの演算速度を計測してみた。

まずシネベンチについては、同じMacミニ間でCPUの違いによって5~20%前後の差が出た。これは、CPUのランクが上がるごとにGPUの最大動作クロックが5~20%ほど高められているためだ。一方、OpenCLではどうもテスト結果のばらつきが大きく、CPUの順列がバラバラな結果になった。全体としてクロック周波数に依存していると考えたほうがよさそうだ。

また、個別のGPU(ディスクリートGPU)を搭載しているMacとの比較では、両テストともかなりの劣勢となった。CPU内蔵のGPUではこのあたりが限界ということだろう。幸い、新モデルはサンダーボルト3接続のeGPUによる拡張ができる。eGPUを接続してみると、シネベンチのフレームレートは60%近くも向上した。

せっかくパワーアップしたMacミニだが、GPU性能においてはパワー不足は否めない。ビデオ編集などの分野ではeGPUが有効なので、積極的に活用するといいだろう。

GPUのベンチマーク(Cinebench R15/Geekbench 4)

新Mac miniは全体としてしっかりパワーアップしているが、ディスクリートGPU搭載のプロ向け機種と比べると差が大きい。eGPUを接続することで、ある程度までは補うことができた。

Blackmagic eGPU

【発売】Blackmagic Design

【価格】9万6984円

【URL】https://www.blackmagicdesign.com/jp/products/blackmagicegpu/

Radeon Pro 580(8GB VRAMを搭載)を採用したeGPU。Thunderbolt 3などの拡張ポートも充実し、ハブとしても使える。

【Point】複数台を同時に使えるって本当?

特定作業で効果的

新Macミニの発表イベントでは、複数のMacミニを重ねたり、サーバを収納するラックマウントに大量に格納された状態で使われている様子が映し出された。果たしてこのような使い方はできるのだろうか?

遺伝子解析など特定のソフトは、ネットワーク接続されたMac同士で1つのソフトを分散して実行する「クラスタリング」という技術に対応しており、巨大なデータを数に任せて力ずくで解析していくことができる。ソフトといっても大半は「ターミナル」から呼び出すコマンドライン式で、自分でコンパイルする必要があるなど、かなりハードルは高い。

クラスタリング自体はどのMacでも利用可能だが、ことMacミニで注目されたのは、省スペースで大量導入が考えられるからだ。実際、サーバを収納するマウントラックにMacミニを収納する製品も販売されているし、以前には160台ものMacミニを束ねたクラスタリングが作成された例もある。

ただし、本気でクラスタリングのメリットを享受するなら、最低でも数十台はマシンを束ねる必要があり、それぞれを接続するネットワークも高速化が必要。電源の確保や放熱対策も含め、個人で行うには厳しい条件だ。あくまで技術的には可能、という理解でいいだろう。

発表イベントではサーバラックいっぱいに詰め込まれたMac miniが紹介されたが、あくまで技術的に可能という話だ。

Mac miniをラックマウントに2台搭載するためのシャシーも販売されている。前面に電源スイッチがあるため操作しやすいメリットがある。写真はソネットテクノロジーの「RackMac mini」。

【Point】ほかのMacよりハイスペックなの?

プロマシンに比肩

ここまでのベンチマーク結果から、新Macミニの性能が十分高いことはおわかりいただけたと思うが、では現在のMacのラインナップの中では、はたしてどれくらいの位置づけにあるのだろうか。

まずCPU性能だが、コアi5モデル以上であればいずれもMacBookプロやiMac27インチモデル、Macプロなどに比肩する高性能を叩き出している。ディスク性能も、高速なPCIeベースのSSDを搭載したことで、読み込み/書き込み共に高い性能を実現した。この2つを重視する作業用であれば、新Macミニのコストパフォーマンスは非常に高いといえるだろう。

一方、GPU性能はさほど高いわけではない。現在、CPU内蔵GPUを使用しているのは13インチ以下のMacBookファミリーと、21・5インチのiMacの最下位モデル、そしてMacミニとなっている。

これらを勘案すると、MacミニはCPU内蔵GPU搭載機種の筆頭にあたる性能を持ち、4K以上のiMacやMacBookプロの15インチモデルと比べるとやや下回る、「中の上」といった位置づけになるだろう。

とはいえ、もともと入門機だったMacミニがここまでパワーアップされたというのは非常に興味深い。ハードウェア構成的にも最新技術が惜しみなく投入され、長く安心して使える、初心者から上級者にまで優しい機種として末長く愛されそうだ。

上位モデルに食い込む位置づけへ

CPUとGPUのバランスを考えると、Mac miniは一気にラインアップの中~上位に駆け上がってきた。コストパフォーマンスの非常に高いユニークな位置づけになったといえる。

デスクトップ型Macとのスペック比較

新Mac miniは現在販売中のMacの中ではCPU世代が新しいぶん、かなり上位にあたるスペックを搭載。GPUを除けばiMacとの逆転現象すら起きている。

ノート型Macとのスペック比較

新Mac miniはデスクトップ向けCPUを搭載してはいるが、アーキテクチャ的にはMacBook Pro 13インチモデルをベースにしていると予想される。