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“中国製=危険”はもう古い? 専門家が教える「モバイルバッテリ」の安全な選び方・使い方・捨て方

著者: 牧野武文

“中国製=危険”はもう古い? 専門家が教える「モバイルバッテリ」の安全な選び方・使い方・捨て方

相次ぐ発火事故。モバイルバッテリの最適な選び方は?

異常な夏の暑さの中で、バッテリ発火事故が相次いでいる。モバイルバッテリを使うことに不安を感じる方が増えているのではないだろうか。

7月に起きた神奈川県の郵便局での電動バイクの発火事故、山手線車内でのモバイルバッテリ発火事故では、いずれも日本メーカーのものであることが判明した。以前は「中国製は危ない」などと言う人も多かったが、その考え方が通用しない時代になっている。

そこで、モバイルバッテリなど多くのデバイス向けの周辺機器、サプライ用品を開発販売しているエレコム株式会社(以下、エレコム)の田邉明寛さんに、モバイルバッテリの適切な使い方や捨て方、おすすめの製品についてお話をうかがった。

田邉明寛

エレコム株式会社 商品開発部
コンダクション課 田邉 明寛(たなべ・あきひろ)

モバイルバッテリについて教えていただいたエレコム株式会社・田邉明寛さん。
田邉さんも、モバイルバッテリの出火事故は増えていると実感しているという。




エレコムの田邉さんに聞く。何を基準にモバイルバッテリを選ぶべきか

まず、「中国製は危ない、日本製なら安心」という考え方についてはどうなのか。

「中国製は危険、日本製は安全…とは、もう一概には言えません。バッテリに限らず、デジタル機器のサプライチェーンは国際化をしていて、どこのメーカーでもさまざまな国で製造された部品を使っています」

では、私たちはいったい何を基準に選べばいいのだろうか。

「まず極端に安い製品というのは、できるだけ避けてください。安い製品というのは何らかの理由があります。安価な基盤を使っている、品質の劣るセルを使っているなどです。もっとも大きいのは、製造管理や製品試験を省くというものです」

製造管理とは、製造の各段階で検査を行い、不良な部品を取り除いて使わないようにする方法だ。製品試験であれば、落下試験や針刺試験を繰り返し行う。

バッテリも製造物である以上、何%かの確率で不良品が出ることは避けられない。きちんとしたメーカーはこの試験を厳しく行い、不良品が市場に出ることを限りなくゼロに近づけようと努力している。一方、不良業者はつくったものをすべて市場に出してしまう。だからこそ、安くできるというカラクリがあるのだ。その代わり、何%かの確率で事故を起こすことになる。

ところが最近は、不良業者も極端に安い値付けはしなくなっている。そのため、価格だけではなかなか見分けがつかない。そこで田邉さんは、購入するときの3つのポイントを教えてくれた。

安全なモバイルバッテリを購入するには?3つのポイントが大切

1:PSEマークがついていることを確認する

PSE(電気用品安全法)マークは、定められた試験に合格する必要があり、バッテリ以外にもハンディ扇風機などリチウムイオン電池を使った製品に取得、表示することが義務づけられている。

この表示がない指定製品は、製造、輸入、販売が違法となる。海外製品であっても国内で販売するには取得が求められるという。つまり、PSEマークのついていないモバイルバッテリは違法販売品となるため、絶対に購入してはいけない。

PSE(電気用品安全法)マーク。国内で販売するモバイルバッテリにはPSEマークを取得し、表示しないと製品を製造、販売することができない。また、マークの下に輸入事業者名を記載する必要がある。これがない製品はすべて違法販売となる。参考:日本品質保証機構公式サイト

2:信頼できるEC、販売店で購入する

「もっともわかりやすいのが、信頼できる販売チャネルで購入するということだと思います。ECだとAmazonや楽天、販売店であれば大手量販店などです。このような販売チャネルは、一定の基準を満たしていないメーカーの製品は取り扱いをしません。また、問題が生じればすぐに販売を停止するので、安心して購入できると思います」と話す田邉さん。

ただし、Amazonの場合、業者が比較的自由に出品できるマーケットプレイスではなく、販売元、出荷元がAmazonになっているものを選ぼう。

Amazonや楽天などの大手ECや大手量販店で購入するのが安心。ただし、Amazonの場合は、マーケットプレイスではなく、Amazonが販売する製品がおすすめだ。

3:信頼できるブランドのものを購入する

信頼できるメーカーの製品を選ぶのも重要だ。たとえば、エレコムでは中国を含め、世界中のサプライヤーから部品を調達して製品を開発している。

しかし、どこでもいいというわけではなく、採用する前には品質管理部門が審査をして、合格しないと採用しないそうだ。田邉さんいわく、「エンジニアがここの部品を使いたいという希望をあげたものの、社内審査でNGになったという話はよくある」という。

また、モバイルバッテリの落下試験、針刺し試験なども行っている。ただし、このようなメーカーの努力は、私たち消費者からは見えづらい。そこで、おすすめしたいのが、購入する前にメーカーの公式サイトを確認してみることだ。次の2つのことに注目していただきたい。




安全なメーカーかチェックすべき点。情報開示が大切

1:サポートの窓口がわかりやすい場所にあるか

サポートの窓口がわかりやすい場所に用意されているかどうか。電話、オンラインなど複数のサポートチャネルが用意されているかどうか。ここがしっかりしているメーカーは信頼ができるし、何か起きた場合でも対処ができる。

2:リコール情報を積極的に掲示しているか

もうひとつは、逆説的だが、リコール情報を掲載しているかどうかだ。多くの場合、「重要なお知らせ」などとして目立つ場所に掲示をしている。

サプライチェーンが国際化している現代では、どのメーカーもリコールが避けられなくなっている。公式サイトで、リコール情報を積極的に告知し、回収を行っているメーカーは信頼ができる。出典:エレコム公式サイト

現在の製品は、世界中の企業が製造した部品を使っているため、リコールが発生することは避けられない。万が一、製品に問題が発生した場合は、監督官庁に届出をする必要があるが、実は告知や回収はあくまでも努力義務でしかない。

メーカーにとっては、リコールは褒められたことではなく、回収するとなると莫大な損害を被ることになる。それでも、自社サイトに告知をし、回収を行うメーカーは信頼できる。

ただ、7月に起きた山手線内での発火事故はリコール対象製品になっていたが、所有者はそのことを知らずに使い続けていたようだ。

田邉さんによると、エレコムでは「エレコム直営ショップでお買いになられたお客様には、お届けいただいた電子メールアドレスに対象製品のリコール情報をお送りします。また、大手ECでお買いになられたお客様にも、ECを通じて通知する形でご案内をしています」とのことだ。

バッテリは生鮮食品。放置せず半年に1回の充放電を

ところで、リチウムイオン電池はなぜ発火事故を起こすのだろうか。

リチウムイオン電池は、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することにより充電と放電が起きる。その間にセパレーターという仕切りがあり、これがショートすることを防いでいるが、何らかの原因でこのセパレーターが破れるとショートが起こり、発火してしまうと田邊さんは話す。

「充放電を繰り返すことで、金属リチウムが析出します。このとき、デンドライトと呼ばれる樹枝状晶になるんですね。この枝の先がセパレーターを破ってしまうことが起きます。するとショートが起きて発火をするということになるんです」

また、長期間使用しなかったり、高温、低温で保管すると、このデンドライトが成長しやすいという。そのため最低でも、半年に1回ぐらいは使わなくても充放電を行い、70%程度の状態で保管するというのがいいそうだ。

「バッテリというのは生鮮食料品に近いんです。そのまま放置すると劣化してきます。2年から3年ぐらいで新しいものに買い替えていただくのが安全だと思います」と話す田邊さん。

また、落下をさせたときも、このセパレーターが破れてショートが起きることがある。しかし、これがやっかいなポイントだ。それぞれの発生条件が異なるため、なかなか個人での判断が難しい。落下した直後に使用し問題がないと思っていても、微細な破れが起きている可能性がある。それが使用に伴って拡大し、発火に至るということもあり得る。




高温にさらすのはNG。ながら充電は?

高温にさらすのが厳禁であることは言うまでもない。夏場に車の中に放置すればかなりの高確率で発火をする。また、やってしまいがちだが、ながら充電も厳禁だ。

バッテリが充電と放電を同時に行うことになり、内部温度が急速に上昇する。場合によっては保護回路に悪影響を与え、過充電になっても充電が自動停止してくれなくなる可能性もある。

どうしても、充電をしながらモバイルバッテリを使いたいという場合は「パススルー」(充電は行わず、電源供給だけする)や「まとめて充電」(デバイスの充電を優先し、終わってからモバイルバッテリを充電する)などに対応した、製品を選ぶ必要がある。

「まとめて充電」対応のモバイルバッテリなら、先にiPhoneに充電を行ってから、モバイルバッテリを充電できる。これなら、いち早くiPhoneが使えるようになるので便利だ。

やっぱり爆発は不安…。より安全な製品は?

それでも、まだ不安な方は、「リン酸鉄」「ナトリウムイオン」などと銘打たれた製品を選ぼう。いずれも発火のリスクが大きく低減される。

リチウムイオン電池には、正極に使われている材料の違いから「三元系」(NMC)と「リン酸鉄系」(LFP)などがある。広く使われているのは三元系だ。エネルギー密度が高いので小さくでき、なおかつ出力性能が高い。

一方、リン酸鉄系はエネルギー密度が低いため、大きくなりがちがだが、その代わりに安全性が非常に高く、寿命も長い。そのため、家庭用バッテリや電気自動車など大きな製品で使われているが、モバイルバッテリでもリン酸鉄系のものが登場してきている。

また、決定打となりうるのは「ナトリウムイオンバッテリ」だ。リチウムイオンではなくナトリウムイオンを使ったもので、安全性の面ではリチウムイオン電池よりも格段に向上している。先ほど触れたデンドライトが析出しにくい。

世界初のナトリウムイオンバッテリ「DE-C55L-9000シリーズ」。リチウムではなくナトリウムを使ったもので、安全性が飛躍的に高まり、また、レアメタルを必要としないため、環境へのインパクトも軽減される。公式ショップ価格9980円。

またナトリウムイオンバッテリでは、寿命(充放電サイクル回数)も10倍程度に向上、低温から高温まで性能を発揮と、さまざまなメリットがある。もちろん、デメリットもある。エネルギー密度が低いため本体が大きくなることと、価格がどうしても高くなる(2~3倍程度)ことだ。

エレコムは世界に先駆けて、このナトリウムイオンモバイルバッテリを発売した。45W出力も可能であるため、MacBookへの充電も可能だ。

ナトリウムイオンバッテリは、発火リスクが桁違いに低く、寿命が長く、低温と高温に強い。アウトドア用途だけでなく、防災セットにうってつけのバッテリになる。




夏は気をつけるべき理由。そして捨て方は?

田邉さんも、バッテリの発火事故は増えていると感じているという。「夏が非常に暑く、高温環境にさらされやすいこと、ハンディ扇風機などリチウムイオン電池を使う製品が非常に増えていることが影響していると思います」と語る。

かといって、モバイルバッテリを使わないというわけにもいかない。選び方によって、事故のリスクをゼロに近づけることはできるのだから、安全なモバイルバッテリを選んでいただきたい。

なお、モバイルバッテリの廃棄の仕方が面倒であるため、ついつい引き出しの中に放置してしまう、買い替えをためらうという方もいらっしゃるかと思う。バッテリの廃棄は、メーカーや地域の自治体に問い合わせをして適切に処分をする、量販店などの回収ボックスに入れるというのが基本だが、正直面倒に感じる人も多いのではないだろうか。

たとえばエレコムの直営ショップでは、バッテリの回収サービスを行っている。しかも、エレコム製だけでなく、JBRC加盟企業の製品であれば他社のものでもOKだそうだ。

実店舗ではモバイルバッテリやイヤフォンといった、バッテリ回収サービスを行っているという。出典:エレコム公式サイト

リチウムイオン電池は、扱いを間違えば発火事故が起きるというのは宿命のようなものだ。しかし、技術の進歩や社会的な取り組みで安全に使える環境が整いつつある。この機会に、お使いのモバイルバッテリの安全について考えてみていただきたい。

著者プロフィール

牧野武文

牧野武文

フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。

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