フルチェンジにあたって打ち出した大胆な策
2008年に発売された初代MacBook Airは、ノートPCジャンルで最薄レベルの筐体を、アルミ合金切削加工のユニボディで実現した野心的な製品だった。しかし、最安のハードディスクモデルでも22万9800円という価格設定が、Apple自身もこのラップトップをメインストリーム製品とは考えていないことの証だった。
実際に、金属切削でノート型の筐体を加工するとなると、1台の加工機で1日にこなせる台数はせいぜい数台といわれていた。今では数千台もの加工機を稼働させることで、トータルな生産台数を確保するとともに、コストを大幅に下げることに成功しているが、当時はコンピュータ史上初の試みだったこともあり、プレミアム製品として生産台数を抑えながら、大量生産のためのノウハウを蓄えようとしたのだろう。
しかし、ユニボディをMacBook Proラインにも導入するほど自信をつけたAppleは、2010年にMacBook Airをフルモデルチェンジするにあたって大胆な策に出た。ラインアップを13インチモデルと11インチモデルに増やすとともに、後者の64GBストレージ搭載のローエンドモデルに8万8800円という破格の値付けをしたのだ。
コンピュータ市場でライバルのWintel陣営は、ネットサーフィンや電子メール・チャットなどを主な用途とした、安価で小型軽量なノートPCとしてNetbookというカテゴリを推進していた。それらの価格帯が3〜8万円だったので、そのハイエンドモデルと競合する価格設定である。ところが、デザインや質感、ネット作業に留まらない機能性の点で圧倒的に勝るMacBook Airは、Netbookを駆逐する勢いで販売台数を伸ばし、ノートPC全体で上位を独占する売れ行きとなっていった。
精度を高めたMacBook Air。そう簡単には模倣品を作らせない
特に11インチモデルは、ノートMac史上、もっとも小さな製品としても注目を集め、いわゆるサブノート市場でベストセラーとなった。すると過去に何度もあったように、その特徴的なデザインを真似するPCメーカーが現れた。というよりも、新興企業から老舗に至るまで、多くのメーカーのエントリーノートPC製品がMacBook Airのウェッジシェイプに影響を受けたともいえる。
もちろん、当時はユニボディ構造まで真似できたメーカーは皆無であり、外観は似ていても質感や精度の点でMacBook Airに並ぶものはなかった。それこそが、長年にわたってコピー商品に悩まされてきたAppleの狙いであり、製造方法と密接に結びついたデザインによって、すぐには模倣品を作れないような状況を作り出したのである。
スターバックスの店内でMacBook Airを使うことが、ある種の“ステータス”となっていったのも、この頃からで、iPhoneほどではないにせよ、第2世代のMacBook Airも街の風景を変えるほどのインパクトを持つ製品だった。
当初はライバルと目されたNetbook系のノートPCは2012年ごろに姿を消し、後にその市場はChromebookに引き継がれたところもある。リニューアルされたMacBook Airはそうした市場構造の変化にも少なからぬ影響を与えた製品といえるのだ。
※この記事は『Mac Fan』2023年1月号に掲載されたものです。
著者プロフィール
大谷和利
1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、神保町AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。



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