AppleがWWDC25で示したLiquid Glassをはじめとした「新しいデザイン」は、これまでのOSごとに独立していた固有のデザインパターンや平面的なスタイルとは異なる様相を示しています。そのねらいと展望、そして見えてきている課題を、デベロッパーである筆者が考察します。
※本稿で示す図版は、Apple社が公表している資料からの引用になります。ベータ版ソフトウェアに関する非公表の情報や映像は含まれません。
Appleが発表した名もなき「新しいデザイン」

WWDC25の発表の中でもっとも印象的だったトピックは、Liquid Glassを含む新しい統一されたデザイン言語であったと思います。これは、Apple史上初めて、OS間での統一を目指すデザインの導入、そして最大の変更とも言われ、2026年以降のAppleプラットフォームを支えるソフトウェアデザインの礎として位置づけられています。
Appleはこのデザインのことを単に「新しいデザイン(The new design)」とだけ呼んでおり、GoogleのMaterial Designのように何かブランド化を目的とした固有名詞を設定していないようです。一方、新しいデザインの構成要素の一つであるLiquid Glassには固有の名前を与え、その特徴的なスタイルのブランド化を図っています。これは、かつての名前をもったGUIデザイン「Aqua」とは少し異なるアプローチです。
新しいデザインに特徴的な名前が与えられなかった理由の公式説明は見つけられませんでした。おそらく、対象がネイティブアプリである限り、そのデザインがAppleプラットフォームにおける唯一のデザインシステム(もしくはデザイン言語)と位置づけられるため、フレームワークのように差し替え可能であることを前提とする必要がなかったのだと思われます。
「新しいデザイン」のコンセプトとねらい
Appleは「新しいデザイン」を「統一されたデザイン言語(Unified design language)」または「ユニバーサルデザイン言語(Universal design language)」であると説明しています。ここで言う統一の対象は、Appleが現在抱える多数のシステム——macOS、iOS、iPadOS、watchOS、visionOS、tvOS、Safari / WebKit等が念頭に置かれていますが、これらすべてのシステムやUIをコードレベルで完全に統合していくという発想ではなく、これまで通りそれぞれを適切に区別しながらも、共通化できる基本のデザインを可能な限り一つに統合し、その上でプラットフォーム固有のデザインを共存させようという挑戦だと考えられます。

「新しいデザイン」にはそのほかにも、Liquid Glassをはじめ、同心性、階層化、調和、イマーシブといったコンセプトが含まれています。いずれもOSをまたいで共通のデザイン言語と位置づけられています。
したがって、Liquid Glassや同心性といったコンセプトはOSをまたがってAppleプラットフォームのすべてで有効な共通のデザイン言語になると考えられます。たとえばmacOSならば、デスクトップメタファ(画面を机に見立てる考え方)やFinderとのやりとり、マウスとキーボードを使うインタラクションを考慮したデザインも同時に実現する必要があります。これはiOSとは異なるアプローチになるはずです。

UIに現れるボタンやメニューのような部品には、OSごとに固有のスタイルや操作方法の差異はあれど、基本的な振る舞い方やデザインパターンには多くの共通点が見られます。これらをまったく別のデザインシステムとして定義・実装する従来の方法をとるのではなく、基礎の部分では可能な限り統一したデザイン言語でそれらを記述しなおして、実装面ではOSごとに固有の技術ではなく、共通UIフレームワークであるSwiftUI(※1)を用いて、なるべく同じコードベースで実装できるようにしていくことが推奨されています。
一方で、SwiftUIでは表現が難しいインターフェイスや、古いコードからの移行が難しいアプリにおいては、従来のUIKit(※2)やAppKit(※3)も引き続き利用することができ、SwiftUIコードと共存させることも可能です。いずれのUIフレームワークにも新しいデザインのための変更が反映されているので、実現可能性という意味では、次期OS対応のアプリを安心して開発できる環境が整えられています。
「Liquid Glass」は機能性とブランディングの両立を図る
新しいデザインのLiquid Glassスタイルは、ソフトウェアをよりダイナミックかつ有機的に見せる特徴を備えています。まるで液体のように形や透過度合いを変化させるこのデジタル・メタマテリアルは、ユーザが指やポインタで触れることによってインタラクティブに振る舞い、ソフトウェアはより“いきいき”と感じられるようになります。
機能面では、Liquid Glassはインターフェイスの「機能レイヤー」として位置づけられます。コンテンツとインターフェイスの要素(ボタン、メニュー等のコントロールや各種ビュー要素)をレイヤーで構造化し、ユーザがスクリーン上でそれらを区別できるようにする意図があります。Liquid Glassのスタイルが適用されている部分は現在有効なコントロール等の要素にあたるので、コンテンツそのものではないとはっきりと理解することができます。つまりLiquid Glassは、ユーザが触れられるUI部分が液体のように変化し、コンテンツの上を滑りながら動的に形を変えてその機能を表現します。

たとえば、Liquid Glassを使ったUIでは、ボタンを押すとそこからニュッと半透明のジェルが広がるようにメニューが展開したり、機能を多く抱える奥の階層に移動するとツールバー上のボタンが分裂してボタンの数が増えるといった演出がなされます。こうした動きは、画面ごとに個別のツールバーが備わるのではなく、機能レイヤー上に常駐する一つのツールバーがコンテクストに合わせて動的に変化する、という考え方に基づきます。この発想は、ページ単位で個別にUIコンポーネントを展開するWebサイトの実装方法や、従来のモバイルアプリの考え方とは異なるものです。

Liquid Glassは文字通り“液体ガラス”をモチーフにした仮想のマテリアルとしてデザインされています。処理能力の高いAppleシリコンを駆使したリアルタイムのレンダリング処理によって、マテリアルは現実のガラスのように背景の映像を屈折させるので、スクリーンを隔てたそこには、まるで本物の液体ガラスが存在しているかのように見えます。指やポインターに吸い付きながらぷるぷると動くその様子は、実際に粘度のある液状の物質に触れているかのように我々を錯覚させます。
AppleはLiquid Glassを「ハードウェアとソフトウェアの融合による成果」と強調していますが、まさに半導体からOSまで一貫して自社で設計しているからこそ実現できる“贅沢な”デザインであり、Appleならではとも言えます。Liquid GlassにはAppleのデザインとアイデンティティを強くブランディングする意図もあり、競合他社が「リキッドっぽい何か」を真似たとしても、それは二番煎じにしか映らないという強力なビジュアルイメージを私たちに植えつけています。
「同心性」がレイアウトを支配する
新しいデザインにおいてもう一つの重要なコンセプトは、同心性(Concentricity)によるレイアウトの支配です。同心性とは、重なる要素群の角丸の中心点を一つに定め、そこから同心円状に広がるガイドに沿ってレイアウトを決める考え方です。丸いボタンが設置される面のアウトラインは、そのボタンのカーブに沿って同じ余白を保つように同心円を使ったカーブを描きます。この考えをハードウェアの筐体にまで広げ、iPhoneやiPadではデバイスの角丸に合わせてディスプレイの角丸を決め、ソフトウェアのUIもその角丸に合わせて配置していきます。
特にiPhone X以降のApple製品では、デバイスやディスプレイの角丸とソフトウェア上の角丸(Dockやアプリアイコンの角など)が同心円に沿うデザインが取り入れられてきました。そしてiPhone 14 ProのDynamic Islandに採用された動的な同心円要素は、今では新しいデザインの基本思想として取り入れられました。macOS Tahoe 26でもさまざまな箇所に適用されています。

次期OS以降ではデザイン言語として同心性が示されていますから、iPhone XやDynamic Islandのような局所的なデザインとしてではなく、インターフェイス全体にそのコンセプトが反映されることを念頭に、デザインと向き合っていくことになります。これには、角の見た目が揃ってビジュアルが美しく見える効果を期待できる一方で、次に示すような課題も徐々に浮き彫りになってきています。
「新しいデザイン」が抱える課題とその先
新しいデザインに対しては、デベロッパーコミュニティを中心にさまざまな問題点が指摘されています。まず、Liquid Glassはまだ視認性に多くの問題を抱え、ユーザビリティやアクセシビリティの観点でこれまでのデザインよりも悪化しているとの意見が絶えません。たとえばiOS 26の新しいタブバーやツールバーはLiquid Glass素材で作られた部品として描かれますが、裏側に入り込んだ映像がLiquid Glassの要素に映り込むことによって、視覚的に余分な情報が増え、この場面で特に重要であるはずの要素の境界線やアイコンなどの形が判別しづらくなるといったケースがあります。

2025年8月現在、ベータ版の「新しいデザイン」は、日々細かな調整が施され続けています。ただ、Liquid Glassの見た目を調整したところで視認性の問題が根本から解決できるわけではないので、アクセシビリティの設定変更(透明度を下げる等)をユーザに委ねる以外には解決が難しいのではないか、との見方もあります。

同心性についても、デザイン言語として強くそれを求めるようになったことから、これまでは同心円に配置しなくても無難に収まっていたレイアウトでさえ、わざわざ同心円を意識する必要性が生じました。これにより、インターフェイスがより多くの余白を要するようになって、全体のビジュアル的なバランスが悪くなったとの見方があります。
これらの指摘はデベロッパーコミュニティで広く議論され、そのフィードバックはAppleに届けられています。その成果が実際に製品に反映されるかは未知数ですが、フィードバックはAppleがデベロッパやベータテスタに求めていることですので、ベータ版の試用に参加しているユーザは、なるべく多くの報告や提案をフィードバックアシスタント(Appleにフィードバックを送るためのシステム)を使ってAppleに送るべきでしょう。日本語で送っても良いそうです。

そのようにしていけば、今後時間をかけながら徐々に新しいデザインが洗練されていくのではないでしょうか。はじめは少々荒っぽい部分もあるかもしれませんが、かつての「iOS 6 → iOS 7」の移行と、その後にiOS 8、9、10とデザインが磨かれていったことを振り返ると、今回も同様の道をたどっていくのではないかと考えられます。
また、新しいデザインをきっかけに今後コミュニティから生まてくるであろうさまざまな表現は、プラットフォーマーへの刺激にもなるはずです。与えられたデザイン言語をただ受け取るのではなく、それを解釈し、自らのデザインに取り入れながら新しい表現を生み出してくことも、プラットフォームの裾野を広げる力となり得るでしょう。
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著者プロフィール
usagimaru
ソフトウェアデザイナー/デベロッパー。初期Mac OS XやiPhone OS 3の時代から多くのアプリ開発を経験。株式会社グッドパッチを経て、現在は株式会社タイムラボに所属。ソフトウェアエンジニアリングとUIデザインの両方を経験した強みを活かしながら、分野を跨いだ活動に励んでいる。macOSアプリ開発の技術情報を共有するコミュニティ「macOS native」の運営メンバー。近著に『モデルベースUIデザイン 構造化UIと情報設計の方法論』(翔泳社)がある。 https://clickandmagic.com








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