iPhoneの「カレンダー」アプリで過去に遡っていくと、とある年の10月5日から14日までの10日間が表示されない。これはバグではなく、カレンダーが、とある“古い暦法”に対応しているからだ。
こういったイレギュラーがあるため、カレンダーの表示内容は、計算式等で単純に自動生成されているわけではないと推測できる。
では、一体どこまで遡る、あるいは進めることができるのだろうか。そして、なぜ消えた10日間が存在するのか。これが今回の疑問だ。
※この記事は『Mac Fan 2024年5・6月号』に掲載されたものです。
iPhoneのカレンダーから消えた10日間。10月4日から15日の間が存在しない?
まず、下図を見ていただきたい。

一見、何の変哲もないiPhoneのカレンダーだが、おかしなところがある。10月4日(木)の翌日が10月15日(金)になっているのだ。なぜか5日から14日までが存在しない。これはバグではなく、ちゃんとした理由がある。
そもそもこの不思議な表示は、「iPhoneの『カレンダー』アプリはどこまで遡れる、あるいはどこまで未来に進めるのだろうか」という疑問を調査していた中で発見した。
遡れる限度も発見したのでのちほど紹介するが、いつまで続くのかについてはまったく調査に終わりが見えない。どれだけスクロールしても永遠に続いていくようだ。「X」で検索したら、同じことに挑戦した方がいて、西暦5万年を超えたところで挫折したとポストしていた。
1582年に導入されたグレゴリオ暦。iPhoneのカレンダーは、その“ズレ”も反映している
年間のカレンダーは、実は14パターンしかない。1月1日が日曜日から土曜日までではじまるパターンが7種類。それぞれに閏年(2月29日がある)パターンを加えて合計14種類だ。そして、閏年の入れ方には次のルールがある。
①4で割り切れる年は閏年
②ただし100で割り切れる年は平年
③ただし400で割り切れる年は閏年
これを元に計算すると、400年の間に閏年は97回ある。
この方式では、平均の1年の長さは365.2425日。太陽が黄道上の分点(春分・秋分)と至点(夏至・冬至)から出て、また各点に戻ってくるまでの周期である回帰年(現在は365.242189日)との差は1年あたり約26.8秒となり、非常に精度が高い。
しかし、3320年経つと暦のほうが1日遅れてしまう。だが、現在のグレゴリオ暦が導入されたのは1582年のことなので、西暦4900年あたりで1日調整すれば、暦と太陽の運行の差は解消される。
さて、このグレゴリオ暦の導入が1582年ということに注目していただきたい。先の図は1582年のカレンダーだ。つまり、グレゴリオ暦の導入にあたって日付が操作された歴史を、iPhoneのカレンダーはきちんと反映しているということになる。
かつて使われたユリウス暦の問題点。約128年で1日、暦が遅れてしまう
グレゴリオ暦が使われる以前は、紀元前45年に共和政ローマで採用されたユリウス暦が使われていた。ユリウスとはユリウス・カエサルのことで、いわゆる共和政ローマの執政官ジュリアス・シーザーのことだ。彼が提案した暦であるため、ユリウス暦と呼ばれている。
ユリウス暦はシンプルで、「4年に1回、閏年を入れる」というルールしかない。そのため、1年の平均の長さは365.25日となり、回帰年とは1年で11分14秒程度のずれが生じることになる。
この差は大きく、約128年で1日、暦のほうが遅れてしまう。とはいえ、当時としては極めて精密な暦だった。
キリスト教の各宗派がユリウス暦を採用し、祝祭日を決めるのに利用するようになった。キリスト教でもっとも重要な祝祭日は、ゴルゴダの丘で処刑されたイエス・キリストが復活したことを祝う復活祭だ。
この記念日をできるだけ当時の暦と合わせて設定できるよう、「春分の日であるユリウス暦3月21日以降の最初の満月の次の日曜日」と定めた。
正確な観測が難しい「春分の日」。現代も発表されるのは1年前
ここで問題なのは「春分の日は3月21日」と暦に紐づけてしまったことだ。
実は春分の日を観測するのは簡単ではなく、現代でも春分の日は3月21日だったり、3月20日だったりと移動する。日本の場合は、国立天文台が観測と計算。前年の2月1日に、正確な春分の日と秋分の日がいつなのかを官報で告知することになっている。
国立天文台のQ&Aコーナーによると、「地球の運行状態などが現在と変わらないと仮定すると、将来の春分日・秋分日を計算で予想することができます(省略)ただし、地球の運行状態は常に変化しているために、将来観測した結果が必ずしもこの計算結果のとおりになるとは限りません」とある。
つまり、前年に正確な日付を発表することになっているのだ。

ユリウス暦からグレゴリオ暦へ。“改暦に伴う措置”をiPhoneのカレンダーは反映している
現代でも正確な情報として発表できるのは1年前。中世の時代に精密な観測を行い、正確な春分日を決めることは困難なことだった。そこで、過去の記録から「3月21日を春分の日」と定めてしまったわけだ。
しかし、ユリウス暦は128年で1日ずれが生じる。16世紀になると、暦と実際の春分日は10日もずれた状態になっていた。
すると、「春分の日のあとの最初の満月の日以降の日曜日」という復活祭の基準の「最初の満月」が1つずれる。つまり1カ月もずれてしまうことがあった。これは問題だということで、ローマ教皇グレゴリウス13世の命によってより精密なグレゴリオ暦が考案されたのだ。
そして、ずれた10日間を一気に解消するため、10月のカレンダーから10日間を削除。これで、それから3000年ほどは正しい日に復活祭を行えることになった。
iPhoneのカレンダーは、この改暦にともなう措置をきちんと反映しているわけだ。
遡ること紀元前4713年。基準となっているのは「ユリウス日」
ちなみに、iPhoneのカレンダーを過去に向かってスクロールし続けると、紀元前4713年まで遡れる。それ以降(以前)は、1月から3月までのカレンダーが繰り返し表示されるだけだ。
しかし、なぜ4713年なのだろうか。それは、ユリウス暦の基準が紀元前4713年1月1日の正午になっているからだ。


たとえば、私たちが「平成27年3月3日から令和2年5月5日まで通算で何日?」と尋ねられたら手作業で計算せず、通算計算するアプリを探すだろう。
当時、似たようなことを考えたフランスのスカリゲルという学者が、紀元前4713年1月1日の正午を0として、日数を整数で表す「ユリウス日」方式を提案した。この換算サービスは国立天文台のWebサイト上で利用できるのだが、それによると、2024年3月1日の午前0時は「2460370.25日」となる。
iPhoneのカレンダーは、過去6700年分、未来はおそらく無限に対応している
ユリウス日が紀元前4713年を基準にしているのは、「日付と曜日が循環するサイクル28年」「月の満ち欠けと日付が循環するサイクル19年」「ローマ帝国での年紀法のサイクル15年」を参考にし、この(28、19、15)の最小公倍数である7980年をひとつの周期としたからだ。
そして、直近の周期のはじまりとなる、「1月1日が月曜日ではじまる」「1月1日が新月」「その年がローマ帝国年紀法の1年目」にあたる紀元前4713年1月1日正午をユリウス日0日とした。
つまりiPhoneのカレンダーは、このユリウス日まで対応している。もちろん予定を入れることも可能だ(ただし反映に時間がかかるらしく、しばらくしないと表示されない)。



「iPhoneのカレンダーはどこまで表示されるのか」。その疑問の結論は、過去6700年分まで。未来はおそらく無限に対応している。
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著者プロフィール
牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。








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