Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日:

BeatsとAirPodsは「補完関係」。大谷翔平とのコラボの裏側は? Apple幹部オリバー・シュッサー氏に聞いたBeatsの現在地と未来

著者: 松村太郎

BeatsとAirPodsは「補完関係」。大谷翔平とのコラボの裏側は? Apple幹部オリバー・シュッサー氏に聞いたBeatsの現在地と未来

画像●Beats

Appleにとって、2010年代最大の買収にして最大の成果を挙げたのが、2014年のBeatsの買収である。

かつて、Appleは音楽のデジタル流通を実現し救世主となった。しかし2008年にSpotifyが登場し(日本でのサービススタートは2016年)、音楽ストリーミングサービスの人気が若い世代へ拡大していったことにより一転。旧態依然とした音楽の発展を妨げる存在と見られるようになっていた。

そんな中Appleは、Beatsの買収から1年後、2015年に「Apple Music」をローンチ。Apple Musicは世界中で急成長を遂げ、空間オーディオやハイレゾなど、豊かな音楽体験を届けるブランドに返り咲いた。日本でも、音楽ストリーミングサービスのトップシェアを盤石なものとしている。

そんなBeatsの買収でAppleが得た果実は、もう一つあった。それが、オーディオ製品だ。特徴的な低音が効いた味付けと、カラフルでデザイン性の高いパーソナルなオーディオ製品は、世界中のスポーツ選手やアーティストとコラボし続け、音楽とファッションの高い次元での融合を実現している。

そんなAppleファミリーのBeatsの現在地について、Apple Music、Sports、Beats担当バイスプレジデント、オリバー・シュッサー氏に話を聞いた。

Apple Music、Sports、Beats担当バイスプレジデント、オリバー・シュッサー氏。画像●Beats

起点にあるのは「アーティスト・ファースト」。Beatsブランドの“判断基準”

初対面の挨拶を交わすと、シュッサー氏は丁寧に頭を下げた。それでいて、少し興奮気味の様子でもあった。その理由は、シュッサー氏が来日後、日本のさまざまなエンターテインメントに肌で触れていたからかもしれない。

そんなシュッサー氏に、Beatsブランドが日本でも支持されている理由について聞くと、彼は自らの原点を明かしながら、ブランドの重要な「判断基準」について語ってくれた。

「Beatsはキャラクターのある音を特徴とするブランドであり、その原点にはアーティスト・ファーストという考え方があります。私たちが何かを決めるときに重視するのは、アーティストにとってどうか?という点です」

音楽の施策も、プロダクトの細部も、「どうすればアーティストの作品が最高の形になるか」を起点に据える。それは、クオリティを追求してきたAppleの考え方と共通するものだ。

徹底したアーティスト・ファーストが高品質なプロダクト開発につながり、AppleとBeatsを一本の物語に束ねていく。出発点はいつも“作り手”にある。これはiTunes、Apple Music、Apple TVのいずれにおいても、シュッサー氏の基本的な考え方だ。

そうした姿勢と精神が日本市場での支持につながっている、とシュッサー氏は言う。




いわば未来のショーケース。シュッサー氏が語った日本の魅力

多くの国を巡り、多くの音楽に触れてきたシュッサー氏が、日本を語るときの熱量はひときわ高い。

「日本は世界でもっともクリエイティブで、もっともイノベーティブな場所のひとつだと思っています。漫画やアニメは世界中で人気を博していますし、VTuberのようなトレンドも日本から生まれたものです。しかも、それは偶然の連鎖ではありません。日本に来ることは、私にとって未来の片鱗を見に行く感覚なのです」

続いてシュッサー氏は、「品質へのこだわりと、卓越を追求する姿勢が大好きです」と話す。

「日本には、ディテールへの執着があり、小さなことでも完璧が追求されています。これほどまでのこだわりは日本以外で体験したことがありません。私たちは長い間、アーティストやデザイナーの皆さんと一緒に歴史をつくってきましたが、こういった“日本のこだわり”は、BeatsやAppleの製品開発にも活きると感じています。そのため、私たちが日本で新たな取り組みをすることは、Beatsの未来を作ることにつながるのです」

音が鳴る前の体験から作り込む。Beatsがプレミアムたる所以

2020年、シュッサー氏はBeatsを率いる立場となった。最初の取り組みは、派手なキャンペーンではなく、プロダクトが手に渡る瞬間の“手触り”を整えることだった、と振り返る。

「Beatsはプレミアムプロダクトです。そうである以上、市場で最高のプロダクトを作り続けなくてはなりません。パッケージ、デザイン、素材、イヤチップ…そして開封体験まで、すべてが大切なのです」

Beats製品のプレミアムなラインアップ。画像●Beats

パッケージを開けるときの角度、ケースの収まり、操作時に指先に返る抵抗。シュッサー氏は、ユーザからの信頼は、イヤフォンから音が鳴る前に生まれると言う。

また、現在はSNS戦略にも力を注いでいる。20年続くプレミアムプロダクトであるBeatsが、現代の若者世代にとっても本当に魅力あるものであるために、多くの投資を行っているわけだ。

シュッサー氏が繰り返したのは、「本質的」であり続けるということ。流行に寄せるのではなく、音と品質で裏打ちされたかっこよさを、日々の発信で証明していく。若い世代のSNSのタイムラインに表示されたクリエイティブが、次の十年の入口になるからだ。




Beatsはユーザに“ベスト”を届ける。価格もスタイルも豊富なラインアップの理由

Beatsがプレミアムでありながら、若い世代にも普段使いされるのはなぜか。シュッサー氏は「若者たちだってプレミアムなプロダクトが好きですから」と言い、“プレミアム”であるためにブランドがフォーカスしていることを語った。

「Beatsのユーザは、本当に長い時間、製品を使ってくれています。通学にも、仕事にも、そしてジムにも連れて行く。だから、汗に耐え、走っても外れず、集中を途切れさせないことが求められます。私たちはこうしたユーザの“ベスト”を提供するのです」

だからこそBeatsは、FlexやSolo Budsのような低価格帯からPowerbeats Pro 2やStudio Proのような高価格帯まで価格のレンジが広く、インイヤ、オーバーイヤとスタイルもさまざまなラインアップを用意している。

2024年6月にリリースされたSolo Budsは、ブランド内では低価格帯に位置する。画像●Beats
2025年2月にリリースされた、高価格帯のワイヤレスイヤフォンPowerbeats Pro 2。画像●Beats

シュッサー氏はおもむろにPowerbeats Pro 2を手に取り、製品開発について語った。

「私たちは、プロダクトの品質に取り憑かれています。たとえばPowerbeatsシリーズのウィングチップが完成するまで、ユーザからのフィードバックをもとに、長さ、厚み、柔軟性、可動性を改善するためのテストを繰り返しました。ケースのサイズや開き方もそうですね。その結果、現在のモデルは前世代から大きくアップグレードされ、サイズも小さくなりました。これは非常にうれしいことです。つまり…製品を作り上げることは、私たちにとって最大の喜びなのです」

Powerbeats Pro 2を手に取るオリバー氏。画像●Beats

大谷翔平もレブロンも、メッシも。Beatsとの関係はスポンサーではなく協業者

Beatsが世界中で愛されるブランドとなった理由の1つに、多彩なコラボレーションがある。特に一流アスリートとの関係性は深い。

NBA ロサンゼルス・レイカーズのレブロン・ジェームズとは長く関係が続いており、近年はMLS インテル・マイアミCFのリオネル・メッシ、そしてMLB ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平とも歩みを重ねてきた。

シュッサー氏曰く、これらの取り組みは一般的なキャンペーンや広告とは異なるという。そして、それこそがアスリートと長期にわたる関係性を構築できている理由らしい。

「多くのコラボレーションは、私たちからの依頼ではなく、Beatsを愛用するアスリート側からのアプローチで始まっています。つまり、アスリートがコラボをきっかけとしてBeatsを知るのではなく、Beats製品を使っているからこそコラボに発展するのです」

たとえば大谷選手の場合、「自分の好きな色のBeatsヘッドフォンを作り、同僚(ドジャースの選手たち)に配りたい」という話が持ちかけられたという。

2026年1月には、大谷翔平選手とBeats製品の新たなコラボビジュアルが発表された。画像●Beats

「Beatsは、NBA、NFL、カレッジフットボール、サッカー、ホッケーなど、さまざまな競技のアスリートと協業してきました。ただいずれの場合も、Beatsはそのアスリートとスポンサー関係というより、Beatsのプロダクトを愛してくれているからこそ生まれる関係にあります。それがBeatsのオーセンティシティの一部です」

金銭ではなく、ブランドへの愛からコラボが始まり、そのコラボがさらなるユーザを生み出す。Beatsがトップブランドとして走り続ける理由が際立つエピソードだ。




AppleとBeatsの違いとは? どちらも複数ある“最適解”のひとつ

BeatsがAppleファミリーとなって約12年。シュッサー氏は、AirPodsシリーズとBeatsの共通点を隠さず説明した。

「BeatsとAppleは、同じ技術、同じエンジニアリング、同じクオリティ基準を共有しています」

そのうえで、違いについても語ってくれた。

「BeatsのビジネスはAppleとは異なります。たとえばBeatsはカラー展開が大好きで、すべてのモデルで複数カラーが用意され、アップデートの際にカラーの入れ替え、カラーのイノベーションも試みてきました。また、マーケティングはより挑発的で革新的です。Beatsがスポーツやワークアウト、アスリートにフォーカスする一方、AppleのAirPodsシリーズが狙う市場は人々の生活全体と、もっと広いところにあります。この2つのビジネスは、完全に補完関係にあるのです」

シュッサー氏は「補完関係」という言葉を強調した。事実、AirPodsシリーズとBeats製品を両方所有し、利用シーンや目的に応じて使い分けているユーザも多いという。カラーが豊富なBeats製品だからこそ、ファッションに合わせた自己表現として身につけられることも多いそうだ。

また、プラットフォームの開き方もBeatsの特徴だろう。iOSはもちろんAndroidにも最適化されており、スムースな使用感を提供してくれる。また、よく知られるところではあるが、低音の効いた強いサウンドのキャラクターもユニークだ。

「用途が違えば、最適解も違います。AirPods、そしてBeats、ユーザには選択肢がある。それが素晴らしいことだと考えています」

過去には藤原ヒロシや大坂なおみともコラボ。今後の展開にも期待大

シュッサー氏へのインタビューは、都内にあるApple Musicのスタジオで行われた。同氏を含むエンターテインメントのチームにとって、スタジオはまさに仕事場だ。世界各地にスタジオが作られるのは、オフィス拠点を用意するのと同様に自然なことでもある。

その日本で、これからBeatsはどんなことをしようとしているのか。

「これまでも藤原ヒロシ氏が手掛けるfragment designや、大谷翔平選手、大坂なおみ選手とのコラボレーションをしてきました。ほかにもいろいろなアイデアを持っていますが、今発表できることはありません。ただ言えるのは、ジャンルは問わず、必ずしもスーパースターである必要はないということです。私たちは、新しいトレンドに貪欲であり、いつも興味を持っています」

ここ数年、BeatsはiPhoneケースやケーブルもリリースしており、ライフスタイル領域へとブランドの価値を拡張してきた。そして、そのいずれも、“特に日本では”非常に人気だとシュッサー氏は語る。

「ブランドやプロダクトの未来については話せない」。Apple幹部のインタビューではお決まりのセリフもあったが、今後のコラボレーションや新領域への拡大も楽しみにしていて良さそうだ。




Appleとともに進化する、音楽とクリエイションのブランドBeats

シュッサー氏は、音楽に関わる仕事が心から好きだと話す。

「先日開催されたスーパーボウルのハーフタイムショー、バッド・バニーもすばらしいパフォーマンスでした。世界規模の音楽イベントに取り組めることは、私の仕事の特権だと思います」

また、Apple Musicが日本でナンバーワンの音楽ストリーミングサービスであること、そしてアーティストの多くがGarageBandやLogic Proで音楽制作をしている喜びについても触れた。

「それだけではありません。Appleデバイスの『ボイスメモ』がフレーズの記録やデモ音源の収録に使われたり、『メモ』がアイデアの共有に使われたり、といった話も聞きます。そうして音楽と関われることは、信じられないほど幸運です」

Appleの買収により、Beatsとクリエイションツールの距離は近くなった。加えてテクノロジーやハードウェア実装の充実も含めて、Beatsブランドは大幅に強化されたと言えるだろう。シュッサー氏のワクワク以上に、我々ユーザのBeatsへの期待感は大きい。

マイナビ出版
¥1,480 (2026/03/09 18:35時点 | Amazon調べ)
\楽天ポイント4倍セール!/
楽天市場
編集:Mac Fan編集部
¥1,161 (2026/03/09 18:35時点 | Amazon調べ)
\楽天ポイント4倍セール!/
楽天市場

おすすめの記事

著者プロフィール

松村太郎

松村太郎

ジャーナリスト・著者。1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒業後、フリーランス・ジャーナリストとして活動を開始。モバイルを中心に個人のためのメディアとライフ・ワークスタイルの関係性を追究。2020年より情報経営イノベーション専門職大学にて教鞭をとる。

この著者の記事一覧

×
×