サーバ向けメモリ需要の急増と製造シフト
この数か月の異常なまでのメモリ価格高騰は市場における需給バランスの変化によるものだが、そのトリガとなったのはサーバ向けメモリ需要の急速な伸びだ。しかもその伸びの大半がAIサーバに偏っていて、サーバ全体における台数シェアも急速に伸びている。
AIサーバは従来のサーバの数倍から十数倍のメモリ容量とメモリ帯域を要求するため、サーバ台数の伸び以上にメモリ使用量がきわめて多い。また使用するメモリにHBM(High Bandwidth Memory)やGDDR7、DDR5Xなどのハイエンドクラスを要求する。そのためサーバ台数の増加以上にメモリ需要の伸びが凄まじい。

画像:NVIDIA
これをメモリチップメーカーの視点から見れば、巨大なビジネスチャンスであることは間違いない。中でも一般的なDDRメモリの数倍から十数倍の価格で取り引きされるHBMは、その代表といえる。HBMはシリコン貫通電極(Through Silicon Via)によって、多数のメモリシリコンを積層して製造される超広帯域メモリチップだ。
HBMは一般的なDDRメモリとはシリコンレベルから別物だが、必要な製造設備は大きく変わらない。このためメモリメーカーはより高収益が見込めるHBMにメモリチップの製造キャパシティをシフトすることで、業績の拡大を狙う。

画像:Micron
半導体の製造設備は短期間に増強することができないため、HBMに大きく振り分けられた製造キャパの代償として、一般的なDDRメモリの生産量が減らされることになる。中でも今後需要が減ると見込まれるDDR4系のメモリが優先的に製造を削減、または停止された。
結果として市場ではDDR5メモリモジュールよりもDDR4メモリモジュールの方が高い、という逆転現象すら起きている。さらにDDR5メモリモジュールの中でもコンシューマ向け製品より高く売れるサーバ向け製品にシフトする動きが加速しており、これも販売店などでのメモリモジュール価格が高騰する要因となっている。
影響はそれだけでは終わらない。3大メモリチップメーカーの一社であるMicronは、コンシューマ向けメモリおよびSSDのブランド「Crucial」を展開していたが、2025年12月にCrucialブランド製品の販売を終了すると発表した。つまりコンシューマ市場からの撤退宣言である。

画像:Micron
MacやiPhoneなど、Apple製品への影響はどうなる?
このような現状から、今後のApple製品の価格への影響が心配されるのも無理はない。しかし実際にはメモリの市場価格上昇によるMacやiPad、iPhoneなどへの影響は限定的だと考えられる。
その理由として、Appleはメモリチップメーカーと年単位での長期契約を結んでおり、さらに強力なバンドル調達(品目や地域などをまとめてメーカーにロット発注する仕組み)により、市場におけるスポット価格の影響を受けにくいためだ。このため現行モデルが直ちに値上がりするとは考えにくい。
それでも年単位で見ると契約価格の底上げは避けられないこと、またメモリチップメーカーも新規契約では長期契約からスポット契約に切り替える動きに出ていることから、ユーザから見えにくい形での価格転嫁は進むだろう。
例えば新しい製品が登場してもベースモデルのメモリ容量は据え置かれ、メモリ増量時の差額(オプション価格)が引き上げられる、といった影響が想定される。Apple製品の場合、メモリ容量を購入後に増やす(増設する)ことはできないため、ライフサイクルを見据えて余裕のあるメモリ容量を選択しようとすると、値上がりの影響を受けることになると予想される。

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周辺機器への影響と、長期的な価格推移の予想
Apple製品より大きな影響を受けるのが周辺機器のカテゴリーだ。こちらは特にSSDやHDD(ハードディスク)、NASやメモリカードなどのストレージ製品が大きな影響を受ける。ストレージもメモリと同様に、最近のAIサーバ需要の急増にともなって、サーバ向け製品への製造シフトが急速に進んでいるためだ。

画像:micron
では、メモリやストレージの価格は今後どうなっていくのだろうか。それを正確に予測するのは難しいが、おそらく今後1〜2年は横ばい、あるいは微増の状況が続く可能性が高い。つまり今の急激な価格上昇がずっと続くわけではなく、かといって急上昇以前の安い価格水準に戻ることもない、と予想される。
その理由は、最新の市場ニーズに合わせてメモリチップメーカーが製造シフトによってサーバ市場向けメモリの生産量を増やしている一方で、大規模な増産や設備投資には慎重になっているためだ。というのも2018年から2023年にかけて世界規模でメモリが供給過剰となり、価格が大きく下落してメモリ製造業界は大きなダメージを受けた。その後大幅な減産によってようやく在庫水準が回復したその矢先に、今回のAIサーバ需要の急増が重なった結果、今度は一気にメモリが供給不足になったというのが現状なのだ。
したがってメモリチップメーカーは大幅な増産には消極的な一方で、大きな利益が見込めるサーバ向けメモリへの製造シフトを今後も続けるだろう。Appleのような大口顧客への影響は限られる一方で、小ロット生産の周辺機器などへの影響は今後も続くと考えられる。
また現在のDDRメモリの市場価格水準は、需給バランスの崩れだけでは説明できないレベルまで高騰している。そこには投機購買(パニックバイ)の影響が少なからず出ていると考えていいだろう。いわゆる「買い溜め」需要がメモリ価格をさらに引き上げているのが現状だ。
ただし価格上昇要因はメモリやストレージだけではない
今回のメモリ不足がApple製品に与える影響は限定的な一方で、2026年にはもう1つ見逃せない大きな価格上昇要因がある。それがAppleシリコンをはじめとする最先端プロセス半導体の製造コストの上昇だ。Appleは来年リリースするMacやiPhoneの新製品に向けて、例年どおり新たなAppleシリコンをリリースするだろう。
その最新シリコンに採用されると考えられるのが、TSMCの次世代プロセスであるN2(2nmプロセス)だ。このN2では、GAAFET(Nano Sheet)の導入やEUV(極端紫外線)露光技術の多用など、多くのコストアップ要因が見込まれている。(すでに50%以上の価格上昇が予測されている)また最新プロセスに対しては、多くのデバイスメーカーがその限られたパイ(割り当て)を奪い合うことになり、来年登場する新製品、特にハイエンド製品の原価への影響が懸念される。

画像:TSMC
さらに為替の動向も気になるところだ。このところの円安傾向は輸入品であるApple製品の国内価格に大きな影響を与えている。さまざまな物価が上昇する中でApple製品の価格がどのような影響を受けるのか、慎重に見極める必要がありそうだ。
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