finalは日本のオーディオブランド。今回は、そんな finalがリリースするワイヤレスイヤフォンのフラッグシップ「TONALITE」をレビューする。
TONALITEの最大の特徴は、「身体形状をスキャンして音色をユーザに合わせて最適化する」という画期的な機能を世界ではじめて搭載したことだ。
ユーザの身体形状に合わせた、“自然な音”を楽しむイヤフォンとは?
私たちは普段、頭や肩といった上半身の形状によって変化が加わった音を知覚している。
しかし、一般的なイヤフォンは耳の中に挿入して音を届ける構造のため、耳道から鼓膜へ直接音が届く。その結果、普段聴いている“変化が加わった音”とは異なる感覚を得ていることになる。
finalの「TONALITE」は、そうしたイヤフォンのサウンドを否定するのではなく、ユーザの身体形状も考慮して最適化することで、より”自然な音”の提供を目指している。
身体形状を考慮したイヤフォンの“個人最適化”は容易ではない。finalは、2022年12月、TONALITEに先駆け、左右独立型ワイヤレスイヤフォンのフラグシップモデル「ZE8000」を発売した。そして2023年末から、ZE8000のユーザに向けて「自分ダミーヘッド」という有償サービスを開始した。
以前は音を最適化するのに「自分ダミーヘッド」を実施していた
自分ダミーヘッドは、かなりこだわりの詰まった内容だ。finalの川崎市のラボにユーザが2回訪れ、スタッフの説明を受けながら精密測定を実施。エンジニアが約1週間かけて個人最適化を行っていく。
料金は5万5000円で提供されるうえ、抽選制ということからハードルは高い。しかし、元からハイクオリティなサウンドを誇るZE8000が、さらに一皮剥けたように感じられるほどの新鮮さを得られる。

finalはこの体験に近いクオリティを、より多くのユーザに届ける方法を探り続け、ついにたどり着いた独自技術が「DTAS(Digital Twin Audio Simulation)」だ。これがTONALITEに搭載されている。
音の最適化をもっと気軽に行える「DTAS」が登場!
DTASでは、スマートフォンのカメラでユーザの身体形状を撮影し、そのデータからクラウド上に「アコースティックアバター」と呼ばれる独自の3Dモデルを生成。これをバーチャル音空間に配置し、外耳や頭、胴体によって生じる音の反射・回折をシミュレーションする。
さらに、final独自の「聴覚モデル」を組み合わせることで、イヤフォン特有の不自然さを解消し、実際の環境で音を聴いている時の自然なリスニング感に近づける。

このDTASで最適化されたサウンドを最大限に引き出すため、TONALITEには高音質ドライバ「f-CORE for DTAS」が採用されている。
歪みのないクリアなサウンドを実現するドライバ「f-CORE for DTAS」とは?
「f-CORE for DTAS」の特徴は、振動板とエッジを一体化し、ボイスコイルのリード線を振動板から浮かせる「空中配線」を採用したこと。それにより、歪みのないクリアなサウンドを実現している。
さらに、アクティブノイズキャンセリング(ANC)も搭載。ノイズのセンシングを高精度に行う「トリプルハイブリッド方式(イヤフォンの外側にフィードフォワードマイクを2基、ノズルの内側にフィードバックマイクを1基載せる方式のこと)」のマイク構成と、final独自のイヤピースの遮音性能により、上質な静寂を味わいながらサウンドに没入できる。
iPhoneで身体をスキャンして、イヤフォンを“自己最適化”する!
DTASの設定は専用アプリ「TONALITE」から行う。今回筆者はiPhone Airでセットアップを試した。TONALITEに付属するヘアバンドとARマーカを使って、ユーザの身体形状をiPhoneのフロントカメラでスキャンしていく。

所要時間は30〜40分ほど。正しい計測データを得るために、静かで明るい環境が必要だ。TONALITEはDTASなしでも充分に高品質なので、焦ってセットアップする必要はない。
しかも、スキャンは人の手を借りずにひとりで行える。また、かつてエンジニアと一緒に行った「自分ダミーヘッド」の測定に比べれば、DTASはより気軽であり、無料なのもありがたい。

設定が完了すると、「General(DTASなし)」と、「Personalized(DTASあり)」が選べるようになる。Personalizedでは、音色係数も3パターンから選択可能だ。

“圧倒的に自然”なサウンドは、まるで生演奏を聴いているよう
DTASを適用したTONALITEのサウンドは、まさしく“圧倒的に自然”だ。特に人の声、アコースティック楽器の温かい音色、余韻の滑らかさに魅了された。
録音音源であるのに、ボーカルや演奏者が奏でるサウンドに実体感が見えてくる。言い替えれば、生演奏に対峙しているような熱量が伝わってくるのだ。
聞き慣れた楽曲をiPhoneで繰り返し再生してみると、これまで気付かなかったボーカルの抑揚、弦楽器の弦が小刻みにふるえる情景が浮かび上がってくる。

アプリでDTASのオン/オフを手軽に比較できるのも面白い。繰り返しになるが、DTASをオフにした“素”の状態でも高品質だが、その先にfinalが描く“リアリティ”に触れられることにこそ、DTASの価値がある。
「音色」を軸に自然な没入感を高めるアプローチが心地よい
昨今は空間オーディオのように、“音の空間印象”を高めて没入体験を探求する技術が注目されている。イマーシブオーディオや3Dオーディオとも呼ばれるそれを楽しむには、立体音響技術を駆使したツールによって制作されたコンテンツが必要だ。
finalの場合、より一般的な2チャンネルの制作環境から生まれた、ステレオ音源の魅力を最大化する方向からアプローチしている。これは、空間オーディオのような「サウンドが360度立体的に聴こえる」体験ではなく、「音色」を軸に自然な没入感を高める方法だ。
空間オーディオと比べると、finalのアプローチは若干感覚的なものではある。だが、体験すれば、その方向性の違いと価値がシンプルに伝わるだろう。
“強さ”ばかりを誇示しない消音効果が心地よい
TONALITEの魅力はこれだけではない。
まず、TONALITEはノイズキャンセリングひとつとっても絶妙な調整が心地よい。多くのノイキャン搭載イヤフォンが消音効果の“強さ”を前面に打ち出している。一方、TONALITEは音質を優先することを目的とした、独自の消音モードを用意している。
アプリで「音質優先モード」を選択すると、楽曲の質感を損なうことなく静けさが増す。ちなみに、DTASを有効にするとノイズキャンセリングのモードが自動的に音質優先になる。
一方、「ANC(アクティブノイズキャンセリング)優先」を選べば消音効果が一段上がる。地下鉄など騒音の大きい場所での利用に向いているだろう。
どちらを選んでもサウンドは自然だし、適切な消音効果が感じられる。finalは、チューニングの“さじ加減”がとても上手だと思う。
加えて、TONALITEはコンパクトという点もうれしい。耳の小さな人でも圧迫感が少なく、長時間の使用も快適だ。また、本体はIPX4相当の防滴仕様なので、アウトドアや汗をかく運動時でも気兼ねなく使える。

TONALITEは、生活のあらゆる場面を“静かな自分専用のリスニング空間”に変えてくれる。本機は筆者にとって、この一年で出会った中でも群を抜いて面白いワイヤレスイヤフォンのひとつになった。
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著者プロフィール
山本敦
オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。ITからオーディオ・ビジュアルまでスマート・エレクトロニクスの領域を多方面に幅広くカバーする。最先端の機器やサービスには自ら体当たりしながら触れて、魅力をわかりやすく伝えることがモットー。特にポータブルオーディオ製品には毎年300を超える新製品を試している。英語・仏語を活かし、海外のイベントにも年間多数取材。IT関連の商品企画・開発者へのインタビューもこなす。









