ワコムが2025年7月に発売した「Wacom MovinkPad 11」は、パソコンに接続して使うペンタブや液タブとは異なり、単独で使えるAndroidタブレットです。ワコムが手がけるからには、描くことに特化した機能・性能には間違いないでしょう。では、ペンタブや液タブとはどのような違いがあるのでしょうか。使い勝手を試してみました。
コスパと信頼性のミドルレンジモデル
まずは本体の外観とスペックから見ていきましょう。MovinkPad 11の外観は、一見するとごく一般的なタブレットと変わりません。特徴的なのはアンチグレア&アンチフィンガープリントの画面です。表面の反射が抑えられ、指紋もつきにくく、指で触れるとケント紙程度の程よい滑りがあります。


チップはMediaTek製の6nmプロセス「Helio G99」で、CPUは8コア(高性能×2、高効率×6)、メモリは8GB。ストレージは128GBを搭載しています。最近のスマートフォンでいえばエントリーからミドルレンジに相当すると考えられます。
Helio G99は2022年に提供が開始されたチップであり、スペック的には当時から「負荷の高いゲームにはやや厳しいが、中程度なら快適」との評価があるようです。タブレットへの採用実績も多く、スペックの高さよりも実用的な性能と信頼性を重視した、コスパのよい構成と言えそうです。

Wacom Pro Pen 3が付属、描く体験に最適化したデバイス
MovinkPad 11の注目ポイントは、付属のペンが「Wacom Pro Pen 3」であることです。Pro Pen 3は、「Wacom Cintiq Proシリーズ」や「Wacom Intuos Proシリーズ」などのハイエンドモデルに共通で採用され、ユーザーから高い評価を得ているペンです。
バッテリーレスで充電を気にせず使うことができ、筆圧感知は8192レベル、3つのサイドスイッチが搭載されています。非常に軽量で、持った感覚は鉛筆に近く、描画の感触も驚くほどナチュラルです。
日頃「iPad + Apple Pencil」を使用している筆者にとっては、初めは軽すぎてやや頼りなさを感じましたが、描き心地が自然なので無理なく慣れることができました。ただ、ハイスペックのわりに見た目の“素体感”はちょっと気になるところではあります。


同じペンを採用する液タブやペンタブと違って、MovinkPad 11は単独で使えるAndroidタブレットです。パソコンに接続する必要がないため、場所を選ばず、描きたいときにすぐ描き始められるのが最大の特徴です。
そのフットワークの軽さを象徴するのが、スリープ中の画面をペン先で長押しすると「Wacom Canvas」の白紙画面が開く「Quick drawing機能」です。スケッチブックを開くような手軽さです。

Wacom Canvasは鉛筆2色と筆ペン、消しゴム大・小だけのシンプルなツール構成で、ブラシサイズやカラーのオプションはありません。選択範囲や全消去といったツールもなく、画面の拡大・縮小もできないという、本当に「紙と鉛筆」のようなアプリです。新規作成・保存が不要な手軽さで、クロッキー帳代わりにアイデアを書き留めたり、デッサンの練習をするにも最適です。


さらに、スケッチはWacom CanvasやWacom Shelfから簡単に「CLIP STUDIO PAINT」へ送ることができるようになっています。アイデアや練習、資料としてスケッチしたラフを、そのまま仕上げに持っていく流れが用意されているわけです。


また、Androidの近距離通信機能Quick Shareで、他のAndroid端末やWindowsパソコンと簡単にファイルの送受信が可能。Quick Shareが使えないMacやiPhone、iPadへの共有は、GoogleフォトやGoogleドライブなどのクラウドが利用できます。
メインマシンを持つ人には強力なサブ機として
ハイエンドのペンを使ってスケッチから仕上げまで場所を選ばず制作でき、しかもクリスタが付属するとあれば、MovinkPad 11はイラスト制作を始めたい人にとって最適なエントリーモデルと言えるでしょう。加えて、今回筆者が使ってみて感じたのは、すでに液タブ・ペンタブを使っているユーザのための“サブ機”としての可能性です。
イラストや漫画を描き上げるには、モチーフ・配色・構図などの資料写真や文献、アイデアメモ、クリスタのヘルプページや動画講座、時には描きたいポーズを自撮りするなど、想像以上に多くの情報が必要です。それらは通常、Webサイトやアプリ、紙のスケッチブックやスマホの写真ライブラリなど、さまざまな場所に散らばっているため、その都度探して目の前に広げなくてはなりません。
しかしMovinkPad 11なら、必要な画像はWacom Shelfに集約でき、カメラを使ってその場で必要なポーズを自撮りすることもできます。メモ帳やクロッキー帳としても活用できます。また、Androidタブレットですから当然ブラウザもアプリも使えます。「POSEMANIACS」や「Pinterest」を常時デスクに開いておけたら、便利だと思いませんか?

さらに、BGMやSNS、作業通話など、作業のお供にしたいあれこれも柔軟にカバーできます。細かい点ですが、CintiqやIntuos Proをお使いの方ならペンを持ち替えずに操作できることも利点です。
デジタルイラスト初心者のエントリーモデルとして十分なスペックがあるだけでなく、液タブ・ペンタブのヘビーユーザにとっても強力なサブ機となり得るMovinkPad 11。決して「お手頃価格」とは言いませんが、使い込む意思に応えてくれるポテンシャルは十分にあるデバイスです。
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著者プロフィール
笠井美史乃
アプリ、サービス、マーケティングなど、IT・ビジネス分野で取材・執筆・編集を行う。マイナビニュースでは2013年開始の連載「iPhone 基本の『き』」をはじめ、iPhone・iPad・Apple WatchなどAppleデバイスのハウツーやレビューを担当。雑誌「Web Designing」「Mac Fan」、その他企業オウンドメディアなどで執筆中。








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