iPadはMacより優れたコンピュータなのか?

今、“コンピュータ”とはいったい何のことを指すのだろうか？すぐに頭に浮かぶのは、私たちが慣れ親しんできたMacだ。では、iPhoneやiPadはいったい何なのか？スマートフォン？そしてタブレット…？いや、立派なコンピュータと呼んでも差し支えないはずだ。だって、Macと同じことがそれらのデバイスでもできるのだから。それほどまでに今のスマートフォンやタブレットは高性能化している。iPadなら、ノート型Macと画面サイズだって大して変わらない。では、いざ「新しいパソコンを買おう！」と思ったとき、それはMacなのか、それともiPadなのか？真剣に考えると、実はどちらにすべきか迷ってしまう。これまでどおりMacにするのが無難だろうか。使い方をちょっと見直せばiPadのほうがいいかもしれない。ペンシルとキーボードという武器を備えた新型iPadプロが登場した今、私たちは、自分が求める“コンピュータとは何か”を改めて考え直す時期を迎えている。この巻頭特集では、皆さんの今後の“アップル選び”の一助となるようITジャーナリストの松村太郎氏に論考を寄稿いただいた。

松村太郎

ジャーナリスト・著者。テクノロジーとライフスタイルの関係性を追求。コードアカデミー高等学校（【URL】 http://t.co/V7ZzJkDmUP）副校長。慶應義塾大学SFC研究所上席所員（訪問）、BBT大学講師。キャスタリア取締役研究責任者。

10月30日にニューヨーク・ブルックリンで開催されたスペシャルイベントで、アップルはおそらく2018年最後になるであろう新製品を発表した。iPadプロ、MacBookエア、そしてMacミニ。一見すると、これらのプロダクトは、ユーザの期待を反映するような年次更新のように見て取れる。

しかし、購入を真剣に検討し始めると、非常に大きな迷いが生じてくる。仕事道具として揃えるべきコンピュータを今回の3つの新製品から検討するとき、いったいどういった基準で選ぶべきなのか。ワークスタイルそのものを再検討する必要性も出てくる、とすら思うのだ。

今回アップルは明らかな「変化」を用意し、これをユーザに促そうとしている。その背景にあるのは、iPadの位置づけの変化だ。

10月30日のイベントに登壇したティム・クックCEO。オペラハウスを包み込む大きな喝采を受け、「ニューヨークへ引っ越そうかな」と口にしていた。

コンピュータ市場に参入したiPad

今回のイベントで印象的だったのが、iPadプロの紹介を始めたティム・クックCEOが示したグラフだ。iPadがタブレット市場におけるリーダーであることは広く知られているが、クック氏は、ポータブルPC市場においても、iPadの販売台数は他社を大きく上回る、とアピールしたのだ。

タブレット市場は年々減少が続いている。2014年に年間販売台数が2億3000万台に達してピークを迎え、その後2017年までに1億6500万台に減少、下降トレンドは今後も続いていくと見られる。iPadも2014年をピークに前年同期比割れの期間が3年続いた。2017年の低価格iPad以降、販売台数は持ち直したものの、アップルは今、「沈みゆくタブレット市場のトップ」というiPadの現状に甘んじるのではなく、「堅調なPC市場で競合する」ことを選択した。クック氏の発言は、そんな意思表示に映る。

ポータブルPCの市場規模は2011年の2億900万台をピークに減少しているが、その主たる原因はタブレットの台頭であり、タブレット市場よりも下落は緩やかだ。2017年はタブレット市場とほぼ同等、そして今後はタブレット市場のほうが急速に縮小すると見られている。簡単に言えば、現状タブレット市場にはiPad以外プレイヤーがほぼ存在せず、アップルが1社で市場を拡大し続けることは難しい。そのため、iPadのクラスチェンジは不可欠な判断だった。

iPadをノートPCと比較したグラフ。iPadは4420万台を販売し、HPやLenovoといった年間3000万台以上を売り上げる主要メーカーよりも多い点を指摘した。

MacとiPadは融合しない

ここで、2018年6月に開催された世界開発者会議「WWDC 2018」を振り返ろう。基調講演のスクリーンに巨大な「No」の文字が表示されたのは、クレイグ・フェデリギ氏（ソフトウェア担当シニアバイスプレジデント）が、「MacとiPadの融合はない」という考えを改めて述べたときだった。アップルは引き続き、MacとiPadを別々の製品ラインとして維持していく。

MacはmacOSが動作する純粋なコンピュータで、ノート型、デスクトップ型を揃え、ビジネスからクリエイティブプロまでのさまざまニーズを幅広いラインアップでカバーする、アップルの歴史の源流ともいうべき製品。ディスプレイやストレージ、グラフィックス、そして拡張性の高さと処理性能を追求できる自由度が魅力だ。しかし、タッチディスプレイは採用しない。

一方iPadは世界最強のモバイル製品であるiPhone同様のiOSを搭載し、OSからアプリ、そしてユーザ体験に至るまでをiPhoneと共有、2010年にタブレット市場を創出してから現在までトップに君臨し続ける製品だ。現在はiPadミニ4、iPad（第六世代）、3つのサイズのiPadプロという5つのシンプルなラインアップとなっており、教育からメディア視聴、ビジネス、クリエイティブまでをカバーする。

ディスプレイサイズをはじめとする形態の違いこそあるものの、この両者で「できること」は似通ってきている。MacとiPadには共通の標準アプリが多数用意されているし、サードパーティのアプリを使ってできることにも大差はない。唯一、アップル純正のアプリ開発ソフト「Xcode」だけがiPad向けには提供されておらず、Macの存在理由とも見て取れるが、一般コンシューマにとっては大きな差別化要因にはならないだろう。

WWDC 2018でクレイグ・フェデリギ氏はMacとiPadの融合はない、ときっぱり否定し、開発者たちを安堵させた。その背景には、Mac軽視の批判を避け、力を入れていく点をアピールする狙いも透ける。

MacとiPadの本質的な違い

では、両者の本質的な違いとは何か。まず価格に着目すると、1000ドルという分水嶺があぶり出される。iPadはストレージの構成にもよるが、1000ドル以下をカバーする。一方Macは、Macミニと旧世代のMacBookエアが1000ドルを切っている以外は、基本的に1000ドル以上のラインアップとなっている。

さらに、価格よりも大きな違いはプロセッサだ。Macは2006年以降ずっとインテルプロセッサであるのに対し、iPadは登場当初からアップル独自設計のARMベースのAシリーズチップを採用している。新型iPadプロには性能を強化した「X」モデルの「A12Xバイオニック（Bionic）」が使われており、CPUが2コア増えて8コアに、GPUも3コア増えて7コアになり、iPhone XSと同じように8コアのニューラルエンジンによる毎秒5兆回の機械学習処理を実現する。処理性能で言えば、現行の13インチMacBookプロのクアッドコア・インテルコアi5に匹敵するほどの力を持っているのだ。Macのほうが処理性能が高いという常識は、もはや過去のものになりつつある。

そして、自社設計のプロセッサを差別化要因にすることができるiPadのほうがアップルにとってははるかに特徴を出しやすい。A12シリーズはスマートフォン向けのプロセッサとして初めて7nm（ナノメートル：10億万分の1）という微細なプロセスで製造されている。

プロセッサの微細化は、一般的にモバイルデバイスにとって重要となる省電力性と性能向上に寄与する。アップルは自社製品を前提にプロセッサを設計できるため、チップ単体の採算性や小型化などをチップメーカーほど気にする必要がない。言い換えれば、アップルは新製品投入のタイミングに合わせて、競合優位性をプロセッサレベルで盛り込むことができるのだ。現状A12Xバイオニックは世界でもっとも贅沢なチップであり、もしこれを使いたいならばiPadプロを選ぶしかない、というわけだ。

アップルの歴史の中でもっとも古いMacの魅力は、そのラインアップの豊富さだ。近年の性能向上は、高度な処理をこなすだけでなく、製品を長く使い続けることができる性能も実現している。

iPadは4億台を販売してきたが、2014年をピークに3年ほどの低迷の期間が続いてきた。アプリの充実が停滞し需要喚起が難しくなったこと、これに関連しiPadの性能の陳腐化が遅かったことが原因。

トレンドを失ったアップル

一方、自社チップを搭載しないMacはコンピュータのトレンドから遠ざかっている。これまでコンピュータの革新を行ってきたのはMacだったのだが…。特に2008年にスティーブ・ジョブズ氏が基調講演の壇上で茶封筒から取り出すという演出を見せたMacBookエアは、ノートパソコンの姿をまったく別のものへと変えた。その超薄型の金属ボディは「ウルトラブック」などとも呼ばれ、その後ウィンドウズPCにも波及した。もしアップルが2005年にプロセッサをPowerPCからインテル製チップへと切り換えなければ、MacBookエアは生まれなかっただろう。

しかし、昨今のMacの足を引っ張っているのは残念なことに、そのインテルチップだ。2016年にアップルがMacの新製品をなかなかリリースしないことから「Mac軽視」が株主から指摘されたが、それはMacの発展に寄与するインテルチップが遅れていたことが主な原因だったと言える。

今回登場したMacBookエアの性能が中途半端なレベルにとどまっているのも、より高いレベルの省電力性とパフォーマンスを両立する10‌nmプロセスのインテルチップの遅れが背景にある。iPadプロの半分以下のマルチコア性能しか発揮しない新型MacBookエアなんて誰が期待していただろうか。

Macが停滞している間、マイクロソフトは「サーフェス（Surface）」シリーズを登場させ、「2│in│1」スタイルというタブレットとノートPCの両立を目指してきた。アップルがMacで頑なに拒んでいる領域を切り拓いていった格好だ。ディスプレイ部分とキーボードを取り外せる「デタッチャブル」や、巨大なタッチスクリーンを備えるクリエイティブ向けデスクトップも登場させた。

ただし、実際に使ってみるとタッチ対応は中途半端なレベルにとどまっており、ウィンドウズPCにはマウスとキーボードがやはり必要だ。ユーザビリティはiPadにはまったく届かず、MacとiPadを融合しないというアップルの言い分を代弁しているかのようだ。

ただ、ペンによる自由度が高まったサーフェスプロ（Surface Pro）は、ビジネス用途だけでなく、アドビとともにクリエイティブ分野にも幅を広げてきた。また、PCのハイエンドモデルでは、処理性能、グラフィックス性能を非常に高く要求するゲームPCのニーズに応えている。ビデオや3Dグラフィックスのクリエイターなどは性能が追求できないMacから移行し、若者たちは発言力あるユーチューバーが使っているゲームPCに憧れを抱く。

マイクロソフトによる新しいPCのデザインや、ゲームPCがセットした高いパフォーマンスという基準により、ウィンドウズPCが牽引する近年のコンピュータのトレンドが形成された。ここに、アップルはまったく関与できていない。クリエイティブ分野では、特にMacの失権が目立つようになっていた。

新製品群が示唆すること

しかし、ようやくアップルは今回の新型iPadプロと新型Macで巻き返しを狙っている。

先述のポータブルコンピュータ市場のグラフを見てほしい。iPadの100分の1にも満たない30万台の勢力ながら、マイクロソフトが掲載されているのが不思議ではないだろうか。競合相手として意識せざるを得ないこと、そしてiPadとの差を明らかにすることで彼らには影響力が少ないと主張しているかのようだ。また、もうこれ以上、2│in│1やデタッチャブルに続く新しいスタイルを、マイクロソフトに作られたくないという願いの裏返しにも見える。

ただし、アップルはiPadだけ、Macだけで新たなトレンドを作ろうとしているわけではなさそうだ。アップルが頑なにiPadとMacの融合を行わないのも、その双方を維持しながら新しいコンピュータがある生活をデザインし直そうとしていることの表れだ。PCから、他社スマホからアップルに入ってくる人に対して、自在な製品選択の幅を提供しながら門戸を広げている。そしてそれを実現するためには、まず「タブレットはPCより劣る」というヒエラルキーを打ち崩すところから始めなければならない。

今回のイベントで発表された新製品を簡単に表現すれば、こうなる。非力で価格が高止まりしたオールインワン薄型ノートのMacBookエア。ほとんどすべてのデスクトップを置き換えるほど強大な力を手に入れながら低価格で投入されたMacミニ。そして、新しいコンピュータとして定義された高性能タブレットのiPadプロ。

たしかに、MacBookエアはその超薄型デザインを維持しながら、レティナ（Retina）ディスプレイを搭載した。多くの人にとっては、1.6GHzの第8世代コアi5プロセッサで十分かもしれない。しかし、アップルが言う「iPadプロより遅い92％のコンピュータ」の中に、新型MacBookエアも現行MacBookも、タッチバー（Touch Bar）を搭載しないMacBookプロも含まれていることは紛れもない事実だ。

それでいて、パフォーマンスが3倍を軽く上回るiPadプロが、MacBookエアよりも400ドルも安い価格から販売されることも異例の措置だ。もちろん処理能力がすべてのコンピュータ体験を定義しないのは承知のうえだが、これまでの概念、すなわちタブレットはパソコンの補助的な存在というアイデアをアップル自身が完全に崩そうとしている。

iPadの本質的な変化が始まる

iPadプロでさらに特筆すべきなのは、ハードウェアとソフトウェアの両面でもMacを上回ろうとしているという点だ。

iPadプロは11インチモデルも12・9インチモデルも5.9ミリの薄い板に、リキッド・レティナ（Liquid Retina）ディスプレイによってフチまで敷き詰められた「オールスクリーン」のデザインを採用した。また、102個もの磁石によってぴったりと位置で固定できるスマートキーボード・フォリオ（Smart Keyboard Folio）はiPadの背面を保護しながら、机と膝の2ポジションで使える。そして、アップルペンシルは本体の決まった場所に磁石で固定され、自動的にワイヤレス充電を行う。このようなハードウェアエンジニアリングの充実は新型iPadプロだけの大きな見所と言える。

iPadのコンピュータ化は、USB│Cポートの搭載にも見て取れる。実際に試してみて驚かされたのは、MacBookプロ用に使っていたUSB│Cハブやこれにつながるディスプレイ、ACアダプタ、キーボードなどを、そのままiPadプロでも利用できる点だった。ストレージやマウスなどiOS非対応の周辺機器は動作しないものの、多くのアクセサリをMacと共有できるのだ。

アプリの共通化も控えている。アップルはiPadとMac向けのアプリを1つのコードからビルドすることができる仕組みを2019年から一般の開発者に提供する予定だ。つまり、アプリ開発者は少ない労力でiPadとMacに同じアプリを提供できるようになり、両者でできることはもっと近づく。これは結果的に、Macのクリエイティブアプリ、生産性向上のためのアプリがiPadにも流れ込んでくることも意味し、iPadがMacを巻き込む形で新しいコンピュータ像を作っていく、非常に重要なプロセスだと位置づけられるのだ。

iPad Proの性能について、92％のポータブルPCよりも高速に動作することをアピールした。それにもかかわらず価格を1000ドル以下に抑え、性能対価格の比率の面で大幅にPCに対して優位性を作った。

iPadのポートは、30pin Dock、Lightning、そして最新モデルではUSB-Cへと変更された。ハブを含むアクセサリは、ほぼMacと共通して利用できる点も、Macとの併用を後押ししてくれる。

守りのエアと攻めのミニ

そうしたiPadプロに対して消極的なアップデートに留まったのがMacBookエアだった。ノートブック型Macの半分ほどの売り上げを占めるとも言われる低価格の人気モデルは、性能が非常に控えめな1.6GHzのコアi5プロセッサしか選べず、しかも1199ドル（日本では13万円台）と高止まりする価格設定からはアグレッシブさは感じられない。

たしかにフラッシュストレージ化されたMacBookエアは非常に長持ちする。2011年に購入した手元のMacBookエアも、つい最近までテキスト編集やWEBブラウジングなどで現役のマシンとして活用できた。薄型デザインを採用していながら、内部も外部も壊れにくい。OSはアップデートするたびに動作が軽くなる。新型MacBookエアも、高校の3年間、大学の4年間はゆうに活用でき、買い換えるときに家族に譲ってもまだまだ現役で稼働し続けるマシンだ。そう考えれば、たしかにコストは割高とは言えないかもしれない。

ただ、より携行性を求めるなら1キロを切るMacBookがあり、より性能を求めるならクアッドコアのMacBookプロ13インチモデルがある。MacBookエアはおそらくもっとも売れるMacの座は維持したまま、多くの人に「ちょうど良い」Macになるのだろう。しかしその守備範囲は従来と比べて驚くほど狭くなった。そのため、かえってiPadプロの魅力が光るのだ。

一方、Macミニは大化けした。クアッドコア＆6コアのコンパクトなデスクトップマシンは、特に写真や音楽のクリエイティブ分野において、1000ドル以下で十分通用するモンスターマシンへと化した。アップルはスペシャルイベントのハンズオン会場で、写真やビデオプロダクション、3Dゲーム制作、そして音楽制作の風景を、Macミニのみで構成するデモを展開していた。特に印象的だったのは音楽制作環境で、キーボードと音源を主体としたセットに置かれたMacミニの位置には、これまでMacプロが置かれていたという。ロジック・プロ（Logic Pro）の180を超えるトラックを扱うプロジェクトでもプロセッサはびくともせず、実用上、無視できる程度の負荷にとどまるとの結論に至ったそうだ。

コンピュータ選びがこれから変わる

総じて今回の新製品は、多くの人たちの「コンピュータがある仕事の風景」を変革するかもしれない。たとえば筆者は、普段MacBookプロをメインマシンにし、写真編集やビデオ編集、そしてテキスト執筆とレイアウトなどを行ってきた。基本的にはこれ1台ですべての仕事が完結する、という体制を整えていた。そのため、標準モデルよりコストは大幅にかかるが、プロセッサは最上位のものにし、ストレージも1TBを選んでいた。だがこれからは、たとえば非常に強力な新型Macミニと新型iPadプロを組み合わせてもMacBookプロの上位モデルより安価に抑えられる。

そして、さまざまなメリットも得られるだろう。Macミニ用に揃えたディスプレイは、USB│Cで接続すればそのままiPadプロで利用でき、より広い画面でのプレビューなどを行いながらの作業が可能になる。またこれまでMacBookプロでは実現できなかったペンによる描画や操作も、アップルペンシルによって可能になり、グラフィックスに関連する作業は大幅にスピードアップする。外に持ち出すのは必然的にiPadプロになるが、MacBookプロに比べて半分以下の軽量化となり、しかもパフォーマンスは犠牲にならない。

アドビはすでにライトルームCC（Lightroom CC）とプレミア・ラッシュCC（Premiere Rush CC）をiPad向けに提供しており、クラウドで同期するクリエイティブ作業を外出先の移動中から始めることすらできる。そして2019年にはフォトショップCCのiPad版の正式リリースが控えている。

原稿執筆も、MacにもiPadにも用意されアイクラウドでデータを同期してくれるテキストエディタ「ユリシーズ（Ulysses）」を利用すれば、MacとiPadで環境が違っていても問題ない。このように、MacとiPadのいいとこ取りによってコストを大幅に低減できる組み合わせを実現するためのアプリやクラウドの環境はすでに揃っているのだ。

アップルはMacとiPadをOSレベルで深く連係させる環境をこれまで入念に整えてきた。それを踏まえて、満を持して、今回の2018年モデルのiPadプロとMacミニの登場の瞬間を演出したようにも思えてくる。

筆者はMacBookプロ以外の選択肢をこれまで考えたことがなく、今後も選び続けるのだろうとばかり思っていた。しかし、今回の新製品によって、ワークフローやパフォーマンスを向上させる、まったく新しい、仕事に最適な環境へと変化させたいと考えるようになった。

これまでどおりシンプルなMacBookエアで十分という人もいれば、スマートフォン世代にとってはiPhoneの延長でより高度なプロジェクトに取り組めるiPadプロに魅力を感じる人もいるだろう。ファイル操作やMacのブラウザが必要であることからMacBookエアを手元に置きつつ、作業の大半をより高速なiPadプロでこなす、という逆転現象も起きるかもしれない。筆者の場合、手元のMacBookプロを長く使いながら、新しいiPadプロばかり使うようになりそうだ。

MacかiPadかという二者択一ではなく、相対的にiPadの地位が向上したことで、我々はMacとiPadを適材適所で選択できるようになったとも言える。こうした新しいコンピュータ観を開花させるアップルの戦略を頭の片隅に置きながら、自身に最適なコンピュータをこれから選んでいってほしい。