大阪府高槻市の関西大学初等部では、全児童が1人1台のiPadを所有し、授業や家庭学習に活用している。さらにApple認定教育者「Apple Distinguished Educator(ADE)」が6人在籍するという全国でも稀な環境だ。ADEの1人である松本京子教諭に、ICT活用とSTEAM教育の実践について話を聞いた。

松本京子
関西大学初等部 研究主任/Apple Distinguished Educator 2023。兵庫県宝塚市出身。宝塚市の公立小学校教諭、教育委員会指導主事を経て、2013年に関西大学初等部へ。現在は研究主任として学校全体の研究を推進し、3年生の担任をしながら、教科担任として主に国語を担当している。
授業観を変えたICT。1学年1人1台のiPadを整備へ
関西大学初等部は、大阪府高槻市にある関西大学の併設校で、小学校から大学までが一つのキャンパスにある一貫教育の私立小学校だ。同校は「学の実化」を教育理念に掲げ、子どもたちの好奇心を引き出し、思考力と創造性を育むためにICT環境を整備してきた。その取り組みは高く評価され、Appleから「ADS(Apple Distinguished School)」に認定されている。
特筆すべきは、Apple認定教育者「ADE(Apple Distinguished Educator)」の数である。2023年に松本京子教諭が認定され、現在は6人が在籍。小学校としては全国でも稀な規模である。ADEとして各教員が培った知見やネットワークは、授業デザインや教材開発、ICT活用の高度化に大きく寄与している。
ICT環境においては、2014年から1学年1人1台のiPadを整備し、2017年には低学年が共有iPad、4年生から6年生までが個人持ちiPadを使用。現在では、1〜6年生の全児童が1人1台のiPadを所有し、授業だけでなく家庭学習にも活用している。ICTは単なる作業ツールではなく、情報活用力や表現力を育む基盤として機能し、電子黒板や大型ディスプレイとの連携もスムースだ。
もちろん、この環境は一朝一夕に整ったわけではない。2013年に着任した松本教諭は試行錯誤の毎日だったという。
「iPadがはじめて導入された当初、『授業でどれだけ活用できるだろう』といった疑問がありました。しかし、まずは『子どもたちの学びをどう深めるか』を考え、国語の単元の中でどこでどう使えばもっとも効果的かを軸に授業を設計していきました。この試行錯誤が、私の授業観を変えるきっかけになったのです」
国語科で「STEAM化ごんぎつね」。ユニークな実践
同校では、数理的思考力と創造力を育むことを目的とした「STEAM教育」に力を入れている。STEAMとは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Arts)、数学(Mathematics)の頭文字をとったもので、教科の枠を越えて学びをつなぐ教育アプローチ。松本教諭もこの考えをもとに、小学4年生の国語科で「STEAM化ごんぎつね」というユニークな実践を行った。
これは、国語の“国民的教材”といえる『ごんぎつね』を文学的に味わうだけでなく、理科や社会科の観点などをさまざまな角度から捉えることで学びを深化させるという取り組みだ。たとえば、「ホンドギツネの生態を学術的・深い観察からどのように解釈するか」「作品中で描かれている昔の風景からわかる、先人の自然との共存のあり方とは」などを問いとして、理科や社会科などの学びに広げていったという。この活動は経済産業省の「未来の教室」にも採択され、同校の研究テーマである「学びのSTEAM化」やクリティカル・シンキングの実践例として高く評価された。

「『STEAM教育』というと、『プログラミング学習をすればいい』『作品を作ればいい』と捉えられてしまうことも少なくありません。しかし私たちは、何かを作ること自体を目的とするのではなく、STEAMの視点で物事を多面的・多角的に捉えることを重視してきました。特に「A(Arts)」はその核となる要素であり、物事の見方を広げるための大切な手段です。現在、本校の研究では『STEAM』という言葉をあえて前面に出すことは少なくなりましたが、その視点は教員や児童の基盤として根づいています。
たとえば『ごんぎつね』の授業では、算数が得意で国語を苦手としていた児童が『国語が好きになった』と話してくれて。それこそが、何よりの成果だと感じています」
Pagesを使った「読書交換日記」
現在は3年生のクラス担任である松本教諭。6年生ではグループで意見交換やまとめ作業ができるが、3年生ではまだ難しいと判断し、あえてペアで取り組む実践を行った。その取り組みが、「Pages」を使った「読書交換日記」だ。

「まず児童全員の写真を撮り、名前から個人ページにリンクで飛べるようにしました。司書の先生に選んでもらった90冊の本の中から、読んだ本の表紙写真をページに貼っていきます。一目で友だちがどんな本を読んでいるのかがわかる仕組みです」
児童は本を読んだら、自分のページに写真と感想を記録し、レーダーチャートで自己評価を付ける。ペアの相手にも読んでもらい、相手は同じ作品に別の評価を付ける。この「評価の違い」が、互いの感じ方の違いを学ぶきっかけになる。ページズのデジタル機能を活用することで、記録や感想の追加も家庭から可能になった。


この活動は、高学年での共同制作型の取り組みを、中学年向けにアレンジしたものだ。学年に応じて機能や方法を柔軟に選びながら、「子どもたちが主体的に動ける環境づくり」を大切にしている。
「ICTの実践や授業事例を見ていると、確かに機能をうまく使って見栄えのよい授業はたくさんあります。ただ、それが本当に子どもの思考に合っているのか、疑問に思うこともあります。だからこそ、今のクラスなら何ができて、何ができないのかを見極め、できない部分はどうすれば理解できるようになるのかを考えます。この手順で進めたら子どもの思考はどう動くのか、自分でも実際にやってみるのです」
松本教諭の徹底した「子どもの目線や思考に合わせる姿勢」が、子どもたちの学びを支えている。
※この記事は『Mac Fan 2025年11月号』に掲載されたものです。
著者プロフィール
三原菜央
1984年岐阜県出身。 大学卒業後、8年間専門学校・大学の教員をしながら学校広報に携わる。 その後ベンチャー企業を経て、株式会社リクルートライフスタイルにて広報PRや企画職に従事。 「先生と子ども、両者の人生を豊かにする」ことをミッションに掲げる『先生の学校』を、2016年9月に立ち上げた。





![アプリ完成間近! 歩数連動・誕生日メッセージ・タイマー機能など“こだわり”を凝縮/松澤ネキがアプリ開発に挑戦![仕上げ編]【Claris FileMaker 選手権 2025】](https://macfan.book.mynavi.jp/wp-content/uploads/2025/10/IMG_1097-256x192.jpg)