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MacBook Airの「逆襲」

MacBook Airの「逆襲」

MacBook Air

【場所】アップルジャパン

【価格】28GBモデル:13万4800円、256GBモデル:15万6800円(ともに税別)

常識を変えた製品

今回のMacBookエアのモデルチェンジは、筆者を含め多くの人たちの予想を良い意味で裏切る完成度に仕上がっている。その理由は筐体の刷新だけでなく、細部にまで詰め込まれたスペックなどを比較すると、ほかのMacBookファミリーよりも(後発だという利点を差し引いても)あまりにも魅力的な設計に仕上がっているからにほかならない。

そもそもMacBookエアは、もっともユーザに“期待されている”宿命を持つ製品でもある。かつてアップルのノートブックは、大きく分けて「持ち運べるスタジオ」のコンセプトを持つPowerBook(現MacBookプロ)シリーズと、「学生が好きな場所で使える」ことを主眼に置いたiBook(現MacBook)の2つのカテゴリが用意されていた。

どちらもポータブルでありながら、あくまで設計は「サブノートは作らない」という哲学のもと、オールインワンで使えることが前提。入出力のためのポート類を豊富に備えているのはもちろん、光学式ドライブも必須であることが求めらた。その結果、重量が2キロ、厚さも25ミリを下回ることができなかった。600ページ近い本と同じ厚みであることを考えると、万人にとって「持ち運びやすさ」を提供できているとは言い難い製品であった。

そこに転機を与えたのが、2008年に発表された初代MacBookエアだ。13インチのディスプレイとフルサイズのキーボードを備えながらも、その徹底したサイズダウンから厚みは20ミリを下回るという当時の最薄記録を叩き出した(基調講演でスティーブ・ジョブズ氏がパナマ封筒から製品を取り出してみせたデモを覚えている読者も少なくないだろう)。

一方でそれまでの常識も変わった。薄型の筐体ゆえに入出力ポート数も最低限になり、あらゆるものの接続はワイヤレスで行うことが前提となった。トラックパッドでマルチタッチジェスチャを利用することでマウスより高い利便性を提供したり、薄型の筐体でも高い剛性を持たせるために「ユニボディ」を採用したりと、現在のMacBookファミリーでは当たり前のように使われている技術や仕様も、この製品の誕生によって生み出されたものが多い。

また、重量も34パーセント以上削減されて1・36キロとなったこともあり、まさに誰もが待ち望んだ「ノートブック」だった。しかし、そこに投じられた技術コストの高さゆえにエントリーモデルで約23万円、上位モデルは約39万円という価格設定だったため、購入層も限られていた。だが、ほかのMacBookファミリーにはない魅力を持っていたため、確実のそのシェアを伸ばしていったのである。

価格も抑えた第二世代

そんなMacBookエアが次なる革新を起こしたのが、2010年だ。より薄くなりながらも剛性と拡張性が強化された第二世代の筐体に、すべてのモデルでストレージに(性能は高速ながら当時はまだ高価だった)フラッシュドライブ(SSD)を標準搭載。ディスプレイも13インチのほかに、さらに小型の11インチモデルが用意された。中でももっとも驚くべきなのは、エントリーモデルがMacBookと同額に設定されたことである。

持ち運びやすいサイズと美しいデザインを両立し、さらに手を出しやすい価格へ戦略的に設定されることによって、MacBookエアは「Mac」というカテゴリにとどまらず、「ノートブックの代名詞」と呼ばれるまでの市場シェアを獲得する存在にまで成長をする。新モデルが毎年リリースされながらも、8年もの間同じデザインで販売されたアップル製品というのは過去にも例がない。

栄光を再び

だが、ロングセラーであるがゆえに、MacBookエアは「進化の時間」を止めてしまっていた。2015年にはより軽く薄くなり、レティナディスプレイや冷却ファンのない静音機構といったMacBookエアにはない特徴を持った新世代のMacBookが登場した。さらに翌2016年にはMacBookプロが現行のデザインにアップデート。重量はMacBookエアとほぼ同じで、薄さはむしろMacBookエアのほうが2ミリほど厚い。

さらに価格面でも競合する相手がいる。そう、iPadだ。多くの人が必要とする用途を満たすことができるまでに成熟したタブレットは、MacBookエアも下回る価格から用意されている。大きなディスプレイや、キーボード接続、それにアップルペンシル対応といった特徴も後押しして、近年ではそのシェアが復調。再び成長が期待される市場としてアップルも意欲的に新製品を投入し続けている。

このような背景の中、機能・価格面ともにアドバンテージを失ってしまったここ数年、MacBookエアもマイナーチェンジを繰り返してはいたが、その存在感に過去の栄光や魅力を感じなくなってしまっていたのは事実のはず。主力製品群の構成や役目を考えても、むしろ販売そのものが終わってもなんら不思議ではなかった。

しかし、アップルの発想は逆だった。歴代でも「もっとも多くの人たちから愛され続けた製品」を、常にMacBookファミリーのテクノロジーを牽引し続けてきた存在として、第三世代へと進化させる。つまりこれはMacBookエアの「逆襲」にほかならないのだ。