ドローン空撮の最大の悩みは、「飛ばしながら構図を決めなければならない」ことではないでしょうか。DJIの「Avata 360」は、その常識をひっくり返す製品です。一度の飛行で周囲360度すべてを記録し、構図やカメラワークは撮影後に自由に決められる。その革新性を実機で確かめました。
空撮のベテランメーカーDJIが、空撮の常識を変えにきた
DJIといえば、ドローン市場で圧倒的なシェアを誇る定番メーカーです。筆者も、以前所属していたデザイン会社でDJI製のドローンを使っていました。
そのDJIが、空撮の根本的な発想を変える新製品を投入してきました。それが機体に2基のカメラを内蔵し、飛行中に周囲360度すべてを同時撮影する「Avata 360」です。注目すべきポイントは、飛行後に構図を決められること。「撮り逃し」という概念がなくなる、ともいえる画期的な製品です。
3月26日に発表されたばかりの製品で、発売開始は4月9日から。今回、発売に先駆けて試用する機会を得たので、業務活用の観点からレポートしましょう。

Avata 360はA4用紙より小さく、持ち運びも簡単!
Avata 360を手にして最初に感じたのは、そのコンパクトさです。機体の長辺は246mmで、A4用紙にすっぽり収まるサイズ感。筆者がかつて業務で使用していたDJI Mavic 2 Proは飛行形態の長辺はプロペラ除くと322mm。比べるとずいぶん小ぶりな印象を受けます。
また、重量は455gと、500mlのペットボトルより軽量。筆者の身近なアイテムでいえば、11インチiPad Pro(444g)とほぼ同等です。この持ち運びのしやすさは、業務での現場利用を考えると大きな利点になるでしょう。

初心者でも安心して飛ばせる操作性と安全設計
セットアップを済ませ、テスト飛行を行いました。基本的な飛行操作はDJIのほかの機種と共通しており、初回起動時には簡単なチュートリアルも用意されています。ドローン未経験の方でもスムースに始められるでしょう。
安全面も抜かりありません。前方向きのLiDARと機体底部の赤外線センサによって衝突の危険を低減します。実際の操作では、障害物が近づくとRCコントローラから警告音が鳴り、さらに接触しそうな操作をしても、その方向に機体が動かないような制御が働きました。また、Avata 360はプロペラガードが一体になったボディデザインのため、万が一の接触時でもプロペラが損傷するリスクが少なくなっています。プロペラ交換の手間を心配せずに飛ばせるのは、実務上ありがたいポイントです。



Avata 360の最大の特徴は、360度撮影に対応していることです。機体には2基のカメラを内蔵し、ともに1/1.1インチ・64MPの高解像度CMOSセンサを採用。互いに協調して全天球映像を記録します。つまり、普通に飛行しているだけで前方・後方・側面・上下、すべての方向が同時に撮影されるわけです。

飛行中の操作感は、通常のカメラを搭載したドローンと特に変わりはありません。RCコントローラの液晶には、ドローン前方の映像が表示されます。高い解像度とリアルタイム性のおかげで、直感的に操作できる点が特徴です。
撮影機能として特筆したいのが、「ActiveTrack 360」という機能。これは、指定した被写体を自動で追従し、フレームアウトを防いでくれます。
複数のモードを備えており、標準モードでは被写体との距離を一定に保ちながら追従します。また、「POI(Point of Interest)」モードでは、被写体の周囲をぐるりと回り込みながら撮影することが可能です。
ActiveTrack 360は、最近リリースされたほかのDJI製ドローンでも搭載されていますが、私自身は初体験。被写体がフレームアウトしてしまうという失敗が起きにくい、とても実用的な機能だと感じました。


「あとからカメラワークをつくる」というAvata 360の新体験
撮影した映像は、RCコントローラの液晶やiPhone用の専用アプリ「DJI Fly」で再生できます。このとき、画面を指でなぞると、視点をグリグリと自由自在に変えることが可能です。地上を見下ろしたり、飛行中には気づかなかった角度から景色を眺めたり、従来の空撮とは異なる体験が得られるのです。しかも、どの方向に視点を動かしてもドローン本体が映り込むことはありません。

さらに、Mac/PC用の編集アプリ「DJI Studio」で撮影データを開くと、映像表現の可能性が一気に広がります。画角の調整やズーム操作はもちろん、高速スピンやドラマチックな回転といったアクロバティックなカメラワークが「カメラワーク」プリセットとして豊富に用意されており、ワンクリックで適用できます。



実際に撮影して、DJI Studioで編集した動画がこちらです。
筆者はかつて住宅メーカーのイメージ映像制作でドローンを活用していましたが、被写体が建物のような静止物の場合、どうしても映像のバリエーションは限られてしまいます。しかし、360度撮影と「DJI Studio」を組み合わせれば、一度の飛行から複数の異なるカメラワークを持つ映像を生み出せます。撮り直しの手間を大幅に削減できるうえ、表現の幅も格段に広がるのはうれしいポイントでしょう。
操作もわかりやすいため、はじめて触れた方でも360度映像の魅力をすぐに引き出せるはずです。
ゴーグルとモーションコントローラで「空を飛ぶ」体験
本機には、ゴーグルとモーションコントローラをセットにした「DJI Avata 360 Motion Fly Moreコンボ」も用意されています。今回はこちらも試用しました。
ゴーグルを装着して片手用のモーションコントローラで操作する形式は、従来のスティック型コントローラとは操作感がまったく異なります。最初は戸惑いを感じましたが、数分で感覚を掴めました。ゴーグルの映像は非常にクリアで、首を左右に回すと視界もそれに連動して変化します。まさに自分が空を飛んでいるような感覚です。


このゴーグル飛行は、映像撮影用途にとどまりません。高所での建物点検や工事現場の状況確認など、「人が目視できない場所を確認する」業務シーンでも高い実用性を発揮すると感じました。

Avata 360は買いか否か、判断基準
本製品は革新的な製品ですが、用途によっては留意すべき点もあります。
バッテリ1本あたりの最大飛行時間は約23分。同社のほかのドローンと比べても少々短めです。
バッテリ容量はボディサイズとトレードオフの部分があり、このコンパクトさであれば致し方なし、でしょう。業務で使うのなら、スペアバッテリを最初から買い足しておくのがおすすめです。


もう1点気になった点がプロペラの駆動音です。前に使っていた同社のドローンに比べても、少し音が大きい印象でした。騒音の少ない田舎だと、周囲から「なんかやっているな」と思われるレベルだと思います。静音性が求められる用途では、より小型・軽量な製品が向いているかもしれません。
これは、製品のマイナス評価ではなく、用途の向き・不向きの話に過ぎません。個人的にAvata 360はドローンのほとんどのニーズをカバーする、魅力的な選択肢だと感じました。
価格は、Avata 360単体で7万7330円、Fly Moreコンボで16万3778円。DJIの高級機が本体のみで20万円を超えることを考えると、非常に手に入れやすい価格です。
360度撮影という唯一無二の機能を持ちながら、価格も魅力的というこの製品。仕事でドローン映像を制作している方、これから導入を検討している方にとって、第一に候補として挙げるべきものといえるでしょう。

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著者プロフィール
小平淳一
Apple製品を愛するフリーランスの編集者&ジャーナリスト。主な仕事に「Mac Fan」「Web Desinging」「集英社オンライン」「PC Watch」の執筆と編集、企業販促物のコピーライティングなど。ときどき絵描きも。Webの制作・運用も担う。








