健気な子犬に感情移入
今でこそ「育てゲー」は、ゲームの1ジャンルとして確立しているが、この「Puppy Love」が発表された1986年にはまだ珍しい存在で、まさにこの分野の先駆的アプリだった。
物語は、ジャンクヤードに捨てられている黒い子犬が、ドッグショーの告知を見てため息をつき、「自分もショーに出られたら…」とつぶやくところから始まる。ユーザの役目は、この健気な子犬を連れて帰ってさまざまな芸を仕込み、ドッグショーに出場させてトロフィーを勝ち取ることにある。
発売当初のパッケージは、犬小屋の形をしており、前面に四角く開けられた窓から、フロッピーディスクのラベルに印刷された子犬が見えるという趣向であった。このように凝ったパッケージデザインは、アプリが物理的に販売されていた時代ならではの楽しみの1つであり、オンラインレビューなどない中で、使ってみなければわからない製品を買ってもらうための工夫のしどころにもなっていた。
アメリカでの価格は29.98ドルだったが、その頃のMacアプリは、秋葉原あたりの専門店が独自ルートで輸入販売することが普通で、おそらく4〜5千円ほどはしたような記憶がある。
開発元はTom Snyder Productionというソフトハウスだったが、販売はAddison-Wesleyという有名な教科書出版社と共同で行われ、そういうところにも当時のソフトウェアをめぐるビジネス界の動きが見て取れる。
一番の親友になれるソフト、「Puppy Love」
パッケージの屋根の部分には「The software program that’s going to be your best friend.(一番の親友になれるソフト)」と書かれていて、開発者の自信のほどが伺えた。
引き取ったばかりの子犬は、まだ何の芸もできないが、特別な動作をしたときにスペースキーを押してその動作に名前をつけると、次回からコマンドとして使うことができ、同じ動作をさせることが可能になる。この学習システムを利用していろいろなトリックを教え、子犬が特定の動作を成功させたら褒美の骨を与えることで、逆立ちやダンスなどの高度なトリックを次第に身につけていけるという仕組みだ。
ドッグショーでは、いくつかのトリックを組み合わせ、連続して成功させる必要があり、3人のジャッジの判定によって得点が決まる。うまくいかなければ家に戻ってトレーニングを繰り返し、より高い得点を目指す。
Puppy LoveはCommodoreより発売されたパーソナルコンピュータ「Amiga」にも移植された際にカラー化され、動きもより滑らかになったが、今もモノクロでシンプルなMac版こそが、僕の心の中のPuppy Loveなのである。
※この記事は『Mac Fan』2025年1月号に掲載されたものです。
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著者プロフィール
大谷和利
1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、神保町AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。








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