A19シリーズの進化点、A18シリーズとの違いはどこにあるのか
2025年9月19日に発売されたiPhone 17シリーズ/iPhone Airには、A19およびA19 Proが搭載されており、それらにはAppleシリコンでは初となるTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company, Ltd)の第3世代3nmプロセス「N3P」が採用されたと考えられる。
A19シリーズに採用された「N3P」は、Apple A18シリーズに採用された第2世代3nmプロセス「N3E」と比べて消費電力を5〜10%削減、もしくは5%の性能向上、トランジスタ密度も4%向上するとされており、今回のA19シリーズはこれを性能向上とエネルギー密度向上の両面に割り振ったと考えられる。
史上最高のシングルコア性能(IPC)を誇るA19 Proの高性能CPUコア

Photo●Apple
A19 Proでは6基のCPUコアのうち、2基の高性能コアでIPC(動作クロックあたりの性能)がさらに向上している。これはCPU内部の演算ユニットに命令を送るフロントエンドのワイド化(広帯域化)と、分岐命令の先読みと命令の並べ替えを担う分岐予測ユニットの改良によるもので、おそらく演算ユニットもこれに合わせて増強されているものと推測される。
同様の性能向上は過去にApple A17 Proでも実施されており、これによってAppleシリコンの高性能CPUコアはライバルのスマートフォンの同性能を大きく凌駕し、パソコン向けプロセッサを脅かすほどのスコアを叩き出している。
他社のハイエンドスマートフォン向けプロセッサが高性能コアを4基以上搭載する中で、iPhoneがわずか2基の高性能CPUコアでこれらを引き離しているのは、その圧倒的なシングルコア性能(IPC)によるところが大きい。

Photo●Apple
キャッシュメモリを増強したA19 Proの高効率CPUコア
またA19 Proの4基の高効率CPUコアは、ラストレベルキャッシュ(もっともCPUから遠いキャッシュメモリ)の容量が50%増強された。
iPhoneのようなスマートデバイスでは、日常的なほとんどの処理が高効率CPUコアで処理される。高効率CPUコアは幅広いパワーレンジと極めて優れたエネルギー効率を誇るが、重いアプリの処理などより高性能を必要とする場合には、エネルギー効率では劣るがピーク性能に優れる高性能CPUコアと協調しながら、6コアすべてを使って処理を行う。
今回キャッシュ容量が増強されたことで4基の高効率コアのトータル性能が底上げされ、高性能CPUコアに頼る頻度が下がることが期待できる。これによってiPhone Airのように容量が限られたバッテリでも、処理の大半をエネルギー効率に優れる高効率CPUのみで処理できる範囲が広くなり、バッテリ消費が抑えられるはずだ。

Data●Geekbench
Appleシリコン登場以来の大革新「Neural Accelerator」

Photo●Apple
今回のA19シリーズでは、ついにAppleシリコンにGPU専用のAIアクセラレータ「Neural Accelerator」が搭載された。
このようなGPU内のAIアクセラレータは、他社のプロセッサではすでに採用されている。たとえばNVIDIAのGPUに搭載される「Tensor Core」、IntelのXe2 GPUに搭載される「XMX(Xe Matrix eXtensions)」、AMDのGPU(RDNA 4)に搭載される「AI Accelerator」などがそうだ。
しかし、このようなGPUへのAIアクセラレータの搭載は、電力事情の厳しいスマートフォンではおそらくiPhone 17シリーズが初めてではないかと思われる。
従来のAppleシリコンでもAI演算を専用に処理する「Neural Engine」や、CPUのAI拡張であるAMX(Apple Matrix Coprocessor)やSME(Scalable Matrix Extension)などを備えているものの、GPUでのAI処理は汎用シェーダが担っていた。
一方でGPUは大規模な並列処理に適したプロセッサ構造を持ち、CPUよりはるかにAI処理に適していることから、GPUにAIアクセラレータを搭載するのは近年のトレンドとなっていた。今回のA19シリーズのGPUへの「Neural Accelerator」搭載は、そういった時流に沿ったものといえる。

Data●Geekbench
「Neural Accelerator」の搭載がもたらすメリットとは
ではNeural Acceleratorの搭載によって、ユーザはどのような恩恵を受けることができるのだろうか。まず間違いないのは「MetalFX Upscaling」の品質とフレームレートが向上し、同時にエネルギー効率の改善が期待できる点だ。
MetalFX Upscalingとは、一言でいえば「動画の超解像処理」である。ゲームプレイや動画再生などでは、画質を向上するためにレンダリング解像度を上げようとすると、その解像度に応じてGPU負荷が増大してフレームレートが低下すると同時にエネルギー消費が跳ね上がる。
そこでゲーム画面や動画は低めの解像度でレンダリングし、これを拡大(アップスケール)することでフレームレートを向上しバッテリ消費を抑える。ただし単純に拡大すると画質が荒くなるので、AI処理による超解像技術を用いて失われたディテール情報を再生する。これがMetalFX Upscalingの役目だ。

Photo●Apple
MetalFX Upscalingは従来のAppleシリコンでは、GPUの汎用シェーダ(グラフィック処理のためのエンジン)で処理されていた。
汎用シェーダは本来の役割であるグラフィックレンダリングやシェーディング処理のほかに、アップスケーリング処理も同時に実施しなければならない。しかし新たにNeural Acceleratorが追加されたことで、特徴抽出、ノイズ除去、ピクセル補完といったアップスケーリングの主要な処理をNeural Acceleratorにオフロードすることができる。その分負荷の軽くなった汎用シェーダは本来のグラフィック処理にそのパワーを割くことができ、画質やフレームレートを向上できる、というわけだ。
「Neural Accelerator」はAI処理に特化したユニットであり、汎用シェーダより高速かつ高効率にMetalFX Upscalingを処理できる。その結果、画質が向上して消費電力が下がる(バッテリ消費が減る)。
さらにオンラインゲームや動画再生ではMetalFX Upscalingの性能向上によって、より低ビットレート(低解像度・高圧縮率)のストリーミングを選択できるため、データ通信量も削減できる。つまりゲームプレイや動画再生が、より高画質に長時間、低コストで楽しめるようになる。
このようにバッテリ容量が限られるiPhoneでは、Neural Accelerator搭載のメリットは非常に大きい。
期待される、Apple Intelligenceの機能強化やローカル生成AIへの応用
Appleは2024年に開催された「WWDC24」におけるApple Intellligenceの発表の場で、「Private Cloud Computeにより、Apple Intelligenceが画期的なプライバシー保護を維持しながら複雑なユーザリクエストを処理できるようになります」と話した。
つまりiPhone上のNeural Engineで処理しきれない複雑なリクエストに対して、クラウド上に構築されたAIサーバ「Private Cloud Compute」を使用して処理を行う。その場合iPhoneとPrivate Cloud Computeの間では、暗号化したデータのやりとり(通信)が行われる。

Photo●Apple
AppleシリコンへのNeural Acceleratorの搭載は、このAI処理のPrivate Cloud Computeへのオフロードのうち、その一部をAppleシリコン内で完結できる可能性があることを意味する。つまりNeural Acceleratorを備えたAppleシリコンは、より高度なApple Intelligenceの処理を端末内で処理できる能力を備えているわけだ。
さらにNeural AcceleratorによるAI処理性能の底上げと搭載メモリ量の増強は、iPhone上のさまざまなアプリで高度なAI処理を利用できる可能性を示唆している。たとえばOpenAIの「gpt-oss」やGoogleの「Gemma」といったLLM(大規模言語モデル)や、Stable Diffusionに代表される画像生成AIなどを、iPhone上のローカル処理で軽快に動かすことができる可能性を秘めている。

今回の改革はiPhone向けのAppleシリコン「Apple A19シリーズ」から始まったが、これはまだスタート地点に過ぎない。AIテクノロジーの製品やサービスへの展開において他社からの遅れを指摘されることの多いAppleだが、これを機に本格的な巻き返しに期待したいところだ。
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